避難所へ避難するための判断基準

 「被災しそう、または被災したら避難所へ避難する」というのが災害対策ではよく言われますが、自治体が作っている避難所の圏域人口と収容人員にかなりの開きがあることをご存じですか。
 自治体の作る地域防災計画では、避難所は自宅が倒壊したりひどい損傷を受けて生活の場にすることができない、または他所から来て帰宅できるまで生活できる拠点がないという人を収容する想定で考えられています。
 そのため、台風や水害などあらかじめ避難する場合を除いては「在宅避難」が前提とされています。家屋の耐震補強が勧められているのも、地震で家屋がつぶれないようにすることで生活者の命を守ること、そして在宅避難ができる環境を維持することが目的と考えることができます。
 そう考えると、地震で被災したときには2段階で避難所へ避難をするかどうかの検討をする必要があります。

1.家屋の危険度を見極める

 家屋本体にどのような損害が出ているのかを確認します。
 次に周辺家屋が自分の家屋に被害を与えないか、火災・液状化現象・津波などの二次災害が起きていないかを確認します。

以上の確認をして、とりあえず建物が余震に耐えられそうかどうかを確認します。
本格的な被災状況の確認は自治体が実施する「応急危険度判定」に任せるとして、とりあえずは目で見て問題がなさそうなら次の確認を行います。

2.生活できるかを確認する

 自分の家屋の内部が生活可能かを確認します。他人の支援が必要な人や健康に不安のある方は、自身の生活が維持できないと判断したら避難所へ避難します。
 片付ければ住めるのであれば、生活できる空間作りを優先し、在宅避難をするようにします。例えば窓ガラスが割れていて散乱しているようであれば、割れたガラスを片付けて、窓ガラス代わりのブルーシートなどを使うことで、居住空間を確保することは可能です。
 また、自宅が住めなくても納屋、テントを張れるような庭などがあれば、そこを居住空間にすることが可能です。

 避難所への避難は、被災者全員では無く、生活弱者や住む場所を失った人が行うようにします。そうしないと、避難所に人が収容しきれずに避難所としての機能が麻痺することになってしまいます。
 よく騒動の元になることなのですが、「避難所に避難しないと支援物資がもらえない」は誤りです。避難所は支援物資の拠点になっていますが、そこで物資を受け取ることができるのは、避難所への避難者だけではなく、在宅や避難所以外に避難している被災者全てです。
 このことは災害対策基本法にしっかりと明記されている(災害対策基本法第86条の7参照)のですが、自治体職員も含めて知らない人が多いので、避難所運営訓練などでは避難所への避難者以外も対象になることをしっかりと関係者で情報共有しておく必要があります。

 また、避難所へ避難する場合には、電気のブレーカーやガスや水道の元栓をしっかりと締め、できる限りの戸締まりをしっかりとしてから避難するようにしましょう。

被災者支援の「平等と公平」

 日本の被災者支援では「平等」が求められるようで、そのため、支援物資が入ってきても全員に配れないものは配布されなかったり、一部の人にしか必要とされないものはいらないと断られたりすることも、過去の災害では起きています。
 でも、「命を守る・命をつなぐ」という視点で見ると、平等は「不平等」だと感じます。
 例えば、健康な成人男性と3歳児が飲まず食わずでどれくらい持ちこたえられるかを想像してみてください。
 恐らく、成人男性の方が3歳児よりも長く生きることができるはずです。
 平等という考え方でいけば同じ量が同じ時期に支給されない限りは食事は配れないということになりますから、放っておくと3歳児は成人男性より先に死んでしまうことになります。
 また、生理用品については女性は必要としていても男性にとっては必要の無いものですので、人によっては「こんなものいらない」と運営者が返品してしまうことも起きえますし、実際に東日本大震災で起きたとも聞いています。
 「全ての人に全てのものを」という発想で行くと、必要の無い人にいらないものが届き、必要とする人には必要数に足りない量が配られるという悲しい事態になってしまいます。
 ところで、似たような条件の難民支援では「必要なものを必要な人に優先順位に従って届ける」ことがルール化されています。
 生命力の弱い人を始めとする支援の必要な人から優先して必要な物資を届けることで、無駄もなくなり、安心して命をつないでいくことができるからです。
 避難所運営においては、あちこちから届くさまざまな支援をどのように分配するのかが必ず問題となりますが、その際の視点は「平等」ではなく命をつなぐための「公平さ」が必要なのではないかと考えます。
 避難所を開設して運用をするとき、その避難所にどのような人が居るのかを把握し、届けられる物資をどのように配分すれば避難者全てが命をつなぐことができるのかに配慮した視点をもち、物資を配布する前に配布の仕方をルール化しておくことは絶対条件です。
 声の大きな人や気づいた人が優先的に物資や支援を受けるのではなく、必要な人に優先度に応じてきちんと物資や支援を届けることが、避難所の運営ではなによりも重要だと考えます。
 ただ、この公平さは行政機関では対応ができない部分です。日本の行政機関は「住民全てに平等に」という原則がありますので、できれば避難所の運営を行政職員以外の自治会や自主防災組織が行った方がトラブルが防げます。
 さまざまな支援に対して、自分に必要ないから拒否するのではなく、その支援が必要なのはどのような人なのだろうかという視点にたって使い道を考えていきたいものですね。

広域避難の受け入れ計画は大丈夫ですか?

 平成31年3月末時点の「原子力災害に備えた島根県広域避難計画」の付属資料が公開されました。
 それによると、島根原子力発電所で何らかの大規模放射能漏れが発生した場合には、島根原子力発電所から30km圏内の住民は全て避難対象となっているようです。
 その数、121,460人。
 その中で、県内避難先として益田市、津和野町、吉賀町も入っており、益田市が17,950人、津和野町が1,970人、吉賀町が1,430人を受け入れる計画になっています。
 原発事故による避難はほぼ着の身着のままで生活物資も殆ど持たずに逃げ出すことになることが多いので、この数の人がもし避難してきたとしたら、その人達に対する支援はどうなるのでしょうか?
 現在の人口の2割から4割くらいの人が避難してくるわけですから、それまでの生活物資の流れのままでは、そこに住む住人達の通常の生活ですら破綻することになってしまいます。
 東日本大震災で広域避難自体がそこまで大きな騒ぎにならなかったのは、背後に首都圏という超巨大な物資集積地があり、避難者の数も避難先の住人の数に比べれば少なく、太い物流を活用できたためで、中国地方では岡山市や広島市も含めて首都圏ほどの太い物流網はありませんから、避難先の土地でさまざまな物資が不足することが簡単に予測できます。
 居住民の物資が欠乏するとその恨みは物資を消費する避難者に向けられるわけで、これに対する対策も事前に決めておく必要があります。
 どうしたら物流を滞らせずに増えた人口を安定して食べさせることができるのか? 避難所のトイレやライフラインの問題はどうすればいいのかなど、検討し、決めておかなければいけない問題は 山積みのはずです。
 もちろん行政機関だけの問題ではありません。受け入れ先として予定されている学校などの各施設は、避難者を収容するとその間授業などの通常業務はできなくなると考えた方がよさそうです。
 渋滞や犯罪の問題も起きるでしょう。自治会や自主防災組織、学校、企業など、それぞれに検討しておく課題は存在します。
 今現在、去年くらいからようやく広域避難の訓練が始まりましたが、受け入れ側の受け入れ訓練はまともにされているとは言えません。
 いざというときにトラブルが起きないように、付属資料の避難受入候補地を確認していただいて、受け入れた後どうしたら地域に問題が起きずにすむのかを考えておく必要があると思います。