知っていること、できること

 災害対策に限りませんが、どんなことでも知っているということとそれができるということはまったく異なるものです。
 防災に関しても、多くの人は頭ではやらないといけないことは理解していると思うのですが、頭で理解しているだけで、いざというときにはまったくできていないということが非常に多いです。
 災害後によく「想定外だった」や「想像していなかった」「予想していなかった」「まだ大丈夫だと思っていた」といったコメントがほぼ必ず毎回出ているのは、頭で理解していると思っていたことができていなかったということの証明になるのではないでしょうか。
 避難訓練や災害対策のあれこれは、わかっているからしなくても大丈夫という方が結構いらっしゃいますが、知っていることとできるということが違うということを理解しておいてほしいと思います。
 頭でわかっているつもりでも、実際にやってみるとさまざまな齟齬が発生するものです。齟齬が出るからこそ、しっかりとした訓練をするわけですし、訓練後の修正点や反省点を確認したり、対策について見直したりすることをしておかなければいけないのです。
 訓練はうそをつきません。
 知っているだけではできませんし、訓練をやっている分だけは、いざというときにも体がしっかりと動くはずです。
 知っていることとできることは全く違うのだということを理解したうえで、防災活動にしっかりと参加していってほしいと思います。

機能を止めない方法を作っておく

どのようなお仕事でも、その仕事が無くなったら困るという方が必ずいるはずです。
特に人にかかわる仕事の場合には、災害でその機能が止まるとさまざまなところに大きな影響が発生しますので、平時に対策をきちんと立てておくようにしてください。
特に保育園やこども園といった小さな子供を預かる施設、高齢者を受け入れるデイサービスなどは、その機能が止まってしまうと家族はその世話をすることになってしまって、おうちの片づけすらできないことになってしまうので、代替策を準備し、災害が発生した時には速やかに代替手段に切り替えるようにして、家族が復旧に専念できるような体制を構築しておく必要があります。
そのためには、保育園やこども園、デイサービスといった施設の職員さんのおうちの災害対策がしっかりとできていなければなりません。
施設のBCPはその施設だけで完結するものではなく、施設にかかわるあらゆる人やもの、組織といったところも含めての対策を作る必要があります。
施設だけではなく、さまざまな企業や組織においても同様です。
自分のところの仕事だけでなく、周囲の人やもの、組織とも連動してBCPを構築することが、地域の素早い復旧のための重要な項目となります。

箱わな、どんなものが来る?

 箱わなはわなの中では取り扱いがしやすく、比較的安全な捕獲道具です。
 そのため、ホームセンターでも小型の箱わなはよく売られているのですが、野生動物を捕獲するのは、原則として有害駆除の許可が必要だということは覚えておいてください。
 ただ、悪さをするから捕獲しようとして箱わなを仕掛けても狙っている動物がかかるとは限りません。多くの場合、関係ない生き物がかかってしまって、箱わなから追い出すのに苦労することになります。
 小型動物用の箱わなだと、よく引っかかるのはネコ。蓋が閉まっているのでしめしめと思ってみたら、不機嫌な猫がいたというのは、小型動物用の箱わなをかけたことのある人なら経験があるのではないでしょうか。また、箱わなを仕掛けるときには、中に誘導するためにエサを撒きますが、下手にこれをすると単なる餌づけになってしまうことがあることも悩ましいところです。


 現在運用しているイノシシ用の箱わなは結構大きなものを使っているのですが、ここひと月ではタヌキ、アナグマ、アライグマ、からす、スズメ、テン、そして野ウサギが来ていて、肝心のイノシシは影も形も見えません。
 狙っている獲物を捕まえるのは相当難しいということと、寄せないように防除をするほうが結果的に簡単なことも多いということを知っておいてほしいなと思います。

中間支援組織の必要性

 災害現場に行くと必ず出会うのが、ボランティアと被災者ニーズのミスマッチです。
 特に行政側の人数が絶対的に減っていることで、被災者ニーズの把握がかなり困難になってきています。
 最近では倒壊危険家屋などで作業ができたり、重機を使ってさまざまな作業をしたり、介護や看護を行う専門ボランティア団体も増えてきて、被災者のさまざまなニーズに対応できるような体制になりつつありますが、受け入れ態勢や支援希望者とのマッチングといった作業が遅々として進まないという現状があります。
 災害後には行政の仕事は莫大な量になるため、被災者支援、特に復旧支援については後回しになり、社会福祉協議会などが設置するボランティアセンターなどにお任せになってしまうことが多いのですが、ボランティアセンターに集まったニーズが、専門ボランティアに共有されるのにはいろいろな壁があるようです。
 この被災者のニーズと専門性を持つ専門ボランティアをうまくマッチングさせ、いち早い復旧を目指すための後方支援をするのが中間支援組織です。
 実際に大規模災害の被災地では行政だけでなく、さまざまな支援団体から構成される復旧支援会議が行われますが、こういった会議の開催や運営の支援を行うのも中間支援組織になります。
 しかし、この中間支援組織はなかなか形が見えにくいもので、平時にどのような運用をすべきなのかについては、現時点では答えがない状態です。
 ただ、平時から構成しておかないと、非常時にいきなり立ち上げてもうまくいきません。
 現在さまざまな団体がこの中間支援組織の具体的な形作りを模索しているところですが、この形は、ひょっとしたら地域によって正解が異なるのかもしれないと思うこともあります。
 これから大災害が起きた時、膨大な被災者と膨大な支援者をつなぐための中間支援組織。平時からさまざまな団体が連携できる場を作り、それをつなげることで大きな輪にできないか。
 現在当研究所が考えている大きな取り組みの一つです。

まずは試してみよう

 災害対策で個人ができることでは、さまざまな人がさまざまなことを言っていて、それらを見ている分には面白いものです。
 誰が言うことにもそれなりの根拠がありますし、それなりに必要だなと思わせるような内容もあります。
 中には「それ絶対無理」というようなとんちんかんなものもありますが、机上ではいろいろなことが考えられますから、それもありなのかなと思います。
 では、どうすればいいのかというと、いろんな人が言っているいろんなことのうち、自分が「そうかもな」と思うことを試してみましょう。
 例えば、災害時のトイレ問題で「おむつをつければいい」というのがあります。大人用おむつもありますし、介護の必要な人もつけていますから、それもありかなと思う人も多いのではないでしょうか。
 もしも「あり」だと思ったら、実際に一度やってみてください。
 正直なところ、筆者は二度とやりたくありません。微妙に濡れた感覚を履いたままというのは耐えられませんでしたし、大きい方など考えたくもありません。
 筆者自身は、その経験のあとは仮設トイレを充実させる方向に舵を切りました。
 でも、人によっては「おむつで問題ない、快適」という人もいるわけで、自分に合うかどうかは試してみないとわからないというのが正解です。
 ただ、災害発生時にぶっつけ本番は止めておきましょう。
 いろいろなことが自分にあっていればいいのですが、合わない場合には最悪の状況を生み出すこともあります。
 人の意見はたくさんあって、中には相互に矛盾したものもたくさんあります。
 どちらが正しい、誤っているというわけではなく、自分にあったものを選んで備えることを考えれば、まずは「試してみる」ことが一番だと思います。
 少しお金はかかるかもしれませんが、発災時、そして発災後の自分の生活環境の質をできるだけ落とさないようにするためにも、どんなものでもまずは試してみてください。

被災後は暇にしない

日本の災害では、被災者の方をお客様にしてしまうことがよくありますが、被災者の方を完全なお客様にするのは止めた方がよさそうです。
というのも、やることがある人はともかく、「被災して大変だから」と何もさせない状況にしてしまうと、人間ロクなことを考えなくなるものです。
特にお年寄りにはこの傾向が強いのではないかと感じていますので、できることをどんどんお願いしていくような体制を早い段階で構築しておくとみんなが幸せになれます。
日中、家や職場の片づけや仕事がある人はそちらに専念してもらって、やることがない人は避難所の運営や地域の仕事にどんどん協力してもらいましょう。
忙しいと、悪いことを考えている暇が無くなりますし、なによりも仕事をやっているという充実感があるものです。
どんな人でも、大抵何かはできます。
避難所の運営者や地域のまとめ役をしている人は、誰がどんな仕事なら、どうやればできるのかについて考えて、どんどん仕事を振り分けていきましょう。
そうすることで、相対的に自分でないとできない仕事だけが手元に残りますし、仕事が回りだすと状況もよくなるものです。
被災後の基本は、できる限り暇な状態にしないこと。
精神的なことが原因の災害関連死を防ぐためにも、意識しておきたいことの一つです。

乳児がいるときは液体ミルクを備えておこう

乳児にとって、災害時だろうがなんだろうが、栄養補給のためには母乳またはミルクをのむことが必要です。
では、乳児のお持ちの親御さんがどれくらい備えているかというと、母乳や粉ミルクは常備していても、液体ミルクを常備しているところはまだまだ少ないようです。
液体ミルクは賞味期限が半年から18か月と、災害食として用意するには期限が短いですし、出しているメーカーも限られていますので、現状では少ないのかなという気がしています。
ただ、災害時にはこの液体ミルクはかなり力強い味方になることを覚えておいてください。
場所がどこだろうが、容器の中には常に完成されたミルクが入っているのですから、調製する必要もなく、そして衛生面でも有利なのは考えなくてもわかると思います。
WHOが出している粉ミルクの調製法では、細菌対策で70度以上のお湯で粉ミルクを作ることが推奨されていますが、被災直後ではそういう温度を作れる材料がないかもしれません。
液体ミルクであれば、人肌程度まで温めればそのまま使えて細菌対策も出来ていますから、汚染を心配する必要は少なくなります。
もっともいいのは母乳なのですが、さまざまな事情から、母乳が使えない場合に備えて、液体ミルクを2~3日分用意しておくといいと思います。
もちろん、事前に乳児に飲ませてみて、好みの味であることは確認しておきましょう。
災害時には、母乳か液体ミルクを乳児に与えるといいということと、粉ミルクは必ず70度以上のお湯で溶かす必要があるということを、知っておいてほしいと思います。

乳児用調製粉乳の安全な調乳、 保存及び取扱いに関するガイドライン (厚生労働省のウェブサイトへ移動します)

自己責任ってなんだ?

 大雨や台風など、最近は正確な予報が出るようになって、行動の判断がしやすくなりました。
 もちろん外れることもあるわけですが、それでも安全側に行動を切り替えることで自分の安全が確保できるのであれば、それは納得できる部分なのではないかと思います。
 そして、天気予報の精度が上がってきたので、公共交通機関もより安全に運行をするため、計画運休や大雨が予測される際の運休、減便をする判断がかなり早くされるようになってきています。
 一昔は、途中で列車やバスが止まってしまって、1日以上閉じ込められているなどということもありましたが、事前に運転取りやめを判断するようになってからはそのようなことはかなり少なくなっています。
 でも、せっかく予報が出ているのに、多くの人は行動を変えません。何もないときの延長線上で行動してしまい、運休に巻き込まれて行動ができなくなるという人がかなりたくさんいます。
 天気が相当悪くなる予報が出ていて、公共交通機関も運転取りやめの情報を発信しているのに、自分は通常通りの行動をしてしまう。
 せっかく携帯できる情報端末であるスマートフォンを持っているのですし、持っていなくても、テレビやラジオなどでもこういった状況は何度も伝えていますから、毎日時間を作って気象情報や交通機関の運転状況を確認すれば、自分の行動をより安全にすることは可能なはずです。
 また、経営者は従業員の命を守る義務がありますから、計画運休や悪天候による運休の可能性が出されているときには、従業員にそれを伝え、自身を守らせる行動をしなければなりません。
 どんな立場であれ、「私は知らなかった」は理由にはならないのです。
 もちろん、雇用主や客がそういったことに無頓着な場合もあるでしょう。でも、できる範囲での自己防衛はしておかなければ、ひどい目に遭うのは自分だということを忘れないでください。
 ここ最近、発生する災害が大規模になる傾向が強いです。
 そして企業コンプライアンスが声高に言われている以上、公共交通機関は今までのように「何とかなるだろうと無理やり動かす」といったことは、まずありえません。
 それがわかっているのですから、自分の行動を自分で情報を集めて決定することは、これからは必須になってきます。
 毎日きちんと天気予報を見て予測し、天気が荒れそうなときには、公共交通機関が止まるかもしれないことを予測して行動を考える。
 それが当たり前であり、公共交通機関は何があっても止まらないという幻想は持たないようにしてください。

災害が来る前に備える

 気象予報の精度がずいぶんと上がってきて、災害が起きると予測される精度も上がってきています。
 特に大雨や台風といった、事前に予測できる災害については、割とよく当たっているなという印象を受けます。
 よく当たる、ということは、それに対して備えることもできるということで、大雨や台風で被害が出るような予測が出ているときには、普段とは違う行動、いわゆる災害への備えをしておく必要があります。
 備えておけば、被害は最低限に食い止めることができるわけで、備えないという理由はありません。仮に何事もなかったとしても、本番を想定した練習と考えれば、次回への反省点や修正箇所が発見できていいのではないでしょうか。
 災害で怖いのは夜の間にさまざまな被害が発生することです。
 一番いいのは、絶対に雨の影響のない場所で過ごすことですが、想定で避難所を開設したり、自主避難を促したりすることはまだまだ稀ですので、自分で安全確保を考えて寝る場所を決めましょう。
 例えば、浸水するような箇所に住んでいる人は、できるだけ高い場所で寝るようにしてください。また、がけが崩れ落ちてくるかもしれない場所にお住いなら、がけから一番遠くで一番高いところにある部屋で寝るようにすれば、もしがけ崩れが発生しても巻き込まれて怪我をする確率はかなり下がります。
 これも常時と非常時の切り替えで、災害が想定されるようなときにも、非常時と考えて普段とは異なる、自分の安全を確保するための行動を取るようしましょう。
 災害が想定されるような事態は、数は増えてきているとはいえまだまだ日常には程遠い回数でしかありません。
 万が一に備えて行動することは、決して恥ずかしいことでもダメなことでも時間の無駄でもありませんので、自分の命を守るために、普段と異なるより安全が確保できるような行動を取るようにしてくださいね。

ハザードマップを持っていますか

 災害に備える話が出てくるときには、ほぼ100%ハザードマップの話が出てきますが、あなたはハザードマップを持っていますか。
 ハザードマップは、大雨や洪水といった水の災害、そして土砂災害の予測がされているものなので、梅雨や台風の時期には必ず確認するクセをつけておきたい大切な防災グッズの一つです。
 自治体で配布されているはずですが、何らかの事情で自治体からの配布がない場合には、その自治体のウェブサイト、国土地理院の「重ねるハザード」で確認することができますので、必ず確認しておいてください。
 できれば、紙に印刷してよく見る場所、例えば玄関やトイレの壁といった場所に貼り付けておくと、知らないうちにあなたのいる場所を含む地域のハザードが頭に入っていると思います。
 人間の行動や考え方には、まだまだデジタル機器はなじんでいません。また、デジタル機器は発災時には動かなくなる可能性がありますので、誰でもすぐに見ることのできる紙媒体は重要です。
 手持ちのハザードマップには、できれば避難経路も書き込んでおきましょう。
 複数の避難先を確保して、それぞれに安全だと思われる避難経路を設定して記載しておけば、実際に緊急で避難しなければならないときでも迷うことなく避難が可能です。
この記事を書いているのは2023年6月7日。翌日くらいからまた大雨が降る予報が出ています。
 今からでも十分間に合いますから、ハザードマップを確認して、自分が安全に過ごせる行動を練っておいてほしいと思います。

重ねるハザードマップ(国土地理院のウェブサイトへ移動します)