「災害=避難」と考えている人も多いと思いますが、実際のところ、避難所を使わなくても大丈夫だったり、避難所が危険だったりする場合もあります。
では、どのように避難を考えたら良いのでしょうか?
今回は避難について少し考えてみたいと思います。
1.避難するかどうかの判断をする
避難訓練では、その地区のどこに住んでいようと全員が避難を行います。
でも、いざ本番の時に本当に避難する必要があるのかを考えておかないといけません。
家はなんともなかったのに、避難の途中で災害に巻き込まれてしまったというような場合もありますので、まずはその場所から避難する必要性があるかどうかを考えましょう。
いまあなたが居る場所で被害が起きるとすれば、どんな災害でどんな被害でしょうか?
そして、その被害は避難をしないと避けられないものですか?
被害を考えて、それに対しての行動を考えますが、避難はその一つでしかありません。
避難所で過ごすのが難しい家族がいるとか、乳児や幼児がいるので避難所に不安がある、ペットがいて避難所に行けない等その場所から動けない理由のある人もいます。
その場合には、避難しないという選択肢も考えてみます。
大切なのは命を守ることですから、避難しない場合に問題になることを考え、安全が確保できなければ、避難所以外に避難することも考えておく必要があるでしょう。
2.いつ、どこへ避難するかを決める
地震以外の災害の場合には、殆どの場合予兆があります。
いる場所が発生しそうな災害に耐えられないと分かっている場合、いつの段階で避難を開始するのかが、実はかなり大事な問題になります。
早めに避難をすると、使える手段も避難先もたくさんありますが、その分空振りが増えますし、何よりも落ち着きません。
災害が起きてからの避難だと、使える手段も避難先も限定されてしまいますし、どこで災害に巻き込まれてしまうのかがわからない。
この判断はあなたの健康状態や経済状態、交友関係によってどうすればよいのかが変わってくるので、判断が難しい部分です。
できるなら、空振り上等で早めの避難をおすすめします。
避難先ですが、あまりに早い避難だと、避難所が開設されていない場合があります。
大雨や洪水の場合、実は避難所の開設条件はまちまちです。調べた限りでは「避難準備・高齢者避難開始」情報が発令されて開設される場合が多いようですが、あなたのお住まいの地域の避難所の開設条件はどうなっているでしょうか?
自助が叫ばれ、「ちょっと危険かも」と感じて避難しようとしても、避難所の開設条件が満たされていないと、受入を拒否されてしまう場合があるのです。
最近の災害の傾向を見ると、以前に比べて随分と開設が早くはなっていますが、大規模かつ短時間で発生する災害も増え、市町村が避難の指示を出すときには、すでに避難できない状態ということも増えていますから、自分で打てる手を考えなければいけません。
この場合、対策は二通り考えられます。
一つは、自主防災組織や自治会、どうにもならなければ個人で、避難所予定の施設と予め交渉し、行政の開設指示がなくても避難者として受け入れてもらえるようにすることです。
例えば警報が出た段階で受入を開始してもらうなどという風に、地域の条件に応じて避難所予定施設と避難時の受入条件を決めておくと、いざというときに助かります。場合によっては避難所予定場所に対していくばくかの使用料等を支払う場合も出てくるかもしれませんが、命には替えられません。
もう一つは、避難所ではないが受け入れてもらえる安全な場所を決めておくこと。こちらは、例えば、ご近所や親戚、友人宅。施設のショートステイ。あるいはホテルや旅館といった宿泊施設などが該当します。
ご近所や親戚、友人宅、施設の場合には、予め了解を得ておくと後でトラブルにならなくて済みますし、知り合い同士なら、お互い助け合うという約束をしておくと、お互いに安全が確保できてより良いでしょう。
局地的な大雨や台風などであれば、針路から外れている場所に小旅行を兼ねて出かけてしまうのも有りです。
年に数回あるかないかのことなので、複数の宿泊施設をリストアップして、「危険かな?」と感じたときにはさっさと予約をとって移動してしまうようにします。
「避難=避難所」ではなく、自分の命を守ることを前提にして、避難先を複数準備しておくことが大切です。
3.避難する手段を考える
避難する手段は、避難する経路と同じで、避難を開始する時間が早ければ早いほど、さまざまな手段を利用することが可能です。
「大雨警報」や「避難準備・高齢者避難開始」情報で避難を開始すれば、移動手段の規制はありませんから避難に車を使うことができます。
タクシーも使えますから足や身体の不自由な方でも安心して移動ができますし、自家用車なら、避難所が開設されていなくても車そのものを避難所として利用することができるので、おすすめの方法です。
ただ、お手洗いの問題がありますので、その場合には避難予定先のトイレの状態は事前に確認しておきましょう。
「避難勧告」や「避難指示(緊急)」が発令されると、この時点では原則として徒歩での避難となります。
近くの避難所まで歩いて移動することになりますので、持ち出し用防災セットを忘れずに、急いで避難しましょう。
ところで、避難する際にはシニアカーは使わないことが基本です。
シニアカーは重心を下げるためにモーターやバッテリーが路面に近いところに設置されています。そのため、移動中に水に浸かり続けると動けなくなりますし、漏電の可能性もあります。また、路面が割れていたり、落ちてきたり流れてきたブロックや瓦や木を踏んだりして転倒する危険性があります。
便利ではありますが、身を守ることを第一に、自力で避難するようにしましょう。
自分で避難ができないと思われるときには、自主防災組織等の要支援者リストに掲載してもらい、手助けしてくれる人と、普段から顔つなぎをしておきます。
いざというときには避難の手助けを受けて、安全に逃げられるようにしておきましょう。
4.避難する経路を考える
自宅が危険だと判断して避難所に移動する際、避難経路や手段が安全でなければ避難する途中に遭難することがあります。
過去の災害でも、この避難の最中に遭難というケースが結構あり、その都度、防災を担当している市町村が批判されています。
自分で自分の命を守る準備がしてあれば、避難中の遭難はほぼ起きないと思われるので、避難先と経路が決まったら、避難する経路を考えてみましょう。
当たり前ですが、避難する時間が早ければ早いほど、選択肢はたくさん存在します。例えば、「大雨警報」や「洪水警報」の発令で避難を開始した場合、どこへでも避難できますし、どんな手段でも使えます。
せいぜい車の避難のときにアンダーパスや低地が冠水している可能性があるので、それを避けることくらいでしょうか。
ところが、「大津波警報」や「避難指示(緊急)」が発令されると、避難できる場所はかなり限られますし、避難も徒歩以外は使えないという状態になります。
そんな事態に追い込まれないようにしなくてはいけませんが、そんなときに備えて、どの経路を通って避難するのが一番危険が少ないかを検討しておきます。
理想は水没せず、崩れない場所を通ること。赤道や里道と呼ばれる昔からの道は、そんな場所を考えられて作られていることが多いようです。また、なるべく高いところを通るようにします。
最近増えている「津波に対するその地点の海抜高度表示」や「ハザードマップ」「過去の災害の伝承」を確認し、海抜表示の低いところやハザードマップで浸水域の深いところ、過去に被害のあったところを避けた避難経路を作ります。
出来たら、実際に避難先まで歩いてみましょう。
ちゃんと移動できるのか、避難先に着くまでどれ位時間がかかったのかを記録します。
その際、側溝やマンホール、ブロック塀や古そうな建物の位置など避難時に障害となりそうなものもチェックしておき、その上で、もう一度経路の検討を行います。
調べていると、経路を見直すことで、自分の地域の避難所に指定されている場所よりも安全に避難できる別の避難所が見つかったり、そもそも指定された避難所が避難所として不適格だったといった場合も出てきますので、その時には近場の別の避難所を検討します。
例え遠回りになっても、安全確保を第一に避難をするようにしましょう。
番外編・避難路が水没しちゃったら
避難は早めが鉄則ですが、例えば、30分間に100mm以上の雨がピンポイントで降って道路が川になってしまった場合、または上流で豪雨があって、気がついたら家の周りに水が迫っている場合などで、家が水没する恐れのある場合には、避難所に決死の覚悟で移動するような事態が起きるかもしれません。
また、水没して水が引かないため、安全な場所まで移動しなければならない場合もあるでしょう。
おまけとして、避難経路が水没しているのに避難しなければならない場合を考えてみます。
避難経路の洗い出しの時に、路面にある危険な場所のチェックもされていると思います。
その際にチェックした側溝やマンホール。
普段は重たくて丈夫な蓋がされている側溝やマンホールは、水圧がかかると蓋が割れたり外れてたりする場合が非常によく起きます。また、川と道の境界線もわからなくなることがあります。
普段見慣れた標識やガードレールを頼りに移動することになりますが、それが流されている場合もありますので、自分の足下には十二分注意を払わなければなりません。
水没した避難路に入るためには準備が必要です。
まず、自分の身長くらいのしっかりした棒。これは足下の直前をつついて安全を確認するためと、身体を支えるために使います。
足下は運動靴を履きます。長靴やブーツでは中に水が入ってしまうと重さで動けなくなってしまいますし、サンダルでは脱げてしまいます。
マリンシューズは、靴底が薄いため、何かを踏み抜いて怪我をする可能性がありますので、出来れば避けてください。
マジックテープタイプの運動靴なら、しっかり固定できる上に脱ぎやすいのでおすすめです。
それから救命胴衣。
人が水中で安全に移動できるのは、膝下までの深さ、流速50cm/sまでとされています。
水深がそれ以上になれば身体が浮いて流される危険性がありますし、流速が早ければ足下をすくわれ、やっぱり流されてしまいます。
でも、救命胴衣をつけていれば、万が一流されたとしても、生き残れる可能性は高くなります。
救命胴衣には浮力が明記されていますので、自分にあったものを選んでください。
具体的には「自分の体重÷10+1kg以上」の浮力があれば大丈夫ですが、浮力が大きくて困ることはありませんので、あとは予算と相談してください。
そして、当たり前ですが着用は必ず一人で一着です。
あとは防水リュックに着替えとタオルなど濡れた身体を乾かすものと、できればカイロなど身体を温められるものを用意して積め、避難完了後には濡れた身体を速やかに乾かし、保温できるようにしてください。
濡れたままだと体温が低下し、夏場でも低体温症になる可能性があります。
ところで、これだけの準備をしても、安全に逃げ切れるかどうかの確証を、私は持てませんでした。
結局、早い避難が一番安全ということで、周囲にしっかりと目を配り、早めの避難を行うように心掛けてください。