安全と経費

 講習会などで安全の確保の話をすると、ほぼ必ずといって良いくらい「安全確保にかけるお金が無い」という話が出てきます。
 非常用持ち出し袋の話をすると、市販品は高いから買えないとか、どうせタンスの肥やしになるといったお返事が。
 耐震補強の話をすると、耐震診断や耐震補強にかけるお金がない。
 ではどうやって命を守るのだろうかと聞くと、「その時になって考える」とか「それまでには死んでいる」といった答えでがっかりします。
 安全はある程度まではお金で買うことができるものです。一度にお金をかけるのは大変でも、少しずつでも準備を進めていけばそれだけ生き残れる確率は上がります。
 例えば、非常用持ち出し袋の準備では、無理に市販品を買わなくても自分で少しずつ買い足していけば自分にぴったりのものができます。
 家の耐震補強は無理でも、寝室を一階から二階へ移すとか、寝室だけ耐震補強するとか、耐震ベッドを置くとか、少ない経費でできることはいろいろとあります。
 確かに、よいものを一度に揃えても、使わなければタンスの肥やしですし、使えなければ意味がありません。
 非常用持ち出し袋に必要とされるものは人によって異なります。
 防災用品はものによって値段もいろいろですから、まずはお試しの品物を準備し、実際にキャンプやピクニック、BBQなどで使ってみて、必要性を感じたら高性能なものを準備していけば失敗はないと思います。
 今は百円均一ショップでもさまざまな防災グッズが売られていますので、それらで試してみるのも楽しいと思います。
 高額なものよりも百円均一ショップのものが性能がよかったり、やっぱり百均かぁとがっかりしたり。そういったことを繰り返していく中で自分だけの装備が揃っていくのです。
 ちなみに、雨具だけはできるだけ透湿性の高いアウトドア用の機能を持ったものを準備すべきだと思っています。
 登山など長い時間着用しても快適に過ごせるように作り込まれていますので、暑さ寒さをしのぐウェアとしても快適に使うことができると思います。
 せっかくこの世に生まれた命です。災害なんかで死んでしまうのはもったいないと思います。いきなり全てを完璧にすることは無理でも、できる範囲で備え始めれば必ず役に立ちます。
 防災関係の予算を支出する優先度を少しだけ上げて、自分の命を守って欲しいなと思います。

備えよ、常に

 新型コロナウイルス対策で現在お休みしていますが、当研究所が防災のさまざまな講座をするときに、「災害で死ぬと思っているかどうか」を伺うことがあります。
 不思議なのですが、災害で被災したり死ぬ人が出たりすることは想定していても自分が死ぬことは想定されていないようで、参加している方は一様にきょとんとされ、お話を進めていくと半分くらいの方が「ああ、そうか」という表情になっていくのが毎回の流れになっています。
 どのような災害であっても「死ぬ可能性」というのは絶対に0にはなりませんが、災害対策というのは「死ぬ確率をできる限り0に近づける」ためにできうる限りの手を打っておくことです。
 この「死ぬ」というのは物理的な死だけでなく、経済的な死や人や地域との関わりが死んだり、心が死ぬことも含めています。一口に「死」と言ってもいろいろな切り口が存在するもので、いろいろと考えておく必要があることです。
 困ったことに、当事者になって初めて「こんなはずではなかった」と困惑したり文句を言ったりする人がいます。そしてそういった人は決して少数ではありません。
 リスクマネジメントでは、最悪の事態に備えてさまざまな準備をします。被災した影響を限りなく0に近づけるための努力をしておくことでいざ災害のときにも慌てずに対処ができます。
 「怖いから」「準備が無理だから」「考えたくないから」といった理由で、今までは災害は起きないことにしてきました。現在の新型コロナウイルスについても、自分たちが被災することは想定していなかったために現在の大騒動が起きています。
 そして、残念ながら現在大騒ぎしていても、収束して数年もすれば過去の出来事の一つとなって備えを忘れていくのではないかと思います。

「備えよ、常に」

 いざとなって後悔しないように、どうすれば自分の死ぬ確率をより低くできるのかを考えながら、今自分にできることをしていけばいいのではないかと思っています。