自分の命は自分で守る

 災害対策でもっとも重要なことは、「あなたの命を守るのはあなただ」ということであることをご存じでしょうか。
 例えば、いくら行政が災害対策をしても、それはあくまでも面的な整備ですし、整備がされたからといって絶対に安全だと言えないことは、東日本大震災の津波対策が証明しているところです。どんなに立派な堤防を作っても、巨大な防波堤を作っても、軟弱地盤の地盤強化をしたとしても、想定以上の災害が襲ってくればひとたまりもありませんし、想像できる最悪の事態に備えて施設整備を行ったとすれば、その金額と工期はいずれも天文学的な数字になってしまうことでしょう。そして、災害対策で行われる施設整備はあくまでも一つの災害に対してであり、複合的に災害が起きてしまうと、手の打ちようがない事態が起きることも考えられます。
では、なぜ巨額の予算をかけて行政がさまざまな災害対策をしているのかと言えば、少しでも人命や財産が失われる確率を下げること、そして避難するための時間を作り出すためです。
 この想定は、住民が安全な場所に避難することが含まれています。つまり、あなたが自分で安全に避難する経路と、身の安全を保証してくれる場所をきちんと決めているということが前提条件になっているということです。
 何がどうなったらどこへどんな手段で避難を開始するのかということと、状況が収まり、自分の避難を解除するタイミングもあらかじめ決めておくと、いろいろと悩まなくてもすみます。
 あまり意識されていないとは思いますが、自治会や消防団、行政機関があなたの命を守ってくれるのは、災害が収まった後の復旧・復興部分であって、災害時に「逃げろ」と声かけに回ってくれることはあるかもしれませんが、あなたの命を守りきる責任は、当たり前ですが負っていません。
 命さえ無事であれば、あとはなんとかなります。まずは安全な場所に逃げて自分の命を守ること。
 これだけは忘れないようにしておきたいものです。

アルファ米のエビピラフを食べてみた

 アルファ米にはさまざまな種類が出ていて、一通り食べるだけでも結構な時間が必要だなと考えています。
 さて、去る11月2日に江津市で行われた防災セミナーinしまねに参加したのですが、島根県が主催して開催する防災講演会では結構な頻度でアルファ米が配られているような気がします。
 今回食べてみようと思ったエビピラフも、実はこの講演会でいただいたもの。
 講演会で配られるアルファ米はたいていの場合保存食の入れ替えのために配られるので賞味期限ぎりぎりのものが多いのですが、今回のやつは2021年まで、わりとしっかりと期限がありました。
 このエビピラフ、封を切ると中にはいつもの小さなスプーンと脱酸素剤、そして小さな銀の袋が入っていました。
 銀の袋はエビピラフの粉末調味料で、お湯を入れる前に袋に入れろと書いてありましたので、まずはこれを加えます。


 それから、お湯を注ぎます。内部にある注水線まで、沸騰したお湯を注いでいきます。
 それが終わったら、しっかりとまぜまぜ。説明書きにも20回は混ぜろと書かれています。
 混ぜ終わったら、封をして待つこと15分。

製造元はアルファ食品。アレルギー27品目の中の対象が割と多い。


 できあがって封を開いたのですが、鼻が悪いせいか、ピラフのような香りはしていません。
 お茶碗に出してみます。具として入っていた乾燥したエビや卵はしっかりと戻っていますが、色は白米とそんなに変わらない気がします。
 一口食べてみると、ちゃんとエビピラフです。内容量が270gあったので、お茶碗3杯につけて3人分としていただきました。


 さて、この評価ですが、味の濃いものを食べ慣れているのであれば問題なしですが、薄味の好きな方は投入する粉末調味料の量を調整するか、別に作った白米にあわせて混ぜてもおいしく食べられると思います。
 内心ではきわものかなと思っていたエビピラフですが、想像に反してとてもおいしかったです。小学生以上の子どもたちには結構受けがいい感じがしました。

災害で死んではいけないわけ

 大きな災害が起きて避難が必要なとき、高齢者の方などには「どうで死ぬからほっといてくれ」と言われる方がいますが、こういった人たちはもし災害で本当に人命が失われると、その後何が起きるのかについて考えたことがあるのかなと思います。
 例えば、もし避難の必要な状態に置かれているのに避難に抵抗していたら、地域によっては自治会や消防団といった人たちが避難させようとして説得をするでしょう。そして「死んでも構わない」という主張をいくらしても、助けようとする人はぎりぎりまで説得を続けてしまいます。結果としてそういった人たちを巻き込んで死んでしまうことになるでしょう。現に東日本大震災ではそういうやりとりの中で多くの消防団員や行政・福祉関係者の方が殉職されました。
 また、災害に巻き込まれて行方不明になってしまえば、この国では遺体が見つかるまでできる限りの人や資材を投下して探す文化がありますから、それをするため、本来は生存者に向けられるべき人や資材が行方不明者の捜索に当てられてしまいます。
 生き残った人に十分な人的戦力が回せないわけですから、場合によってはせっかく生き残ったのに支援不足で亡くなって人が出てきてしまうかもしれません。
 さらには、遺体が見つかるまでは慎重に土砂などの撤去作業を行うことになりますから、復旧復興が相当遅れることにもなってしまいます。
 避難中や避難途中のトラブルで残念ながら亡くなってしまうことがあるのは避けられないかもしれませんが、自らの意思で、災害で死ぬことは周囲に多大な迷惑をかけることになってしまうのです。
 ざっとしたイメージしかできないとは思いますが、こと災害に関しては、災害で生き残るためのできるかぎりの努力をしなければならないことを覚えておいていただけるといいなと思います。

スタートアップで調達してみる

 防災用品にはさまざまな需要がありますが、その需要というのはなかなか目に見えませんので大手企業が参入しにくいという特徴があります。そのため、最近はさまざまな個人や団体が資金調達用のサイトを活用して資金を集め、ピンポイントで需要に応えるような製品を作り出すことが増えているような気がします。
 スタートアップを行うような人は、基本的には「あったらいいな」を形にするために資金調達をお願いしていますから、もしも自分がほしい製品があればそこで資金を出資し、自分が欲しい「あったらいいな」を割安で手に入れることができます。
 正直なところ、実際にどのような製品が来るのかはわからないというところはありますが、そこは資金調達サイトに書かれている調達したい理由や目的、製品の説明や熱意などを読み取ることである程度予測するしかないと思います。
 見ていると「これは欲しいなぁ」というものから「それ、いるか?」というようなものまでありますが、自分の必要なものを考えたときに、こういったところを使ってみるのも一つの方法だと思います。
 最近では資金調達サイトに「防災」のカテゴリーができているところもありますから、そこを見てみることで忘れていたものや見落としていたものを見つけることができるかもしれません。
 もしも「こんな機能が欲しいんだけどないなぁ」と思っている人がいたら、一度スタートアップのホームページや資金調達サイトを覗いてみるといいのではないかと思いますよ。

バケツは万能アイテムです

 災害後に必要だなと思うことの多いアイテムの中に「バケツ」があります。
 水の配給時はもちろん、赤ちゃんの沐浴や洗い物、ゴミ捨て、洗濯など、一つあるのとないのでは大違いなのですが、残念ながら普段の生活ではあまり使うことがないかもしれません。
 最近では折りたたみの出るさまざまな種類のバケツが売られるようになり、アウトドア用品や釣り具、そして工具売り場などでさまざまな大きさのものを扱っています。
 欲張って大きいのを買っても大は小を兼ねない世界ですので、中身が入っても自分で持ち運びできる程度のものを選ぶとよいと思います。
 一つ気をつけるとすれば、中身が入っていなくても自立するタイプのものを選ぶようにしてください。
 中にはとてもコンパクトなものもありますから、赤ちゃんがいるおうちでは、そういったものをお出かけセットに一つ加えてもいいかもしれません。

 非常用持ち出し袋に折りたたみバケツを一つ。忘れないでくださいね。

遊び方を身につけておこう

 どんな災害であれ、一度被災するとそこからの復旧は長期戦になります。
 かつては電気はすぐ復旧すると言われていましたが、ここ最近の災害を見ていると必ずしもそうとは言えない状況になってきています。
 大人子ども問わず、電気の必要なスマートフォンやゲーム機で遊ぶのになれていると、災害で電気がない状態は非常に長くそして退屈になってしまいます。
 では、停電時に退屈しない・させないためにはどうすればいいでしょうか。
 それはカードゲームやボードゲームなど、電気を必要とせず、人が集まっても困らない遊びを用意しておくことです。
 ルールがわからないと面白くありませんし、そもそも興味もわかないと思いますから、普段からそういったゲームに親しんでおくことが必要ですが、何か集中できる楽しいことがあると、その間は不安や退屈を忘れることができますから、時間を見つけて、家族や友人たちと遊んでルールを覚えておくようにしましょう。
 また、非常用持ち出し袋にもトランプや携帯式ボードゲームなどを入れておくことをおすすめします。

災害後は人間関係が極端化する

 災害が起きた後、被災地域を中心としてDVなどの暴力は増加する傾向があります。その暴力は、見知らぬ関係ではなく、よく知っているはずの夫婦、家族や兄弟、近所の人など、顔見知り同士であることが多いようです。
 犯罪に関していえば、家屋侵入を除くとどちらかといえば減少傾向(平成23年度の犯罪情勢ー警視庁)ようなので、災害によって人心がすさんだ結果というわけでもなさそうです。
 ただ、さまざまな報告書を見ていくと、一つの傾向として「それまでの人間関係で押さえてきたものが噴き出した」ような印象を受けます。
 暴力を振るっていた人がひどくなるのはなんとなく予想ができますが、それまでおとなしく家族思いだったお父さんが災害後には家族に暴力をふるったり、自分以外の家族にお金を渡さないといった事態が起きて、突然変貌したお父さんに家族が戸惑うというケースがたくさんあったようです。(「減災と男女共同参画研修推進センターの記事」より)
 これは普段何があっても文句の言えず家族の意見に従っていたお父さんが、災害による不安やストレスで抑えが効かなくなったのかもしれません。
 普段自分の感情や思いを押さえ込んでストレスをため込んでいる人は、災害という大きな外部ストレスに耐えきれず、感情や衝動に抑えが効かなくなってしまうことが起きます。つまり、普段の生活の中で我慢していたちょっとしたことの積み重ねが爆発してしまったといってもいいでしょうが、こうなってしまうと、それまでの生活を取り戻すことは不可能に近いですから、そうなるまえに対策をしなくてはいけません。
 その対策はたった一つ。「普段から夫婦や親子間で腹を割ってしっかりと話し合うこと」です。
 これにより、普段の生活にはちょっとした波風が立つかもしれませんが、ストレスの蓄積をなくすことで災害という極端に大きなストレスに耐えることが可能になります。また、普段から家族同士がしっかりと話し合えてれば、そこまで極端な不安に陥ることもないと思います。
 災害後には、普段我慢しているさまざまな人間関係への思いが一気に噴き出してきます。そうならないためにも、節度は絶対に必要ですが、夫婦、家族、兄弟同士でお互いに言いたいことが言える環境を整えておくことが大切です。

2019年10月29日追記
 今回引用した「平成23年度の犯罪情勢-警視庁」では検挙率も低下していることが書かれていますので、実態としてどうだったのかということには議論の余地があると思います。
 また犯罪が減少した理由として「みんな我慢している」という妙な連帯意識による窃盗や性犯罪の隠蔽もあるのではないかという気がしますが、ここではそこには触れていないことを書き添えておきます。

防災グッズを揃える優先順位

 立て続く災害のせいか、防災グッズや災害対策の本や特集を見かけることが増えているような気がしますが、これらの記事を見ていくと、さまざまなものが取り上げられていて、全部揃えようなどと思えないような金額に積み上がってしまうこともしばしば。「防災グッズを揃えたいけれど、何から準備したものやら・・・」と途方に暮れてしまうことも起きてしまいます。
 当研究所で「防災グッズ、何から準備をすべきか」ということを聞かれたとしたら、まずは「絶対に必要なものの備蓄を増やす」ことから始めてほしいと思います。
 例えば、紙おむつや生理用品、常備薬、眼鏡やコンタクトレンズ、アレルギー対応のあれこれなど、各家庭、各個人で絶対に必要なものの種類は変わってきますが「絶対にないと困るもの」はないと困るのですから、ある程度の補給が期待できるまでの物資は備蓄しておく必要があると思うからです。また、自動車の燃料であるガソリンもないと困るものの代表格です。
 当研究所の記事もそうなのですが、防災関係の記事では代替手段や代替品の紹介をすることが非常に多いです。
 そのため、代替品があればなんとかなると考えてしまいがちなのですが、防災関係の記事の大前提は「絶対に必要なものは前もって準備しておくこと」です。
 例えば、おむつでよく紹介されるのはビニール袋とタオルを使った代替品ですが、実際にこれを使うとなると、赤ちゃんのおしりが蒸れてしまったり、交換用のタオルが大量に必要になったりと、紙おむつを準備しておいた方が楽だったというような結果になってしまいます。
 また、赤ちゃん用ミルクでは、味によっては赤ちゃんがいやがって飲まないという場合もあるでしょう。ですが、行政が手配して届いた赤ちゃん用ミルクがあなたの赤ちゃんが嫌がっているミルクだとしたら、どうしますか?
 無理矢理飲ませようとして赤ちゃんとあなたが疲労困憊するよりも、普段使っているものが準備してあれば、ミルクの問題により発生するあれこれを気にしなくてもすみます。余談ですが、母乳の場合でもショックやストレスで一時的に母乳が出なくなることもありますので、折に触れて赤ちゃんが飲める赤ちゃん用ミルクを見つけて慣らしておいたほうが安心です。
 生理用品も全く同じで、災害が起きたことによるショックで生理が始まってしまうこともあるようですから、自分の普段使っている生理用品を1周期分は用意しておくと、これも安心です。
 長袖シャツとキッチンペーパーなどで代替品を作るというような記事もあるのですが、普段でさえ、少しデリケートな方は合わない生理用品でかぶれたりすることもあるようですから、いっそう衛生的な環境を意識する必要のある災害時には、提案されている代替品は正直なところ現実的ではないと思います。
 今書いてきたような代替品は、別に嫌がらせやネタとして考えられたわけではなく、どちらかというと「どうにもならない状態なのでないよりはまし」という前提で考えられた代替品ですので、それを作ればいいんだから安心とは、絶対に思わないようにしましょう。
 また、常備薬として普段から飲んでいる薬がある人は、その薬はなくなると困るはずです。これは他のもので代替が効くものではありませんから、絶対に必要なものの最右翼と言えるでしょう。
 日々の生活の中では、他に代替の効かないものや、代替品を作るまたは維持することによって他に発生する数々の問題が生じてしまうものは、できるだけ必要なものそのものを用意しておきます。そのことによって、そうでなくてもさまざまなストレスにさらされてしまう災害後の生活でよけいなストレスをため込まなくてすみます。
 さまざまな防災用のあれこれを準備するときには、まず最初に自分の日々の生活の中で使うもののうち、「絶対に必要でないと困るもの」を最優先で多めに備蓄していくと間違いがないと思います。

防災ノートとエンディングノート

 先日「終活ノート」、いわゆるエンディングノートを見せてもらう機会がありましたが、その内容を見ていてどこかで見たことがあるなぁと妙な感覚になりました。
 ちょうどその頃に「我が家の防災ノート」という埋め込み式で自分の災害対策の計画ができるノートを作っており、そのときにこの防災ノートが終活ノートの内容にとてもよく似ていることに気がつきました。
 どちらも「私にもしものことがあったら」という想定で作るものなので似てくるのでしょうが、一つ作っておくとどちらにも使えるのかと妙に納得してしまいました。
 違っているのは防災グッズや避難経路、周囲の避難所を記入する欄がないことと、付録の情報部分でしょうか。防災ノートでは災害時伝言ダイヤルや被災証明書の取り方などがかかれているのに対して、終活ノートはお葬式の形式や遺産相続の手続きなどが書かれています。
 防災ノートの作り方がわからない人や何を書いたらいいかわからない人は、一度エンディングノートを買ってきて内容を埋めてみてください。
 その中に防災グッズの管理表、避難経路と避難所の位置図を追加して、表紙に家族写真を貼っておけば、立派な防災ノートができあがると思います。
 一度作れば、あとは作った人が必要な情報を追加していくのはどちらも変わりがありませんので、お時間を作って作成してみることをおすすめします。

とりあえずは一度動いてみよう

 「失敗は人を育てる」という言葉がありますが、災害対策についてもこれは当てはまります。
 普段何もないときに訓練をして、いろいろな気づきや失敗を積み重ねていくことで、本番では失敗なく動けるものなのです。
 緊急時に活動しなければならない消防や警察、自衛隊は日々訓練をしていますが、プロである彼らでさえ普段から訓練をしているのですから、素人である私たちが訓練なしでいざというときに動けないのは当たり前だと思います。
 災害対策訓練というと、いろいろと敷居が高いようなイメージがありますが、普段の暮らしの中で、例えば散歩の経路を避難所への避難経路にしてみるとか、月に一度でいいのでハザードマップを見てみるとか、家族でピクニックやキャンプに出かけて、防災グッズを使ってみるのもいいのではないでしょうか。
 普段の生活の中で、いかに災害対策の視点を入れていくかというのが鍵となると考えます。
 災害はもはや他人事ではありません。最近の千葉のように、何度も立て続けに災害に襲われることも普通に出てくるでしょう。
 そのときにあなたの命を守るのはあなた自身しかいないのです。
 どんなことでもいいので、何かをするときに「もし災害が起きたなら」ということを頭に思い浮かべ、実際に行動してみてください。
 そのとき、思った以上に自分が動けないことに気がつくと思います。
 訓練の時の失敗は当然あるものなのですから、その失敗に対してどうすればうまくいくのかを考えることが、本番で自分が生き残る確率を上げる大切な手順になると思います。
 自分の命を守るために取らなければいけない行動は、その人のいる環境やその人の状態によってかなり変わります。ですから、こうすれば正解というものも存在しません。 ただ、「考えない」や「頭の中だけ」ではいざというときに途方に暮れることになってしまいます。
 とりあえず、まずは一度動いてみること。
 それを忘れないでくださいね。