非常用持ち出し袋のかたち

 「非常用持ち出し袋はリュックサック」だと言われていますが、なぜリュックサックでないといけないのかを考えたことがありますか。
 リュックサックは背中に背負った形で固定ができるため、両手が自由になることと重心が背中にあるため、移動するときに変な方向に引っ張られたり、ひっかかったりしなくても済むという利点があります。
 ただ、これは災害発生後に避難する場合に有利と言うことであり、災害が予測されるときにする予防避難の場合には無理にリュックサックにする必要はありません。
 普段お使いの肩掛けカバンや手押し車、旅行用のキャスター付きのカバンでも問題はないわけです。
 早めの避難を心がけるのであれば、袋の形はさほど意識しなくても構いません。
 どちらかというと、カバンの形状よりもカバンをどこへ置くかの方が大切です。玄関や裏口、倉庫など不意にやってくる地震のときに持ち出すことができる場所に分散して置いておくのがコツです。
 もう一つ付け加えるなら、最優先で守るべきは自分の命です。もし非常用持ち出し袋が見つからないようであれば、探すのに固執せず、逃げ出すことを優先してください。
 ちなみに、リュックサックでもその形状によっては非常に背負いにくい、あるいはものが入れにくいものがありますので、改めてリュックサックを準備する場合には、口の広くて大きいものを選んだ方が使いやすいです。
 登山用のリュックサックなら、口が広く、重量物にも耐えられる設計になっているのでお勧めですよ。

装備によくあるホイッスル

 防災時に持ち出すさまざまなアイテムの一覧表を見ると、かなり高い確率でホイッスルが入っています。
 これは生き埋めや孤立状態になったとき、声を出さなくても音で周りに自分の所在を知らせるために入っているのですが、防災セットを背負った状態で、必要な状況になったときにこのホイッスルを吹くことが可能でしょうか。
 例えばホイッスルが肩当てや胸ポケットに入っていれば吹くことは可能かもしれません。
 でも、買ってきたそのままの状態で保管されていた場合、ホイッスルを吹こうと思ったら相当な手間がかかりますから、生き埋めや閉じ込められている状態では、吹くことはかなり難しいのではないでしょうか。
 つまり、自分が助かる目的でホイッスルを準備するなら、常にすぐ取り出せる場所につけておかないと意味がないと言うことです。
 ホイッスルの構造に関して言えば、できるだけシンプルであることが望ましいです。
 照明とセットになっていたり、中に自分の情報を記載したパーソナルカードを収納できるものもありますが、異なる機能のものを一緒にすると、本来のホイッスルの目的が達成できないものが多いので選ぶときには単純なものをお勧めします。
 その中でも、水に濡れたり埃の中でも吹けるように、本体内に音玉のない単管タイプのものがおすすめです。また、市販品でも「防災ホイッスル」としていろいろ販売されています。
 値段は単純な単管のものよりは高くなりますが、値段の分だけ性能はしっかりとしていて、例えば人に聞こえやすい周波数を出すとか、少ない息でも大きな音が出せるとか、値段相応の付加価値がつけられています。
 もちろんそうでないものもたくさんありますので、選ぶときには自分にあったものをよく考えて選ぶようにしてください。
 それから、別に一本だけ持つことにこだわる必要はありませんので、安いものをあちこちに入れておくというのも一つの方法です。
 自分がやりやすい方法を考えて準備しておきましょう。
 ちなみに筆者の場合、ホイッスルは家や車の鍵の束に一緒につけています。
 四半世紀くらい前に防災研修会でもらったものですが、単純な単管式で管自体が肉厚のおかげか、未だにしっかりと甲高い音が出せます。
 たまに音を出してみて、どんな音がするのかも試しておいてくださいね。

点で支える、面で支える

点で支えている突っ張り棒。支える家具と天井の強度によっては、突っ張り棒のある場所が壊れて倒れてしまうことも起こり得るので注意が必要。

 家具の固定をするとき、賃貸住宅だと壁への直接固定ができないことが多いので、家具と天井を押しつける突っ張り棒を使うことが多いと思います。
 でも、突っ張り棒で押しつけても、飾り天井などで天井の強度があまりない場合には、突っ張り棒で止めても、地震の時には突っ張り棒が天井にめり込んでしまって支えきれない場合も出てくると思います。
 そんなときには、天井と突っ張り棒の間に強度のある板を一枚挟んでみましょう。

重量物である冷蔵庫の転倒防止で突っ張り棒と天井の間に板をかませた。面で支えるので力が分散しやすく転倒防止には有利。

 突っ張り棒が直接天井に接していると、点で支えるしかありませんが、突っ張り棒のついた板なら、板が接している面全てが支えてくれることになります。
 天井の強度が心配なときでも、突っ張り棒からかかる力が板全体に散らばるため、点で支えるときに比べるとかかる力が小さくて済みます。
 突っ張り棒は非常に便利で強度もある耐震器具ですが、支える先の強度に応じて設置の仕方に気をつけたいですね。

要冷蔵品とクーラーボックス

 あなたのおうちに冷凍食品やクーラーボックスはありますか。
 災害時に停電になったとき、要冷蔵のものをクーラーボックスに収めてその上に冷凍食品や保冷剤を載せておくと、ある程度までは保存が可能です。
 クーラーボックスの保冷効果は高いほど長時間持ちますが、普通の外遊びに使うようなものでも構いませんし、折りたたみできる簡易なものでも構いません。
 これが一つあると非常に便利ですので、もしお持ちでないならば準備しておくといいと思います。
 ポイントは、使う際には冷凍食品や保冷剤は要冷蔵品の上に載せること。
 冷気は低いところへ移動する性質があるので、底に敷くと思ったほど冷たくなりません。要冷蔵品の上に載せると、全体がよく冷え、冷気も長持ちします。
 この方法、災害による停電時だけでなく、思わず要冷蔵品を買いすぎてしまったときにも役に立ちますので、覚えておいて損はないと思います。

防水リュックと給水袋

給水袋がないときは、普通の買い物袋にビニール袋を入れて給水袋にすると持ちやすい。

 災害時には、非常用持ち出し袋の中身を濡らさないため、防水リュックを非常用持ち出し袋にしている方もいると思います。
 そんな方は、災害後の断水で水を給水してもらうのに、その防水リュックをそのまま使うといいと思います。
 完全防水のリュックは、中のものが水に濡れないように縫い目などがないように作られています。逆に考えれば、中の水も漏れないということですから、重たい水を運ぶのにも適していることになるのではないでしょうか。
 重量物を支えられる持ち手があることが前提になりますが、そのまま背負えるので楽ですし、水が零れる心配もありません。
 普通のリュックの中にビニール袋を入れて作る給水袋もありますが、そちらよりもより安定性がある防水リュックの給水袋。
 これから装備を準備する方は、検討してみてもいいと思います。

車の中での非常食保存

 非常食の備蓄先として割とメジャーなのが車の中です。
 ただ、車の中は非常に温度差があって、保存食であっても劣化を進めてしまうことから、長期保存できる缶詰やアルファ米であっても車内での保管は推奨されていません。
 実は筆者はうちが狭いことやお出かけも多いことから、四季を通じて車内で非常食保存をしており、温度差による劣化対策として保管庫にクーラーボックスを使っています。

 内部の保温が効くということは、外部の温度変化も中には反映しにくいということなので、クーラーボックスに入れることによって劣化の進行を抑えることが可能です。 内部には思ったほどものは入りませんが、一日分くらいの水と食料品くらいは収納しておくことが可能ですので、非常食の収納場所がなくて悩んでいる方は、一度試してみてください。

2021.02.28写真を追加

缶詰の寿命

吉賀の里の缶パン。

 缶詰と言えば、長期保存食の代表選手です。
 現在の日本では賞味期限が記載されていますが、かつては製造年月の表示で、内部の発酵で缶が膨らむまでは食べることができるというのが常識でした。
 賞味期限は「その品物がおいしく食べられる期限」のことですが、缶詰に限っては賞味期限を過ぎているものの方がよりおいしくなっていることもよくあります。
 オイルサーディンなどでは、わざわざ賞味期限切れの缶を探して買う方もいるのだとか。
 絶対大丈夫とは言い切れませんが、缶詰に限って言えば、「賞味期限切れ=食べられない」ではないということを覚えておいてくださいね。
 ちなみに、食べられなくなった缶詰の見分け方の代表的なものを少しだけ説明しておくと、

・缶が錆びている場合は中まで錆びている可能性があるので食べない方がいいです。
・缶の上下が膨らんできている場合には内部の発酵が進んでいる証明になりますので食べられません。
・缶を開けたときに異臭がした場合には食べない方が無難です。

 といった感じです。
 余談ですが、最近はパンのように液体に浸かっていない状態で缶詰になっているものもあります。そういったものも賞味期限が切れても食べることは可能ですが、賞味期限内よりは味が落ちるということも知っておいてくださいね。

非常用持ち出し袋に手袋を

 市販品の非常用持ち出し袋には、軍手またはビニール手袋がついていることが多いのですが、災害時の避難や災害後の後片付けに使おうとすると、どちらもやや心許ない装備です。
 特に最初からセットされている軍手は玉石混淆で、耐火性のある純綿手袋もあれば火気厳禁の合繊軍手もあり、同じ軍手でもまったく異なる性質のものが入っていたりして困ることになります。
 そこで、市販品の作業用手袋を一つ追加してみてはどうでしょうか。
 災害後に必要とされ、かつ不足するものの中に作業用の手袋があります。
 さまざまな作業時にしっかりとした手袋が一枚有るのとないのでは、作業効率がかなり変わります。
 作業用手袋には皮、合皮、ゴム手袋などありますが、個人的には耐熱や耐火、耐切創性の機能を持っているものをお勧めします。
 普通に買っても一つ1,000円あればお釣りがくると思いますので、軍手やビニール手袋に追加して、作業用手袋を準備しておいてくださいね。

ペットの避難の大前提

キャリーケースに入ったうちの猫。

 飼っているペットを連れた同行避難をするとき、小型犬や猫はケージやキャリーケースに入っていい子にしてくれているかどうかはとても大切なことです。
 普段から入り慣れているペットであれば問題ないのですが、そうでないペットはいざというときに大抵抗される可能性があります。
 また、入った後も鳴いたり暴れたりしてじっとしていないことも考えられ、そうなると避難所から追い出されてしまう可能性も出てきます。
 仮にペット同伴の避難所であっても、大騒ぎするペットが一匹いると全体が荒れてしまいますので歓迎はされません。
 そうならないためにも、ペットがケージやキャリーケースにおとなしく入ってくれるように普段から馴らしておく必要があります。
 避難所では、状況によっては数日から数週間、そのケージやキャリーケースがペットの家になることもありますので、きちんと入ってくれるように、また暴れないように普段からしつけておきましょう。
 また、それが苦手なペットもいると思いますので、そういったペットの場合には、避難所以外に避難できるような状況を作っておく必要があります。
 同行避難や同伴避難が認められていても、傍若無人にしてよいというわけではありませんから、他の避難者が困らないためにもしっかりとしたしつけをしておきたいですね。

非常用持ち出し袋に求められること

 非常用持ち出し袋を作るときには、十人いれば十通りのこだわりが出てくると思うのですが、どんな非常用持ち出し袋を作るにしても一つだけ気をつけておいてほしいことがあります。
 それは、「その非常用持ち出し袋、持って走れますか?」ということ。
 非常用持ち出し袋についてはさまざまなところで書かれていますし、ここでも何度も紹介しているところですが、せっかく作っても持って移動ができなければ意味がありません。
 非常用持ち出し袋を作るときによく言われているのは男性15kg、女性10kgくらいまでとされていますが、これを実際に持ってみるとかなり重たいです。非常用持ち出し袋に詰めるときの詰め方を上手にしないと、普通に詰めたのでは背負っても歩けないかもしれません。
 そこで、非常用持ち出し袋を作るときにはその非常用持ち出し袋を持って避難しなくてはならなくなったとき、それを持って走ることができるかどうかを考えてみて下さい。重たくて走れないというのであれば、自分が背負って走れるくらいまで重量を軽くしておくことです。
 その結果、中に詰めることができなくなるものも出てくると思いますが、ある部分は割り切って考えることも重要です。
 また、小さいお子様がいる場合には非常用持ち出し袋を背負うことができないかもしれません。
 そんなときには、大きなベストを用意して、その中にさまざまなグッズを詰めておくことで、非常用持ち出し袋の代わりにすることもできると思います。
 中身をあれこれと悩む前に、まずは自分が背負って走れる重量を確認するところから始めて下さい。