避難先では暖かいものを口にする

 梅雨に入ってから、あちらこちらで大雨が降っています。先日の雨では、九州南部で降り始めからの雨が1000mmを超えたところもあるそうで、大規模な避難勧告も出されていました。
 ところによっては、現在も避難継続中の方がおられるかもしれませんが、体調管理には十分に気をつけていただければと思っています。
 さて、大雨で避難所に避難したとき、例えば今回のような梅雨前線によるものだと避難が長期化することがあります。
 そのとき、気の利いた避難所で無い限りは自分が持参した食料や飲料などで過ごすことになりますが、できればその中に「暖かいものを一品」加えるようにしてください。
 暖かいものは、飲み物でもご飯でもおかずでも構いません。暖かいものが一品あると、それだけで人間は安心することができ、仮に災害で被害を受けても、そこまで気力が萎えることは起きにくくなります。
 避難所が電気、ガス、水道が通じている状態であれば、暖かいものを作るのはそんなに難しいことではありませんが、意識していないと温かい食べ物があること自体を忘れてしまっていることもありますので、意識して暖かいものをとるように心がけてください。
 ただ、避難先が学校の体育館のような給湯施設を持たない場所だと、少し準備が大変かもしれません。

 大規模災害でよく見るタイプの直火かまど。災害後の避難所生活なら使えるが、災害が起きている状態でこれをやるのはあまり現実的ではない。

 例えば電気ポットや炊飯器があれば何らかの暖かいものを作ることができますので、そういった家電製品を持ち込むことも必要になってくるでしょう。
 また、土間や昇降口、建物の外周でコンクリートなどの引火しない材料で作られている場所があれば、そこを使って固形燃料やカセットコンロを使った調理もできるでしょう。
 何も無い場合、使い捨てカイロでも、常温のものを暖かいと感じる温度にまですることは可能です。

火が使えないときに便利なのが水を注ぐだけで発熱してくれる発熱剤。まったなしの赤ちゃん用ミルクを調製するためのお湯を作るのに役立つ。また、液体ミルクの温めの可能。

 そうでなくても不安になってしまう災害時、暖かいものが一口でも口にできると、それだけで緊張をほぐすのに有効です。
 非常用持ち出し袋には暖めるための道具が入っていないことも多いですが、避難が長期戦になりそうなときには、非常用持ち出し袋に飲料食を暖めることのできる道具も一緒に持ち出しておきましょう。
 また、自主防災組織や自治会などで避難所の運営を行う際には、準備品の中に必ず何らかの飲料食を暖めることのできる道具を準備しておいてください。

避難所では生活音に気をつける

 災害で自宅が壊れたので避難所に避難すると、見ず知らずの人と一緒に避難生活を送ることになります。
 老若男女の生活習慣が異なる人たちが集まって集団生活をすることになるため、さまざまな問題が発生することがよくあります。
 その中でも一番良くトラブルになるのが、ビニール袋などのカサカサ音。
 ビニール袋はとても便利なものなので、ちょっとしたものを入れておくのによく使うわけですが、その中からものを取り出すときに耳障りなカサカサ音がします。
 お年寄りなどはこの音があまり気にならないようですが、気になる人は気になって寝られない状態になり、けんかの元になってしまいます。
 とはいえ、しまってあったものを取り出すために出る音ですので、必要悪の部分もあるでしょう。
 これを防ぐには、あらかじめ音の出ない布袋によく使うものを入れておくことで、本来は非常用持ち出し袋を作るときに意識しておかなくてはいけない部分だと思います。
 また、これに限らず夜中の足音や声、ラジオやテレビの音など、人が普段の暮らしで発生している音は、自分と生活リズムの違うだれかが不快に感じる音でもあるのです。
 避難所で自治運営組織が立ち上がると、こういった生活音にも配慮して避難所で生活する人たち全員が守るべきルールというのが設定されます。
 消灯時間、起床時間、食事や掃除の時間など、基本的にはある程度規則正しい生活を送ることになるわけですが、今度はそれが苦手という人も出てきます。
 本来長期的に避難するのであれば個別に入居できる部屋を持つ施設が望ましいのでしょうが、現在の災害関係法ではそのような考え方は取り入れられていません。
 そうすると、考えるべきは可能な限り自宅が避難場所として使えるように準備しておくことです。食事や各種支援は避難所で受けることにして、普段の生活場所は今までと同じ自宅にしておけば、さほど生活習慣を変えなくてもなんとかなります。
 建物の耐震化と、飲料食、燃料とそれを使う道具の備蓄をしっかりと整えて、そのうちに来るかもしれない災害に備えておきましょう。

災害後は子どもが過ごせる場所を作っておく

子どもの笑顔が復旧の第一歩のような気がします。

 災害が起きて社会的なインフラが動かなくなると、まっさきに困るのが子ども達の扱いです。
 通常は保育園、幼稚園や学校などに行っている子ども達は、それらの施設が被災したり避難所になったりすると日中の行き場が無くなってしまいます。
 そうなると、子ども達の面倒を見るために親がついていなければいけないことになり、そのぶんの人手が不足して復旧が進まないという事態が起こります。
 ちょっと前に「避難所では使っては行けない場所を決めておく」ということを書きましたが、例えば学校などが避難所になった場合には、子ども達が日中過ごすための場所もあらかじめ確保しておく必要があると思います。
 子ども達は退屈すると大騒ぎを始めます。その声や音が、避難で殺気立っている大人の神経を逆なでして大喧嘩になることも、過去にはさまざまな避難所で起きていた問題です。せめて日中だけでも両者を切り離すことで、お互いが安心した時間を過ごせるのでは無いでしょうか。
 また、子ども達だけでは何が起きるかわかりません。手の空いている大人達が子ども達を見守ることで、復旧に当たらなければいけない人たちがそちらの仕事に向かうことができるようになります。
 そういう視点で見ると、保育園や幼稚園、学童保育などの再開というのはかなり優先度の高い復旧対象になるのではないかと思います。
 子ども達が可能な限り早く普段の生活に近い状態に環境を整えていければ、自然と大人達も普段の生活に近い生活リズムを取り戻すことができるようになるのではないかと考えるのですが、あなたはどう考えますか?

応急手当をwebで学ぼう

 応急手当については先日ちょっとご紹介したところですが、消防庁のサイトに「応急手当web講習」というのがあります。
 インターネットで応急処置の流れを映像で見ることができ、非常にわかりやすく作られています。
 終了後は修了証がインターネットから印刷することも可能になっており、いつでも見ることができて便利です。
 実地講習は各消防署や日本赤十字社が行う講習を受けなければ体験できませんが、どんな感じでどんな風に判断すればいいのかだけでも理解していると、万が一の時に活用できます。
 普段忙しくてなかなか講習会に参加できない方も、この「応急手当web講習」で応急処置について学んでみてください。

避難所は立入禁止エリアをあらかじめ決めておく

 避難所を開設するに当たっては、どこを使おうかというところから話が始まると思いますが、大規模な災害の場合には収容能力を超える人が避難してくる可能性があります。
 その時に避難所として使える場所を決めている状態だと、最終的にどこもかしこも避難者だらけになって通常業務どころか避難所運営すらおぼつかなくなってしまいます。
 そのため、避難所を開設する際には最低限使っては行けない部屋と、その理由をはっきりとさせておく必要があります。
 例えば、学校なら職員室や事務室は避難者が入ってくるといろいろな不都合が生じるでしょう。体調不良者や妊産婦、授乳などのことを考えると、保健室も避難者が使ってはいけない場所となります。また、水が止まっているようであればとりあえずトイレも使用禁止にしておかないと、水を持ってきた頃には汚物で溢れて大惨事になっているかもしれません。

テープで出入口を閉鎖したトイレ
水が止まったら、とりあえず最初にトイレを閉鎖しないと汚物で大惨事となります

 次に、避難所運営のための本部の位置を確保します。
 大規模になればなるほど、ここがちゃんと確保されていないと、あとで揉めることになってしまいます。
 また、駐車場となる場所では、仮設トイレや給水支援などが受け入れられる場所を確保しておく必要があります。
 忘れがちですが、ゴミ置き場についても臭いが避難所に入りにくく、収集のしやすい場所というのを考えておかなくてはなりません。
 こうして考えていくと、避難所の設営準備というのは災害発生時では無く、平常時に決めておかなければいけないということが分かると思います。
 もちろん、実際の災害時には決めたように動かないかもしれませんが、少なくとも「使えない・使っては行けない場所」をあらかじめ決めておくだけで避難者の誘導がずいぶんとやりやすくなります。
 逆に考えれば「使えない・使っては行けない場所」以外は使えるわけですから、最悪、あらかじめ決めておいた場所以外全ての場所に避難者を入れることが可能になります。
 理想としては避難所として設定したエリアで収まるのが一番ですが、避難所が必要になってくる災害では、殆どの場合総定数を上回る避難者が来るものです。
 避難所開設を訓練するときには、そういった考え方を取り入れて行うとよいのではないかと思います。

節水型手洗い装置を作る

 災害時には水は貴重品となります。
 生活用水とはいえ、手洗いに使う水も普段のようにじゃぶじゃぶとふんだんな流水を使うわけにはいきません。
 ただ、そうはいっても手は洗いたいもの。
 そこで節水型の手洗い装置を作ってみることにしました。

・用意するもの

ペットボトル1個、穴を開けるための道具

穴が開けば釘でも安全ピンでも大丈夫。

・作り方

1.まずはペットボトルの下の方に穴を開けます。小さすぎるとうまく水が出ませんし、大きくなると水がこぼれてしまいますので、ちょっとずつ穴を拡げて、ちょうどいいサイズを探してみてください。

2.開けた穴を指で押さえて内部に水を入れます。

蓋がきちんと閉まっていれば押さえない限り水はこぼれない。

3.穴を指で押さえたままキャップを閉めます。これでできあがりです。

キャップの微調整が少し難しいが、慣れると思ったように調整できるようになる。

4.キャップを緩めると水が出てきますので、適当な量で手を洗い、キャップを閉めます。少量の水で手が洗える節水型手洗い装置ができました。

穴のサイズとキャップの閉まり具合で出てくる水の量がさまざまに変化しますので、平時にいろいろとやってみて好みの状態を把握しておくといいかもしれません。

懐中電灯を即席ランタンにする方法

懐中電灯だけで照らしてみる。小型ながら強力な懐中電灯なので、壁の反射で周囲が明るくなっている。

 懐中電灯は指向性の強い灯りです。その指向性の強さのおかげで安心して歩いたり移動したりできる照明器具なのですが、いざ避難所で使おうとすると、いる場所全体を照らしたいのに天井や壁の一点しか明るくならず、どうかすると他の避難者の方からまぶしいと怒られたりしてしまうものです。
 今回は懐中電灯をちょっとした工夫で即席ランタンにする方法を考えてみます。

1.懐中電灯とランタンの違い

 懐中電灯は一点を照らすため光が指向性を持っている照明器具で、ランタンは逆に周辺全体を照らす照明器具で、懐中電灯ほど明るくはなりませんが、明るさの濃淡というのはさほどひどくはありません。

2.懐中電灯をランタンにするには?

 懐中電灯をランタンとして使うためには、指向性の強い光を周りに拡散する仕掛けを作ればいいことになります。
 灯りの部分に何かをかぶせることで、光を散らすことが基本になりそうです。

1)水のペットボトルを使う

懐中電灯の上に水のペットボトルを置いてみた
重心が上にあるので支えていないとひっくり返る。小型の懐中電灯だと、懐中電灯を入れる容器が必要になりそう。

 照明の光の上に水の入ったペットボトルを置きます。ペットボトルと内部の水が光を反射して、周囲に散光します。
 強めの光が周囲に広がりますが、水の入ったペットボトルという重たいものなので、上手に取り付けないとすぐにこけてしまいそうです。

2)不透明のビニール袋をかぶせる

不透明のビニール袋をかぶせた懐中電灯
ビニール袋はしわくちゃにしてあると光を周囲に反射してくれる。

 買い物などでよく使う不透明のビニール袋をくしゃくしゃにして懐中電灯の光の部分にかぶせます。
 懐中電灯の光は袋の中で乱反射して周囲を明るく照らします。
 懐中電灯が熱を持つタイプだと、その熱でビニール袋が溶けることがありますので、熱くならないように気をつける必要があります。

 地震などで余震が続く状態の時には、ロウソクなどの裸火は使うことができません。
 電池式ランタンがあると一番良いのですが、もしも懐中電灯しか持ち出せなかったときには、光の出口部分に出た光を乱反射させて周囲に散らせるような道具を取り付けることで、周囲を照らせる即席ランタンができますよ。
 自分たちの好みの光を見つけて、それを作れるようにしておくといいですね。

コミュニケーションボードを準備する

 避難所の運営で一番問題になってくるのは、コミュニケーションです。
 避難者は普段から顔見知りの人ばかりでなく、旅行者や通りすがりの人、住んではいるが面識のない人、日本語がうまく通じない人、障害を持つ人などが避難してきます。
 この人達とどのようにコミュニケーションを取ったらいいのでしょう。
 日本語が話せる人であれば、会話することでお互いにどのように考えているのかわかることができると思いますが、日本語が話せない、聞き取れない人とのコミュニケーションは、次々に人がやってきて大騒ぎになっている状況ではかなり困難なのではないでしょうか。
 だからといって、その人が理解できる言語で会話できる人を常に受付に配置することもかなり難しいです。
 そのため、受付にはコミュニケーションボードを準備しておくことを勧めます。
 このコミュニケーションボードというのは、最近あちこちで見かけるようになりましたが、簡単な行動や問い合わせ内容、ひらがな、数字、時計などを一枚のボードにして、それを指さすことでお互いの意思を確認できるという道具です。
 このボードに地域で多い国の人の母国語も併せて表示させておくと、会話が通じなくても最低限の意思疎通ができることから、災害対策の一つとして各自治体や社会福祉協議会などで作成されています。
 もちろん、文字が理解しにくい方もいらっしゃいますので万能ではありませんが、それでもこれを予め用意しておくことで会話が通じないというお互いのストレスを軽減させることができ、一度にたくさんのことをこなさなければならない避難所開設時には威力を発揮するのではないかと考えています。
 また、避難所を開設してからのさまざまなお知らせも、音声だけでなく、大きく書き出して貼り出すことで、伝わらない、聞いていないというトラブルを防ぐことが可能です。
 どのようなものかイメージがつかないという方のためにいくつかのリンクを貼っておきますので、自分の地域で使えそうなものを見つけて、試しに使ってみてもらえるといいなと思います。

横浜市社会福祉協議会のコミュニケーションボード

八王子市のコミュニケーションボード

公益社団法人明治安田こころの健康財団のコミュニケーションボード

集まるべき場所を立ち上げる

 自主防災組織や自治会がしっかりしている地域は問題ないでしょうが、そうでない場合には、被災したときに何をどこへ言えばいいのかさっぱりわからない状態になります。
 そのため手近な消防団や行政に相談を持ちかけるわけですが、相談を受けた方も混乱中ですので、うまく対応してもらえずにみんながストレスがたまる状態になります。
 そこで、被災したらまずは「地域の災害対策本部」を立ち上げるようにしましょう。
 立ち上げる、といっても難しいことはありません。紙に対策本部と書いて壁か机に貼り、そこをとりあえずの窓口にしてしまうのです。
 困っている人たちはとりあえず言っていくところができますし、そこで情報を集約して行政に知らせるだけで行政の対応が早くなります。また、自衛隊やNPOといった支援組織もその本部にやり方の相談にきますので、そこでマッチングすればよいことになります。
 もちろん、災害ボランティアセンターが立ち上がったら、地域の災害対策本部で集めた困りごとをまとめて依頼して、人員を派遣してもらうことも可能です。
 いわば、必要な情報の交通整理をする場所を作ると言ったらいいでしょうか。
 災害時には、さまざまな情報が錯綜します。当然SNSなどでもさまざまな情報が飛び交うわけで、受援者も支援者もそれらに振り回されてしまうので、そこを拠点にして情報の交通整理をし、迅速な復旧に繋げていく手助けを行えばよいのです。
 最初は少し動く必要がありますが、軌道に乗ると、勝手にそれぞれの情報が集まってきます。
 ここで情報を一元化しておくことで、行政任せで手遅れになることなく、迅速に復旧・復興が可能になってくるのです。
 自主防災組織や自治会の防災訓練というと避難所運営や避難手順の確認がほとんどですが、このような機能も求められる場合が多いので、できれば併せて訓練しておくとよいと思います。

二つの避難

 災害時における「避難」という言葉には二つの定義があります。
 一つ目は、発生した災害から身を守るための「避難」。これは「一時避難所」「避難場所」「避難所」が該当します。
 ただ、万能なものは殆ど無いのが実情なので、対応している災害によって行き先を使い分ける必要があります。
 二つ目は生活環境を維持するための「避難」。これは災害後、何らかの事情により自宅が使えなくなっている場合に行う避難で、対応しているのは「避難所」のみです。
 「一時避難所」や「避難場所」は災害が収まるまでの仮の避難先ですので、生活環境を維持するための避難は「避難所」に移動する必要があるのですが、大規模災害だと避難所に収容しきれないために、しばらくの間は一時避難所や避難場所、避難所の区別無く避難者が鈴なりというになってしまいます。
 それでも状況が整理されてくると避難所への移動を順次行っていき、一時避難所や避難場所は本来の業務を再開していくことになります。
 この二つの避難がごっちゃになっているので、避難者が避難所へ移動する場合にいろいろな騒動が起きることになり、避難者も行政も施設管理者も振り回されてしまいます。
 命を守るための避難と、命を繋ぐための避難。
 何も起きていない通常期にこの避難の違いを理解して、スムーズに避難ができるようにしたいものです。