水を確保する

 防災グッズについては本当にさまざまなものがあり、何から揃えればいいのか非常に目移りします。ですが、どうしてもこれだけは準備しておいてほしいものを一つあげろと言われると、私は水をあげます。
 他のものは代用品がいろいろとあるのですが、こと水に関して言うと代用品がないのです。ついでに書くと、非常食は基本的に乾燥しているものが多いため、アルファ米のように戻すにしても、乾パンやクラッカーのようにそのまま食べられるものでも、どちらにしても水は必要となります。
 飲用だけではありません。けがをしたときの傷口の洗浄にも、手や顔を洗うのにも、調理、洗濯。掃除など、すべての生活の基礎に水が存在するのですが、この水を作り出そうとすると非常な困難が伴うのです。
 最近は高性能な浄水器がいろいろと登場していますが、マニュアルをよく読んでみると化学物質の濾過はできなかったり、泥水や海水が使えなかったり、いろいろと制限があります。
 水を作るのであれば、浄水器以外にも、濾過器や湯沸かしの蒸気を冷ましたり、夜露や雨を集めたりといろいろとやり方はありますが、どれも非効率的です。
 水道が破損して使えない場合には、井戸を頼るしかありませんが、使っていない井戸だと、水が痛んでいないか、汚染されていないかをしっかりと確認しておく必要があります。
 そんなこんなを考えていくと、結論として水は水のまま確保して保管しておくのが一番早いし手間もかからずコストも安いということがわかりました。
 宅配水のウォーターサーバーを使っているのなら、予備の水タンクを一つ準備しておくとか、2リットルのペットボトル6本組みを準備しておくとか、何らかの形で水を保存しておくといろいろと使えます。
 面倒くさければ水道水をペットボトルに詰めて密封すれば、数日は持たせることができますし、18リットル入りの灯油缶を水専用として準備しておくのもありでしょう。
 水道に関して言えば、被災してもすぐには止まらないことが多いですから、被災したときにいかに水をためておくかを考え、道具を準備しておくことも忘れないようにしたいですね。
 また、機会を作って、普段自分たちが一日にどれ位の水を使っているのかを調べてみるのもいいと思います。節水できるところはするとして、一日に必要な水の量を調べて、それを三日分準備しておけば、とりあえずはなんとかなります。日常生活で仕事や学校などにいるときには、さすがに大量の水を持ち歩くわけにはいかないと思いますが、200mlくらいでもいいので、いざというときに備えた飲用水を準備して持ち歩くようにしたいものです。


 普段どれ位水を使っているのかを知り、準備しておくことは自分の安心にもつながります。機会を作って、是非一度自分や家族の水の使用量と最低限必要な量を調べ、知っておくようにしてくださいね。

使い方をわかりやすく伝える工夫を考える

 最近の湯沸かしポットは電気式のポンプで給湯できるようになっているものがほとんどですが、たまに手動でも給湯できるものもあって、災害時には非常に使い勝手のよい道具の一つとなります。
 ただ、手動で給湯できることを知らないと、電源を探して右往左往することになってしまい、しなくてもいい苦労をすることになってしまいます。
実は先日、とある防災研修の中の非常食体験で出会ったのがまさにこのタイプの湯沸かしポットだったのですが、私を含めた参加者はそれに気づかず、湯沸かしポットの電動ポンプのスイッチ部分を押してはお湯が出ないと首をひねっていました。電源コードが外してあったので、「電源はどこだろう」と探していると、スタッフの方が給湯部中央の手動式ポンプを指さして「これを押せばお湯が出ます。電気は不要です」と言われてはじめてその存在に気がつくという出来事がありました。

頼りになる大容量湯沸かしポット。上部の丸部分が手動ポンプ。
手前右側の銀色の部分が電動ポンプのスイッチ。

 要はポットの中央部にある給湯用のポンプに気がつければ何でも無いことだったのですが、お湯の注ぎ口の横にある電動ポンプのスイッチの上にでかでかと「給湯」と書かれているので、そちらに意識が持って行かれていたのが真相です。
 災害時に避難所でこのタイプの湯沸かしポットを使うのであれば、手動ポンプの上に「ここを押す」と書くか、何か給湯ポンプの位置がわかるような工夫をしておく必要があるのかなと思いながら気がついたことが一つ。提供する側は「使える」という前提で提供をするわけですが、使い方がわからない、使い方を知らない人もいるわけで、「わからない」ことを前提にしてそのものの使い方がわかるようにしておかないといけないなということです。
 人間、自分の思ったようにならないものにはストレスを感じるものです。避難所に避難している人にとっては、避難していると言うこと自体がストレスになりますから、ちょっとしたことや小さなことでも、なるべくストレスのかからないような方法を考えておく必要があるなと思います。
 伝える側の伝え方と受け取る側の受け取り方。これらをうまく組み合わせて、少しでもストレスの少ない避難生活をしたいものです。

被災した外国人の強い味方「voiceTra」

 海外から仕事や旅行で日本に来る方は増えているようです。
 ただ、残念ながら日本語がわかる状態で来る人は少ないのが実態で、そういう人たちが被災したときの意思疎通をどのようにすればいいのかという問題があります。命からがら避難所に避難してきたのに、言葉が通じないと避難してきた本人も、受け入れる避難所の人も途方に暮れてしまいます。普段から地域の人たちとあいさつや会話をしている人たちばかりならいいのですが、勤務時間や生活習慣の違いで地域とはほとんど接触のない人もいます。
 そういう人たちとのコミュニケーションツールの一つとして、スマートフォンを使った翻訳アプリ「VoiceTra」があります。
 情報通信研究機構(NICT)が作成したスマートフォン用のアプリで、Android用、iPhone用のどちらも準備されており、アプリ利用料は無料となっています。通信費はかかりますのでそこは了解しておく必要がありますが、およそ30種類の言語に対応しており音声に変換されるもの、文字に変換されるものがあります。災害時に通信環境が使えないと駄目ですが、通信環境が無事、もしくは復旧すれば強い味方になってくれます。
 災害時だけでなく、平常時でもちょっとしたコミュニケーションに使うこともできますので、興味のある人はインストールしてみてもよいかもしれません。なお、ダウンロードやアプリの利用についてはあくまでも自己責任でお願いします。
 ちなみに、東京消防庁はこのアプリをベースにした救急用VoiceTraを現在運用をしています。作成は消防庁消防研究センターだそうです。
 VoiceTraについてのより詳しいことはリンク先(総務省)(情報通信研究機構)をご覧ください。

避難所の掲示物の書き方

 災害時の避難所はさまざまな掲示物でいっぱいになります。
 その結果、テキトーに貼っているとどこに何があるのか、何が最新の情報なのかがさっぱりわからなくなってしまうことがよくありますので、それを防ぐためにはテーマごとに番号やマーク、レイアウトといった規格を揃えておくことが重要になります。
 中の文字サイズや書体は統一された方が読みやすいのですが、見出しの部分を、例えば「交通規制情報」や「生活情報」「ライフラインの復旧状況」「ボランティア支援」といったテーマごとにわかるくくりにしてレイアウトを変えておくことで、何についての情報かがすぐわかることになります。
 また、提供する情報の最初の部分に日付と時間を入れておくと、最新のものかどうかの判断がしやすくなります。
 時間の表示については、24時間表示だとわからない方もいらっしゃいますので、例えば「朝8:30」や「夕方5:15」といった記載、または「7:00AM」や「11:00PM」といった書き方にしておくと誤解を生じなくてすみます。

 避難所では目の悪い方や日本語がわかりにくい方などさまざまな人が来ます。そういった人たちが掲示されているすべての紙を見ることはおそらく無理なので、規格がテーマごとに統一されていればイメージで理解できるのではないかと考えるからです。
 また、行政は確実性を求めるため、書いている日本語はやや難解なことがあります。それをわかりやすくかみ砕いて追記することで、誰が見ても現状がどうなのかを理解できるのではないでしょうか。
 欲しい情報が欲しいときに手に入る状態は、現在ではかなり当たり前になっていますが、非常事態にこそ、情報をわかりやすく提供する必要性があると考えます。
 「やさしい日本語」という考え方も最近ではメジャーになってきつつありますので、興味がある人はリンク先(しまね国際センター)を見て研究してみてください。

自分の命は自分で守る

 災害対策でもっとも重要なことは、「あなたの命を守るのはあなただ」ということであることをご存じでしょうか。
 例えば、いくら行政が災害対策をしても、それはあくまでも面的な整備ですし、整備がされたからといって絶対に安全だと言えないことは、東日本大震災の津波対策が証明しているところです。どんなに立派な堤防を作っても、巨大な防波堤を作っても、軟弱地盤の地盤強化をしたとしても、想定以上の災害が襲ってくればひとたまりもありませんし、想像できる最悪の事態に備えて施設整備を行ったとすれば、その金額と工期はいずれも天文学的な数字になってしまうことでしょう。そして、災害対策で行われる施設整備はあくまでも一つの災害に対してであり、複合的に災害が起きてしまうと、手の打ちようがない事態が起きることも考えられます。
では、なぜ巨額の予算をかけて行政がさまざまな災害対策をしているのかと言えば、少しでも人命や財産が失われる確率を下げること、そして避難するための時間を作り出すためです。
 この想定は、住民が安全な場所に避難することが含まれています。つまり、あなたが自分で安全に避難する経路と、身の安全を保証してくれる場所をきちんと決めているということが前提条件になっているということです。
 何がどうなったらどこへどんな手段で避難を開始するのかということと、状況が収まり、自分の避難を解除するタイミングもあらかじめ決めておくと、いろいろと悩まなくてもすみます。
 あまり意識されていないとは思いますが、自治会や消防団、行政機関があなたの命を守ってくれるのは、災害が収まった後の復旧・復興部分であって、災害時に「逃げろ」と声かけに回ってくれることはあるかもしれませんが、あなたの命を守りきる責任は、当たり前ですが負っていません。
 命さえ無事であれば、あとはなんとかなります。まずは安全な場所に逃げて自分の命を守ること。
 これだけは忘れないようにしておきたいものです。

バケツは万能アイテムです

 災害後に必要だなと思うことの多いアイテムの中に「バケツ」があります。
 水の配給時はもちろん、赤ちゃんの沐浴や洗い物、ゴミ捨て、洗濯など、一つあるのとないのでは大違いなのですが、残念ながら普段の生活ではあまり使うことがないかもしれません。
 最近では折りたたみの出るさまざまな種類のバケツが売られるようになり、アウトドア用品や釣り具、そして工具売り場などでさまざまな大きさのものを扱っています。
 欲張って大きいのを買っても大は小を兼ねない世界ですので、中身が入っても自分で持ち運びできる程度のものを選ぶとよいと思います。
 一つ気をつけるとすれば、中身が入っていなくても自立するタイプのものを選ぶようにしてください。
 中にはとてもコンパクトなものもありますから、赤ちゃんがいるおうちでは、そういったものをお出かけセットに一つ加えてもいいかもしれません。

 非常用持ち出し袋に折りたたみバケツを一つ。忘れないでくださいね。

遊び方を身につけておこう

 どんな災害であれ、一度被災するとそこからの復旧は長期戦になります。
 かつては電気はすぐ復旧すると言われていましたが、ここ最近の災害を見ていると必ずしもそうとは言えない状況になってきています。
 大人子ども問わず、電気の必要なスマートフォンやゲーム機で遊ぶのになれていると、災害で電気がない状態は非常に長くそして退屈になってしまいます。
 では、停電時に退屈しない・させないためにはどうすればいいでしょうか。
 それはカードゲームやボードゲームなど、電気を必要とせず、人が集まっても困らない遊びを用意しておくことです。
 ルールがわからないと面白くありませんし、そもそも興味もわかないと思いますから、普段からそういったゲームに親しんでおくことが必要ですが、何か集中できる楽しいことがあると、その間は不安や退屈を忘れることができますから、時間を見つけて、家族や友人たちと遊んでルールを覚えておくようにしましょう。
 また、非常用持ち出し袋にもトランプや携帯式ボードゲームなどを入れておくことをおすすめします。

子どものお出かけセットはすぐ使えるようにしておこう

 子どもがある程度の年齢になるまでは、着替えやおむつ、ミルクやちょっとしたおやつ、お茶、おもちゃといったものを一つの袋にまとめて入れて、子供用のお出かけセットを作っているのではないでしょうか。
 このお出かけセット、持ち歩くのは少々面倒くさいところはありますが、いざというときに子どもの命を守る大切な仕事をしてくれます。
 子どもの年齢や性別、好みによって準備するものがかなり変わるので一概に何を準備しろということは書けないのですが、子どもの衣食住を一つのバッグに収まるように、おそらくは無意識で準備されていると思います。
 着替えやおむつ、ミルクや毛布などをセットされたバッグは結構かさばりますし重量もありますが、いざというときにこれがあれば子どもの命を数日確実に守れるので、精神的にかなり楽になると思います。
 小さな子は思った以上に保守的な生き物です。避難などで生活環境が変わって普段食べ付けないものを食べさせられると、こどもが異変を感じて落ち着かなくなり、泣いたり寝なくなったりして、親も一緒に参ってしまう状況になるかもしれません。
 それを防ぐためにも、お出かけセットには普段から慣れているミルクや食べ物を入れておくようにします。
 最近話題の液体ミルクですが、子どもさんによって口にあわないかもしれません。でも、飲み慣れたミルクを与えられるように準備しておけば、子どもは安心して飲み慣れたミルクを飲むことができます。
 おむつや着替え、毛布などの寝具も同様で、使い慣れたものが一番安心です。
 ある程度の年齢になるまでの子どもさんがいる家庭では、お出かけセットを大概の場合準備されていると思うので、いざというときに備えて、帰宅したら使用したものを補充して、次のお出かけに備えておくとよいですね。

防寒には気をつけよう

 寒暖の差の激しい時期になってきました。
 夜中の気温は一桁台でも、日中の気温は二十五度前後と、一日の間に二十度以上の差がある日もありますので、健康状態には充分に気をつけていただければと思います。
 そんななかで気をつけたいのは「体を冷やさないこと」です。
 風に当たらないことはもちろんですが、体から発生した熱を逃がさないことも大切です。
 例えば、避難所での生活で、床がもし板張りやコンクリートなどの冷たさを感じる素材であれば、新聞紙や段ボールを体との間に入れるだけでも体感温度がずいぶんと変わります。
 体には毛布やエマージェンシーシートなどを巻き付けることで熱を逃がさず、体の周りの空気を体温で暖めて、ぽかぽかと過ごすことができます。
 服装でも同じことで、羽毛を使ったダウンジャケットが暖かいのは、別に羽毛が暖かいのでは無く、羽毛が保持している大量の空気が体から熱が逃げ出すのを防ぐことで暖かさを維持できているのです。
 服も同じで、厚手の服を一枚羽織るよりも薄手の服を重ね着する方が体温の保持はしやすいです。
 薄手の重ね着でもう一ついいのは、気温の変化による体温調整をしやすいこと。暑ければ脱いでいけばいいですし、寒ければ着込めばいいわけですから、そのときの最適な温度を維持することができるわけです。
 もちろん、体の内部から温めることも大切ですので、お鍋や汁物などの温かい食事をしっかりと取るようにしましょう。ただ、いくら暖まると感じても、お酒は止めた方が無難です。お酒でぽかぽかを感じるのは抹消の血管がアルコールによって広がることで温かく感じるためで、その間に体の熱がどんどん逃げていくので、気がついたら飲む前よりも寒かったという事態に陥ってしまいます。
 最後に、頭の保温を忘れないようにしてください。頭は面積もそれなりに大きく、多くの血管が集まっている場所でもあります。できれば毛糸の帽子のようなものを被って、できるかぎりの保温に努めるようにしてくださいね。

安全を比較して避難する場所を決める

 自分の住んでいるところがどのような災害に対して弱いのかを考えたことがありますか?
 最近の災害では「避難所への避難」をやたらと呼びかけていますが、避難しなくてはいけないかどうかは、お住まいの環境や条件によって異なります。
 隣り合う家でさえ、避難すべきかどうかの条件が異なるのですから、周囲のことは全く参考になりません。あくまでもあなたがお住まいの家がどのような災害に弱いのかをあらかじめ知っておくことが大事なのです。
 ハザードマップやお住まいの建物の強度や補強状況、土地の成り立ち、避難経路の危険箇所や避難所の状況などを確認して、家にいるのか避難所にいくのか、「より安全な方」を選択すること。
 そして、「安全な方」をより安全にするためにはどのようにしたらよいかを考えてください。
 マスメディアなどでよく取り上げられているように「災害発生予測=早めに避難所へ避難」というのは間違いではありませんが、避難所によってはお住まいのところよりも危険度が高いという場合もあります。
 また、家にはなんの被害もなかったのに、避難途中で遭難してしまうようなケースもあります。
 もちろん家の耐久度が低い場合や水没しそうな地域の場合には早めの避難が必須ですし、台風のような大規模災害が予測されるような場合なら、いっそのこと勢力圏外へ避難するのも大切なことです。
 安全は自らが確保するもので、誰かが守ってくれるものではありません。
 どの災害ならどこが強いのか、どの災害はどこへどうやって避難したらいいのかを何でも無いときに確認し、いざというときに備えておきたいですね。