安全と安心

 ここ最近「安全、安心な○○」という表現をよく耳にしますが、この「安全」と「安心」の違いはなんでしょうか。
 ウェブ上の辞典で調べてみると「安全」は「危険がなく安心なこと。傷病などの生命にかかわる心配、物の盗難・破損などの心配のないこと。また、そのさま。(goo辞書から抜粋)」だそうです。
 「安心」はというと、「気にかかることがなく心が落ち着いていること。また、そのさま。(goo辞書から抜粋)」となっています。
 つまり、「安全」は「何らかの具体的な危険や心配が無い状態」、安心は「自分が気になることが無い状態」ということで、安全は客観的な指標ががあるが、安心は個人の主観と考えることができると思います。
 そのため「物理的な安全と精神的な安心」をくっつけた「安全・安心な○○」というのが登場してきたのだと思います。
 しかし、災害対策で考えるときには少しだけ問題があって「安全な状態」は具体的に目で見える状態で証明することができますが、「安心な状態」は自分自身の気持ち一つなので、本人が納得しない限りは安心な状態にならないというところがあります。
 つまり客観的には安全であっても、どうしようとかもう駄目だと考えている限りは安心な状態ではないということになのです。
そしてさらに面倒くさいことには、存在するものはなんらかの形で証明できても、存在しないことを証明することはかなり困難だということです。例えば地震が起きたことは証明できても、地震が起きないということは誰にも証明ができないでしょう。そして、多くの方は地震が起きないという証明を誰かにしたがってもらっているのです。
 起きないことや発生しないことを証明することはかなり難しいですから、安心を獲得しようと思えばいざというときの備えをどこまで準備できるのかということになります。大規模な災害になると、労働環境の変化や生活の再建費などお金の心配は必ず出てきますが、これはある程度自分でコントロールできる部分でもあります。
 安心の逆は不安ということで、災害の後は多くの人は不安に陥ってしまうものですが、普段からいろいろと備えておくことで、ちょっとでも安心な精神状態を確保できるようにしたいですね。

パーソナルカードを考える

 個人の防災を考えるとき、最近よく出てくるようになったのが「パーソナルカード」と言われるものです。
 自分に関するいろいろな情報を記入しておくカードなのですが、災害時にこれがあると非常に役に立ちます。
 例えば、ショックによる一時的な記憶の混乱や内容があいまいだったり、あるいは思い出せない内容など、個人の生活の維持に必要な情報を記載します。
 「災害」「パーソナルカード」でウェブ検索してもらうといろいろなものが見られると思いますが、共通する内容としては、「氏名」「血液型」「住所」「緊急連絡先」「かかりつけ医」「被災後の家族の集合場所」「伝言ダイヤルに使う電話番号」などがあります。
 これを名刺~はがきの大きさの紙に書き出して普段持ち歩く手帳や財布の中に入れておくと、いざというときにはパーソナルカードだけみれば誰かに連絡がつくような状態にできるということで、いってみれば記憶に頼らない安全装置です。
 当研究所では、二つ折りのマルチカードを使って表紙を身分証明書、あとの3面をパーソナルカードとし、家族写真を中に入れてラミネート加工したものを作っています。
 こうすると、普段持ち歩く身分証明書がパーソナルカードになるため無くしにくく忘れにくいというメリットがあります。ただ、名札入れに入れたままにしてしまうこともよくあるので、防災の仕事以外の時に持っているかどうか若干の不安はあるのですが・・・。
 身分証に有効期限を作って定期的に更新することで、身分証明書が更新されるたびにパーソナルカードも更新されることになり常に新しい情報が書かれているという安心感があります。学校の名札などにも、本当はこういったパーソナルカードが入れられるといいのになとも思います。
 もちろんパーソナルカードは個人情報の塊ですから、誰かに見られるのが不安という方もいらっしゃると思いますが、そんな場合には、当研究所のように二つ折りのマルチカードの内側をパーソナルカードにしてラミネート加工しておけば、普段は中身を見られることもありません。
 ちなみに、当研究所のパーソナルカードでは「氏名」「血液型」「生年月日」「住所」「アレルギーや病気の有無」「家族の緊急連絡先」「かかりつけ医」「かかりつけ薬局」「被災後の家族の集合場所と集合時間」そして「171番(伝言ダイヤル)の使い方と伝言に使用する電話番号」を載せています。
 人によっては、金融機関の口座番号や保険証の番号などを追加していたり、性別や靴のサイズなどを書いたりもするみたいです。
 当研究所で研修などで使う汎用のパーソナルカードを参考までに掲載しておきますので、興味のある方はぜひ作って普段持ち歩くカバンや財布に入れておいてくださいね。もちろんご家族の分もお忘れ無く。

(参考)パーソナルカード(PDFファイル_76.0KB)

ボランティアセンターでできることできないこと

 災害からの復旧・復興で必要不可欠な存在になっているのが各種ボランティアの存在です。
 災害からの復旧復興を助けたいという思いで多くの人がボランティアセンターに押し寄せ、助けて欲しいという希望を出している被災者のところへ派遣されて依頼された業務を行うわけですが、被災者と支援者を結びつけるマッチングがうまくいっていない、または被災者と支援者の要求がうまく満たされていないと感じることがあります。
 助けて欲しい人の希望というのは多岐にわたりますからその全部を満たすことはかなり難しいと思いますが、助けて欲しい人の希望をうまく取りまとめて支援してくれるボランティアにつなげることがうまくいっていないのではないか。
 ボランティアというと真っ先に出てくるのが社会福祉協議会が開設する災害ボランティアセンターですが、ここで受けることができる業務は仕事や事業などの営利ではない、非営利の家庭への支援に限定されています。
 実際に店舗の片付けや農地で被災した収穫物の撤去などはかなり人手がいるにもかかわらず、営利関係ということで、ボランティアセンターからボランティアが派遣されていません。
 ですが、支援を受けたい人から見ると、家のことは何とか自分でするけれども仕事に関する部分の片付けはとても家族でできるものではないからそこを手伝って欲しいというミスマッチが発生します。
 特に農地ではこの傾向が顕著で、高齢の方がやっている田畑の復旧には人手が必要なのですが、仕事や事業に関することのために支援が受けられないという事態になり、やむを得ず廃業したり放置されたりという事態になっています。
 ボランティアセンターは社会福祉協議会が運営する都合上、営利関係に手が出せないというのはわかるのですが、それではそういった方はどこにたいして支援要請をすればいいのでしょうか。
 地方自治体が窓口となってそういった営利関係の片付けができるようなボランティアの受け入れを行えばいいのか。あるいは商工会議所や農業協同組合などが主体となってそういったボランティアの受付を行えばいいのか。
 いろいろな手はあると思いますが、現状ではどこも積極的に動いている様子はなく、社会福祉協議会に丸投げという状態になっており、社会福祉協議会も判断に苦労しているようなお話も伺うことがあります。
 最近ではさまざまなボランティア団体が専門的な支援に入ることも増えていますが、普通の人でもできる営利をもたらす部分の後片付けについて、社会福祉協議会以外の窓口設置についても、一度整理した方がいいのではないかなと考えています。

災害を追体験してみる

 災害対策でどんなことをすればいいのかを考えるとき、ひとつの方法として災害を追体験するというものがあります。
 最近はさまざまな人がいろいろな方法で自身の体験を発表する場が増えていることから、どんな災害で何をどう判断し、結果としてどうなったのかということが検証しやすくなっています。
 体験したことをありのままに記録されたものを集めてまとめることで、そのとき何が起きていたのかを知り、もし自分がそこにいたらどう判断するだろうかを考えてみる。人の体験した災害を追体験することで自分の経験値を積んでいくという手法です。
 人によってはなかなかイメージしにくい部分もあるかもしれませんが、災害対策における大きな武器の一つは「知ること」ですから、たくさん見ていくことでなんとなく理解できてくると思います。
 防災講演会などでよく被災者の体験談が語られるのも、こういった追体験の一つの方法です。もしご家族で災害を体験した方がおられれば、その時のお話を聞かせてもらうのもよいと思います。
 もうすぐ梅雨に入ります。そのときになって判断に迷わないように、いろいろな人の体験記を知ってみてはいかがですか。

体温調整に注意する

 暑くなったり寒くなったり、着るものに悩む季節です。
 朝は長袖、昼は半袖、でも夜はまだ厚手の長袖などという、暑さに慣れていない身体と、急激な温度差で体温調整がうまくいかず熱中症などのダメージを受けやすい時期ですが、今年はそれに顔のマスクが加わって体温の調節に一段と神経を使うことになっています。
 ただ、例年は早めに機械冷房を利用することで快適さを維持してきましたが、3密を避けるという視点から考えると、今年は冷房では無く窓の開放で対応することになりそうですが、そうすると今まで以上に体温調整を意識しておく必要がありそうです。
 例えば、クール素材の下着やシャツなどを使うことで体感温度を下げることができますし、濡れタオルや適温の飲み物などを上手に使えばある程度のコントロールはできそうな感じです。
 ところで、高度や風速によって感じる温度が変化することはご存じですか。
 よく言われることですが、高度が100m上昇すると気温は約0.6℃下がります。そのため、標高の低いところと比較して、標高の高い場所の気温は間違いなく下がることになります。
 また、風は体温を奪います。風速1mで体感温度が1℃下がるといわれていますので、例えば防災センターの強風発生器などの体験では、外が暑くても寒さを感じることができるということになります。
 災害で一番怖いのは全身がずぶ濡れになった後で風通しのいい場所にじっとしていることで、これは水の気化熱と風による体感温度の低下とで夏でも簡単に低体温症を招くことになります。
 大雨や水害などでずぶ濡れになったらとにかくすぐに乾いた服に着替えるように言われるのは、体温の低下を防ぐためです。
 もしも体温が急激に上昇したり降下したりするような状態であれば、額や脇の下、鼠径部などの太い血管が集中している場所を冷やしたり暖めたりすることでその人の体温をある程度調整することができます。
 また、ずぶ濡れになってどうしても乾いた着替えがない場合には、濡れた服の上からビニール袋をかぶることで気化熱と風による体温の低下を防ぐことができます。
 これから先、体温の調整が難しい時期に入ります。早めに服の脱ぎ着や気化熱、水や風の調整をすることで快適と感じる体温を維持できますので、自分の体調管理には気をつけるようにしてくださいね。

災害に対応する損害保険に入っていますか

雲仙普賢岳の噴火で土石流に埋まった一般家屋。これを補償する保険は・・・?

 建物や家財が被災したときには、自治体からそれぞれ被害程度に応じた見舞金が出されます。
 ただ、実際のところ手続きに時間がかかるのと金額も微々たるもののため、生活再建を行うのに非常に大変な苦労をすることになります。
 自己資産に余裕がある方は別として、そうでない場合には被災した建物や家財に対して支払われる損害保険をかけておくことをお勧めします。

1.災害に対応する損害保険

 災害で受けられる建物や家財に対する損害保険は発生する災害によって異なりますので注意が必要です。
 基本的には「火災保険」がベースになり、これに水害対応をつけると住宅総合保険となります。「地震保険」は火災保険が契約されていないと契約をすることができないので、火災保険のオプションのような性格を持っています。
 地震保険では、地震によって発生した火災、家屋倒壊または家屋埋没、噴火による家屋損壊、津波による家屋流出が補償されることになっています。
 ここで気をつけないといけないのは、火災保険では地震による火災での焼失は補償されないということで、火災保険に入っているから安心ではないことに注意してください。

2.見舞金と保険金の違い

 自治体からの見舞金は、基本的には「全壊」「半壊」に対するもので、被災度判定調査によって決められた判定により支払われるものです。市町村によっては、被災者に対して支払うこともあるようですが、どちらにしてもあなた自身の事情や状況は考慮されないことに注意してください。
 損害保険は、加入する保険会社や保険の種類、お住まいの地域などの条件によってさまざまですが、大きく分けると今現在の価値の金額を補償する「現存価格補償」と、被災した建物や家財を再調達するための費用を補償する「再調達価格補償」があります。
当然、条件がよい保険ほど掛け金も上がりますので、あなたの状況やあなた自身のBCPにより保険をかけるようにしてください。

3.もし被災したら

 生活再建にはすぐにでもお金が必要となりますが、基本的には保険会社の調査員が現地を確認し、その損害状況を判定した上で支払うべき保険金を算定することになります。
 ただ、大規模な災害だったり、すぐに解体しないと危険な場合などには調査員の調査が間に合わない場合があります。そのため、保険会社に連絡して承諾を得ることができれば、写真を撮って現地調査に変えることができることがあります。自治体の被災度判定などにも使えますので、被災した場合には被災した家屋や家財など被災したものをあらゆる角度から撮影しておくことをお勧めします。
 また、保険金の算出後はかなり早く支給がされるようですが、これも保険会社によって異なりますので、万が一の時には保険会社に相談することをお勧めします。

4.災害に備えて

 火災保険や地震保険をかけていても、被災した後で速やかな手続きをとるためには保険をかけている保険会社や保険の証券番号があった方がよいので、あなたのパーソナルカードの中にそれらの情報を追加しておいてもいいかもしれません。
 また、大規模災害などでは損害保険協会に照会するとあなた自身がかけている保険会社や保険の証券番号を調べてもらうこともできますので、提供される情報に注意をしておいてください。

 なお、今回記載した損害保険についてもう少し詳しいことが知りたい方は、日本損害保険協会のウェブサイトをご一読ください。

損害保険とは?」(一般社団法人日本損害保険協会のウェブサイトへ移動します)

ローリングストックと賞味期限

アルファ米いろいろ
非常食は自分にあったものを選びましょう

 一般に防災食や非常食と言われる食品は賞味期限が最低でも1年以上長いものだと20年などというものまであり、自治体の備蓄としてそれなりの数が保管されています。
 ただ、これら非常食の備蓄を普通のご家庭でやろうとすると、ネックになるのが調達先とお値段と保管。最近はインターネットの普及や防災意識の高まりからそれなりに買えるようになりましたが、単価はやはり高く、そして普段使いのものと比較すると味も少しだけ劣るかなというものが多いです。
 例えば、アルファ米は1人前1食が約300円しますが、3食で900円程度。無洗米なら2kgで約1,000円で、1人で食べるなら3食1週間は持つと思うので、単価としてはアルファ米はかなり割高になると思います。
 また、レトルト食品も常温保存できる普通のものは約1年なのに対して防災用のレトルト食品は3年から5年は保存できますが単価は倍近く違います。
 費用対効果で考えるのであれば、普段食べているものを少しだけ多めに調達しておいたほうが効率がいいという結果になってきます。
 また、保管期限が長くなると、おうちでの管理が忘れられてしまうという危険性があります。賞味期限が長いと安心してしまって、非常用持ち出し袋の中で押し入れの奥にしまい込まれて忘れられてしまい、結果として全部駄目になるということが本当によくあります。

 防災食や非常食はその性格上軽く、持ち運びしやすく、そして保管しやすいという特性があります。妙ないい方ですが、一食二食であれば食べるのにわくわく感もあって楽しめるかもしれないのですが、普通のおうちで考えたとき、そういった非常食だけで被災後の食事を補うという考え方は止めた方が無難です。

 被災時に普段と変わらないものを普段通り食べることができるというのは心身の平穏にとって非常に優れた効果をもたらしますから、家庭での備蓄は普段使っているものを少し多めに調達して使ったら補充するというローリングストック法がお財布にも心身にもやさしいということになります。


 昨今の新型コロナウイルスでは、マスメディアによる「○○が足りない」という報道が出るたびに全国的にその「○○」が不足して買えなくなり、インターネットではとんでもない金額で売られていたりすることも日常茶飯事となってきました。
 最近ではホットケーキミックスやパスタ、パスタソースや袋麺などが手に入りにくくなっていますが、本当は何も無いときにこそ少し多めに備蓄しておいて、いざというときに慌てて買い占めに走らないようにするのが理想です。
 目安は、以前は3日分、最近は1週間程度とされていますが、現在の新型コロナウイルス騒動を見ていると半月程度は備蓄しておいたほうがいいのかなとも感じます。

 とはいえ備蓄量については各ご家庭の保存能力や使用量によってかなり異なりますので、あなたのおうちでの備蓄可能場所と消費量を考えて準備をしてください。

 最後に、これは余談ですが都会にないからといって田舎のおじいちゃんおばあちゃんに不足している物資をおねだりすることもできれば止めて欲しいなと思います。田舎は元々物流量少なく供給量も少ないので、特定の物資が無くなった場合、供給は大消費地である都会地優先となるため、田舎への供給再開はかなり遅れるのが現実です。
 そうすると、本当にそれを必要としている人に物資が供給できません。都会には都会の物流、田舎には田舎の物流があることをご理解いただき、田舎からの物資はお米や野菜など田舎で生産しているものに限定していただけるといいなと思います。

マイタイムラインを作ろう

 地震のようないきなり発生するような災害を除くと、その大小はありますが災害には予兆が必ずあるものです。
 とくに大雨や台風など、水に関する災害はある程度予測がつくので、その予測に従って行動すればあなたの安全はとりあえず確保されることになります。
 ところで、水に関する災害に関しては現在警戒レベルが決められていてそのレベルに応じた行動をすればいいことになっているのですが、一つ問題になるのが、この警戒レベルの発表基準が面的なものであるということです。
 例えば、「○○市××町に避難勧告が出されました」と聞くと××町の人は全て避難所に避難するようなイメージになるのですが、実際のところは避難勧告が出る前に水没している家屋があったり、避難する方が危険な場所に住んでいる人がいたりします。
 そのため、自治体が発表する警戒レベルだけではなく、自分の住んでいる場所の警戒レベルを作って置いた方が安心です。
 住んでいる場所の警戒レベルというと難しそうに聞こえますが、実際のところは、「家の裏の溝が溢れたら避難する」とか「近くの水路の水が8割くらいの量になったら避難する」というような避難をすべき判断基準を作るという作業で、その際に活用できるのが「タイムライン」です。
 タイムラインの作成は3日前から始まることが多いのですが、あなたが避難するために必要なさまざまな情報収集や準備の順番や段取りを決めていく作業ですが、この中にあなたの住んでいる場所の避難判断基準も入れておくのです。
 タイムラインは「東京マイ・タイムライン(東京都のウェブサイトへ移動します)」や国土交通省下館河川事務所が出している「みんなでタイムラインプロジェクト(国土交通省下館河川事務所のウェブページへ移動します)」を確認していただければタイムラインの詳しい考え方や作り方がご理解いただけると思います。新型コロナウイルスで家から出られないこの時期だからこそ、あなたやご家族と一緒に作ってみてはいかがでしょうか。
 これからは梅雨、夏の大雨、そして台風と水の災害がいろいろと起きてくるかもしれません。まだ何も起きていない今の時期だからこそ、あなたのタイムラインをしっかりと整備して、いざというときに余裕を持って避難ができるようにしておきたいですね。

福祉避難所をどう開設するのか

 福祉避難所は、乳幼児や障害者、生活に人の支援が必要な人など、「要配慮者」とされている人達が必要なケアを受けられるように設置される避難所です。
 この福祉避難所、開設は義務ではありません。自治体が必要と判断したときに設置することができるとされており、福祉避難所へ避難できるかどうかは避難所を巡回する行政の保健師や医師などが判断することになっています。
 詳しくは内閣府の作った「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を見ていただきたいのですが、要支援者が自分で判断して福祉避難所に避難することができないため、発災時には要配慮者は通常の避難所に避難するしかありません。
 その結果、通常の避難所では避難し続けることが困難な状態になって、自宅避難や車中避難、あるいは最悪の場合避難先がないという事態が想定されます。
 これだけ災害が日常的に発生し、自治体のマンパワーが不足している現状では、福祉避難所は通常の避難所と同じ条件で開設した方がその後のトラブルが少ないと考えるのですが、福祉避難所に指定されるディーサービスセンターや老人介護施設などは普段営業を行っていることから、「災害が起きる可能性」だけで営業を止めて避難所開設というわけにはいかないのかなとも考えます。
 避難所に避難してくる人達を見ていると、要配慮者の方は比較的早めに避難しているように感じます。ただ、多くの方が避難してくるとさまざまな事情で追い出されてしまう現状になっているので、「避難所内で何とかしろ」ではなく、きちんと支援できる体制のある場所で福祉避難所を開設した方がよいと考えるのですが、あなたはどう思いますか。

避難開始のルールを決めておく

 災害情報や警戒レベルについては以前「災害時の情報にはどんなものがあるだろう」という記事で触れたことがありますが、警戒レベルについてはレベル順に発表されるとは限りません。
 短時間に集中してピンポイントで降るような雨の場合だと、警報から二つレベルが上がっていきなり「避難勧告」が出るケースも想定されます。
 そのため、警報が出たらその後どのように雨が降りそうなのかについてアメダスや降雨量、雨雲レーダーなどの気象情報を確認して置かなければなりません。
 緊急時に判断するときには、大抵の場合「これくらいなら」とか「まだ大丈夫」といった正常性バイアスによって気がつくと避難するのに手遅れの状況になっていることもよく起きますので、自分たちが「何が起きたらどこへ避難を開始するのか」を平常時に決めておかなければ冷静な判断はできないと思います。
 平常時に決めた避難基準、例えば「時間雨量が30mmを超えたとき」や「近くの川の水位が一定量を超えたとき」「家の前の側溝が溢れたら」などの条件が満たされたら、いろいろ考えずに避難を開始することをルール化しておきます。
 もし避難後に何も無くても、「何もなくてよかった」のですから喜べばいいのですし、判断基準がおかしいかなと感じたら、その感覚を元にして避難開始のルールを変更すればいいだけの話です。
 「避難所」が開設されていなくても「避難できる場所」を決めておけばそこで過ごせばいいですし、「避難場所」であれば条件なしに避難をすることが可能です。ただ、避難場所は殆どの場合場所だけの提供となりますので、雨を凌げる装備が必須となることに注意してください。
 また、水没や崖崩れなどの心配が無い場所や近くに避難できる場所がどうしても見つからないなら、家の中の上層階への避難でもやむを得ません。(避難所の詳しいことについては当研究所の投稿記事「避難所の種類と機能について考える」をご覧ください。
 いずれにしても、避難開始のルールを決めておくことで避難遅れはなくなりますから、どうなったらどこへ避難するというおうちのルールを作って、家族みんなで共有しておいてくださいね。