耐震化する意味

 各自治体が耐震補強に対する補助を行っているようですが、なかなか耐震補強が進んでいない現実があります。
 一般住宅に限らず、会社や古いビルなどでも耐震化が進んでいないのですが、予算がないからといって後回しにしていい問題ではないことに気づいている方がどれくらいいるのかなと考えます。
 震度6強以上の地震に遭った場合、古い家や会社、ビルなどは倒壊する危険性があります。
 石西地方でもいつ揺れてもおかしくないと言われている弥栄断層が存在していますが、これが動くと最大でマグニチュード7.7程度の地震が起きる(政府地震調査研究推進本部)と予測されています。
 情報が少ないためにいつ頃動くかは不明ですが、いつ動いても不思議ではないということでもあるので、今この瞬間にも揺れるかもしれません。
 でも、もし地震が発生したら、その時になって慌てて地震対策をしようとしても手遅れです。地震で生き残るためには、とにかくものの下敷きにならないことですが、古い家屋に人がいて倒壊した場合、かなりの確率で圧死することになってしまます。これは運が悪かったでは済みません。耐震補強しておけば助かったわけですから、想定外では無く人災になるわけです。
 特に会社やビルなどで倒壊が起きたとしたら、耐震補強にかかる経費以上にさまざまな出費を強いられた上に信用まで無くなるという、ある意味では致命的なダメージを負いかねない状況になります。幸い建物全てを耐震補強しなくても一部を補強したり一室だけを補強するなど、最近ではいろいろな方法がありますので、いくらかお金をかければ対策は充分に取ることが可能な時代になっています。
 地震の怖いところはいつ来るか分からないところですが、地震は地面が揺れるだけですから、対策さえきちんとできていれば死ぬ可能性を下げることができます。
 繰り返しになりますが、地震で倒壊した家屋の下敷きになって圧死することは想定外ということができません。
 耐震補強は高く感じるかもしれませんが、あなたや従業員、関係する人のの命の値段と考えてみたら、それでも高いと感じますか。
 かけた費用の分だけは確実に安全が確保できる。そういう意味では、地震は相手にしやすい災害なのかもしれませんね。

ハザードマップの検証をしていますか

DIGの風景
地域の強み弱みを知って考えよう

 各自治体ではハザードマップを作成して自治体内の世帯に配布していますが、あなたは見たことがありますか。
 ハザードマップは特定の条件下での被災状況を図化したもので、自治体や地域の避難計画作成の基礎となる資料の一つです。
 これには地震や浸水害、土砂崩れの危険性が色分けで表示されていて、とりあえずの危険な場所がわかるようになっており、あなたが避難計画を作るときには必ずこれを見ているはずです。
 ハザードマップの検証では、自宅からの避難だけでは不十分です。勤務先や通学先、途中の経路、よく買い物や遊びに行くところ、そして自分が避難すべき避難所の災害対応状況といったものも確認しておかなければいけません。
 避難所は災害から身を守るために避難するところなので、避難すべき避難所がどのような災害に対応しているのかを正確に把握しておかなければ、避難した避難所で被災したと言うことになりまねません。
 想定される災害のハザードマップに、地域の災害伝承の情報を追加すると、より安全な避難を行うことができるようになりますので、分かる範囲で確認して追加しておきましょう。
 避難経路は状況や環境の変化によって常に見直しが必要ですし、地域としての防災マップ作りも必要となるでしょう。
 今住んでいる場所だけでなく、自分が行きそうな場所の経路と安全性を確認しておいて、いざというときに備えたいですね。

サバイバルと防災対策

 最近生き残るための技術を学ぶと言うことで、サバイバル関係の本や企画を目にするようになってきました。
 記事などを見ているとかっこいいなと思ったりするのですが、防災という視点で見ると、似て異なるものというイメージを持っています。
 サバイバルと言ってもさまざまなレベルがあるようですが、多くの場合最低でもナイフ1本は持っている条件になっているような気がしますが、現実問題としてサバイバルに耐えうるようなナイフを持って歩いていたら、おまわりさんに職務質問されたときに署までの同行を求められてしまうでしょう。
 そういう意味では、現在のサバイバルは環境が整えられた状況で無ければいけないのかなとも考えてしまいます。
 もちろんそれらで使う知識は被災時にも必ず役に経つものですからやっておいて損は絶対にありません。ただ、サバイバル体験ができたから防災は大丈夫とは言えないところがあるのです。
 サバイバルでは最低限の道具でさまざまな生活環境を整えていくわけですが、防災ではできるかぎり生活レベルを落とさないような準備と考え方が必要とされるからです。
言い換えれば、災害という非日常体験をいかに日常に近づけることができるかが防災ということになります。
 サバイバルと防災は似て異なるもの。
 でも、どちらの知識や経験も生き延びるためには必ず役に経つ知識ですから、興味のある部分だけでもいいので、体験してみることをお勧めします。

火を起こせますか

 災害後、どうかすると火を自分で作らなければいけない事態が起きることがあります。
 昔はたばこを吸う人があちこちにいて、火をつけるためのライターやマッチを持っていたものですが、最近は電子たばこになったそうで、マッチやライターは使わなくなったと聞きます。
 簡単に火をつける道具を持っていればいいのですが、そうでない場合には何とかして火をつける必要があるのですが、あなたは火をおこす方法をどれ位知っていますか?
 火打ち石やファイアスターターに始まり、虫眼鏡やペットボトル、太陽光反射や摩擦による火起こしまで、火を作る方法はいろいろとあります。

摩擦熱による火作り。煙から火を作り出すのがかなり難しい。


 ただ、その方法を知らなければ何の役にも立ちません。
 最近は火は危ないと言うことで日常生活からどんどん遠ざけられていますが、危ないからといって知らなければ万が一の時には自分の命が危なくなります。
 あなたが持っている非常用持ち出し袋や備蓄品のセットで火を作ることができますか。また、火を維持することができますか。装備の見直し時には、そういった点も考えながら準備してください。

72時間の意味

 エーゲ海で大きな地震が起きました。マスコミでは地震発生から72時間を過ぎると建物などに閉じ込められた要救助者の生存が殆ど絶望のような報道もされていますが、なぜ72時間なのか考えたことがありますか。
 今日はこの72時間という時間について考えてみたいと思います。

 72時間以内にできるかぎりの救助をしなければ生存者が極端に減ってしまうと言われています。これは阪神淡路大震災で倒壊した建物などから救助できた生存者の割合が、初日は74.9%だったのが2日目には24.2%、3日目、すなわち72時間後には5.4%となり、72時間を過ぎるとかなり下がってしまうことが示されたためです。(出典:「阪神・淡路大震災の経験に学ぶ」 国土交通省近畿地方整備局作成)
 もっとも検死報告書では死者の殆どは圧迫死による即死状態ともあるためこの数値をそのまま鵜呑みにすることもよくないようですが、被災後早ければ早いほど助かる人が増えるのは事実です。(出典:阪神・淡路大震災教訓情報資料集【02】人的被害 内閣府作成)
 また、水は3日飲めないと脱水症状を起こして死に至るからだという話もあります。これも72時間以内の救助が言われている原因でしょうが、通俗的に言われているものなので何か確証があるようなものでもなさそうです。
 最終的に生存できるかどうかは本人の体力や閉じ込められた環境、天候などにかなり左右されるので、72時間を超えたから生存者がいないというわけでもありません。

 ただ、救命率を表す72時間という表現は要救助者がいる人にとっては一つの目安になる数値です。さまざまな要因でこの時間内に救助が間に合わない場合には、あきらめがつくという効果もあります。
 マスコミは大規模震災が起きたときに批判的に使われることもありますが、これも数値があることで起きる一つの現象ではあります。
 ちなみに、この数値は人命救助以外に備蓄品の目安や自助でなんとかすべき時間の目安にもなっているので、いろいろな意味で災害対策とは切り離せない数字なのだと思います。

 消防の緊急消防援助隊や警察の広域緊急援助隊、自衛隊などの救助のプロ達は生存者がいると思われる場所で重点的に救助活動をします。
 つまり、生存者がいないと判断されてしまえば、そこに救助隊が来るのは72時間よりもずっと後になってしまいますから、閉じ込められたときに備えてホイッスルを準備しておくことをお勧めします。
 また、一番良いのはそもそも倒壊に巻き込まれたり閉じ込められたりしなくてもすむような環境を整えておくことです。おうちや周囲の地震対策をしっかりとやっておいてくださいね。

安全の優先順位

 「安全は全てに優先する」というのが建設現場などで掲示されていることを見たことはありませんか。「セーフティーファースト」の日本語訳だそうですが、「安全第一」という方がわかりやすいかもしれません。
 ただ、この安全に順位があるとしたら、あなたはどう考えますか。
 災害対策では、この安全の定義がよく変わります。
 発災直後では、安全とは「身体の安全」に他なりません。何を置いてもまずは逃げて自分の命を守ることが最優先される安全です。
 発災後は、自分がこの先どうなっていくのかという不安を解消することが優先される安全になってきます。
 そして、発災後しばらくすると、今度は収入や仕事、衣食住といった生活の安全が優先されています。
 それぞれ全て安全には必要なものなのですが、時期と状況によって優先されるべき安全の順位が異なってくるということで、防災支援活動では時間の経過によって変わるこれらの優先順位にどう答えていくのかが大切になります。
 被災後にすべてが元通りになることはありません。ですが、被災者の居心地のよい安全を確保するためにさまざまな支援を行っていく必要があるのです。
 コロナ禍で起きた災害では、災害復旧を支援する人達はかなり限られた状態になりました。その結果、復旧が遅々として進まない状況の場所もあるようです。
 そんな中でも、被災者の安全を確保するために、現地の支援者達は様々な知恵や工夫を凝らして活動をしています。
 あなたに考えておいて欲しいのは、もしも自分が被災者になったとき、さまざまな安全をどうやって確保するのかということです。自分が対応策を準備しておけば、安全が安心に変わって激しく不安にならなくても済むからです。
 そのために作るのがBCP(事業継続化計画。ご家庭の場合だとFCP(家族継続計画)ともいいます)で、実はこれが一番の災害対策といえるかもしれません。
 安全の優先順位は変わっていきます。それに合わせた自分が生きるための継続化計画を、きちんと作っておきたいですね。

風と汗と防寒と

 寒い日でも身体をしっかりと動かすと暑くなって服を脱いで温度調整したりするものです。汗をしっかりかいた状態で上着を脱ぐと涼しくて一息つくことができますが、そのままの状態で身体を冷やすと必要以上に冷えてしまって慌てて服を着込むことになったりします。
 もしも汗をかいてしまったら、服を脱ぐのと一緒に汗をタオルなどで拭き取るようにしてください。汗を拭くことで身体の乾燥が保たれ、必要以上に熱が逃げることを防ぐことができます。
 また、なるべく風に当たるのを避けることも大切です。
 最悪なのは汗をかいた状態で冷たい風に当たってしまうことで、へたをすると低体温症まっしぐらになってしまいます。
 冬の風は冷たく乾燥していて熱をいくらでも持って逃げてしまいますから、夏以上に風対策が必要となることに注意してください。
 上手に調整しようと思ったら、厚手の服を着るのでは無く、薄い服を重ねて着ることです。体温調整もしやすいですし、服の間に空気の層ができますから厚手の服を着るよりも暖かくなります。
 一番外側に着るものが風を通さない素材だと、冬でも非常に快適に活動をすることができます。
 一番良いのは、肌着と一番外側の服を発汗製素材にしておくことです。そうすることで、肌に当たる部分が濡れるのを防ぎ、ある程度までは水分を外へ放出できます。
 低体温症になると、自分一人ではまず対策は不可能です。
 そうならないために、自分に最適な重ね着の方法を作っておくといいと思います。

危険を予知する

 子ども達と話をしていると、年齢が高くなるに従って危険の予知力が落ちてきている気がします。
 小さい子だと素直に危ないと感じることでも、年齢が高くなるといろいろな理由を考えて「危なくない」という結論を出そうとしているように見えるのです。
 「怪我は許さない」「危険な目に遭わないように」という世の中の方針が間違っているとは思いませんが、ありとあらゆる危険を排除して生活していると、危険を感じる能力が低下してしまいます。
 子どもだけでなく大人も同じで、危ないということが理解できない人達が増えています。
 その結果が、増水する川の中州でバーベキューしたり、雨の山の鎖場で滑落したりすることに繋がっているのではないでしょうか。
 筆者個人としては、無防備な危険は避けるべきだと思いますが、制御された危険は小さいうちにしっかりと体験しておくべきだと考えています。
 死なない程度の危険を繰り返して体験しておくことで、自分で安全か危険かの判断ができるようになっていきますから、危険なことは危険であることを教えた上で体験させておく必要があるのではないでしょうか。
 「刃物は危険だから使わせない」が進むと、いざ刃物を使うときにやってはいけない危険で致命的なことをやってしまいがちです。
 川や水の流れの怖さを知らないと、増水している川で平気で遊んだりします。
 危険を予知する能力は、ある程度危険な体験をしないと育たない。そのために制御された危険をしっかりと体験すべき。
 災害対策も同じで、そのために体験型の防災センターや起震車などが活躍しています。体験をしておけば、いざというときに必ず役に立ちます。
 危険を予知する能力を上げるためにも、さまざまな野外活動に参加したり、防災体験をしてほしいと思います。

紙鍋でお湯を沸かしてみる

 被災後の気力維持で重要なものの一つにいかに暖かいものを口にすることができるかというものがあります。
 とりあえず安全な場所に避難してから、しっかりとした支援物資が来るまでの間、暖かいものが口にできていれば気力は案外としっかり持てるもの。
 お湯を沸かす道具がきちんとあれば何の問題もないのですが、何か足りないのが非常時の常。
 今回は紙を鍋にしてお湯が沸かせないかを試してみました。

水がしみない紙ならなんでもいいみたいだが、今回は安全を考えて食品に使えるクッキングシートを採用。

 準備したものは、小さめのざるとクッキングシート、それに燃料としてのまつぼっくりです。
 まつぼっくりはしっかりと乾かしてあるので、火力は充分なはずです。
 紙はクッキングシート。クッキングペーパーは水を吸い取ってしまうので火にかけるのには向きません。
 水を吸わなければどんな紙でもいいのですが、今回は食の安全を考えて普通に食用に使っているクッキングシートを使います。
 紙鍋だけだと、水を入れたときに強度が不足して壊れてしまうので、支えるためにざるが必要です。

 まずはクッキングシートを手頃な大きさに切ってざるの中に入れます。きれいな形にはなりませんが、そこはそんなもんだと割り切ります。
 水を注いで五徳の上に載せ、まつぼっくりに火をつけます。

 まつぼっくりはしっかりと燃えてくれますが、全体にうまく火が回らない・・・。
 仕方が無いので助燃剤を使ってお湯沸かしを継続します。
 松ぼっくり+助燃剤で10分。まつぼっくりはうまく燃えてくれず、やっぱりうまくいかない・・・。

 あまり長いこと指をつけていることができなかったので、水温は60~70度までは上がったと考えられますが、燃料が尽きて沸騰まではいかず。


 面白くないので、自宅のガスコンロにかけてみました。
 弱火から中火だと、燃えずにうまくお湯が沸きそうです。
 紙鍋が燃えない理由は水のある部分が熱を持って行ってしまい、紙が燃えるための温度まであがらないからなのですが、早くお湯を沸かそうと思って火力を少し上げると・・・。

 火が水のない部分に当たってしまい、見事に燃えてしまいました。

泡のように見えるのは沸いたお湯。ちゃんとお湯は沸いていた。

 終わってみると、鍋の水面を境に見事に水のあるところだけが燃え残りました。

 中のお湯を出して底を見てみると、それでも焦げたようになっています。
 普通の小鍋用燃料ならしっかりお湯が沸いたのかなと考えましたが、今回はこれで終了となりました。
 被災後にはあるもので何とかしなければなりません。
 こういった知識が直接役に立つかどうかはわかりませんが、知っておいて損は無いと思います。

企業や施設におけるBCPで考えておくべきこと

 大きな災害が続くと、企業や施設などの防災対策に注目がされるようになります。
 その中でも、BCPと呼ばれる事業継続化計画についてはある程度までは簡単にお金をかけずにできることからそれぞれの企業や施設で準備されてきているようです。
 ただBCPを作成するときによく忘れられているものの一つに「利用者にいかに不便を感じさせないか?」というものがあります。
 企業や施設において、利用者がいなくなることは致命的な問題を生じさせますから、利用者の確保は通常時、被災時を問わず大切な問題となっています。
 利用者を確保し、利用し続けてもらうために作成するのがBCPの重要な役割の一つであることは間違いありません。
 そして、自分のところの復旧を急いで利用を再開してもらうことは重要ですが、利用者が可能な限り早く利用再開ができる手段も講じておく必要があるのです。
 利用者目線で見れば、あくまでも利用が再開できることが重要なのであって、利用先がどこなのかということはそこまで大きな問題にはなりません。もし利用先にこだわっている人であれば、説明できれば再開まできちんと待ってくれています。

 自分のところの復旧が遅れそう、もしくは再開の目処が立たないときに利用者をどのようにするのか。つまり利用者の扱いを決めておくかどうかでその後の流れが変わってきます。
 企業や施設が利用者よりも先に自分のところの状況を説明し、代替手段を提供できれば、利用者が自分のところが再開したときには戻ってきてくれる可能性が高くなります。でも、利用者自身が新たな利用先を見つけて動いた場合、自分のところが再開しても利用者が帰ってきてくれないでしょう。
 利用者は放置されたという負のイメージに加えて、新しいところを見つけるという自分がかけた手間が正しいと感じるからです。
 もし自分のところが利用先を紹介し、再開時にはまた案内すると言っておけば、利用者も納得しますし紹介した利用先もそれなりに配慮してくれるはずなので、誰も不幸にならない選択肢が選べます。
 つまり、BCPの中には自分のところの復旧、復興用件だけで無く利用者に対してどのように情報提供し、どのように利用再開してもらうのかという視点も必要になると言うことです。

 災害対策に関して言えば、ライバル企業やライバル施設であってもお互いに協力できる体制作りをしておかなければいけません。
 自分のところを守るためにライバルと協調するというのは不思議な気がするかもしれませんが、大切なのは利用者の利益を確保することです。
 そこのところに注意してBCPを作成しておきたいですね。