中間支援組織の必要性

 災害現場に行くと必ず出会うのが、ボランティアと被災者ニーズのミスマッチです。
 特に行政側の人数が絶対的に減っていることで、被災者ニーズの把握がかなり困難になってきています。
 最近では倒壊危険家屋などで作業ができたり、重機を使ってさまざまな作業をしたり、介護や看護を行う専門ボランティア団体も増えてきて、被災者のさまざまなニーズに対応できるような体制になりつつありますが、受け入れ態勢や支援希望者とのマッチングといった作業が遅々として進まないという現状があります。
 災害後には行政の仕事は莫大な量になるため、被災者支援、特に復旧支援については後回しになり、社会福祉協議会などが設置するボランティアセンターなどにお任せになってしまうことが多いのですが、ボランティアセンターに集まったニーズが、専門ボランティアに共有されるのにはいろいろな壁があるようです。
 この被災者のニーズと専門性を持つ専門ボランティアをうまくマッチングさせ、いち早い復旧を目指すための後方支援をするのが中間支援組織です。
 実際に大規模災害の被災地では行政だけでなく、さまざまな支援団体から構成される復旧支援会議が行われますが、こういった会議の開催や運営の支援を行うのも中間支援組織になります。
 しかし、この中間支援組織はなかなか形が見えにくいもので、平時にどのような運用をすべきなのかについては、現時点では答えがない状態です。
 ただ、平時から構成しておかないと、非常時にいきなり立ち上げてもうまくいきません。
 現在さまざまな団体がこの中間支援組織の具体的な形作りを模索しているところですが、この形は、ひょっとしたら地域によって正解が異なるのかもしれないと思うこともあります。
 これから大災害が起きた時、膨大な被災者と膨大な支援者をつなぐための中間支援組織。平時からさまざまな団体が連携できる場を作り、それをつなげることで大きな輪にできないか。
 現在当研究所が考えている大きな取り組みの一つです。

被災後は暇にしない

日本の災害では、被災者の方をお客様にしてしまうことがよくありますが、被災者の方を完全なお客様にするのは止めた方がよさそうです。
というのも、やることがある人はともかく、「被災して大変だから」と何もさせない状況にしてしまうと、人間ロクなことを考えなくなるものです。
特にお年寄りにはこの傾向が強いのではないかと感じていますので、できることをどんどんお願いしていくような体制を早い段階で構築しておくとみんなが幸せになれます。
日中、家や職場の片づけや仕事がある人はそちらに専念してもらって、やることがない人は避難所の運営や地域の仕事にどんどん協力してもらいましょう。
忙しいと、悪いことを考えている暇が無くなりますし、なによりも仕事をやっているという充実感があるものです。
どんな人でも、大抵何かはできます。
避難所の運営者や地域のまとめ役をしている人は、誰がどんな仕事なら、どうやればできるのかについて考えて、どんどん仕事を振り分けていきましょう。
そうすることで、相対的に自分でないとできない仕事だけが手元に残りますし、仕事が回りだすと状況もよくなるものです。
被災後の基本は、できる限り暇な状態にしないこと。
精神的なことが原因の災害関連死を防ぐためにも、意識しておきたいことの一つです。

自己責任ってなんだ?

 大雨や台風など、最近は正確な予報が出るようになって、行動の判断がしやすくなりました。
 もちろん外れることもあるわけですが、それでも安全側に行動を切り替えることで自分の安全が確保できるのであれば、それは納得できる部分なのではないかと思います。
 そして、天気予報の精度が上がってきたので、公共交通機関もより安全に運行をするため、計画運休や大雨が予測される際の運休、減便をする判断がかなり早くされるようになってきています。
 一昔は、途中で列車やバスが止まってしまって、1日以上閉じ込められているなどということもありましたが、事前に運転取りやめを判断するようになってからはそのようなことはかなり少なくなっています。
 でも、せっかく予報が出ているのに、多くの人は行動を変えません。何もないときの延長線上で行動してしまい、運休に巻き込まれて行動ができなくなるという人がかなりたくさんいます。
 天気が相当悪くなる予報が出ていて、公共交通機関も運転取りやめの情報を発信しているのに、自分は通常通りの行動をしてしまう。
 せっかく携帯できる情報端末であるスマートフォンを持っているのですし、持っていなくても、テレビやラジオなどでもこういった状況は何度も伝えていますから、毎日時間を作って気象情報や交通機関の運転状況を確認すれば、自分の行動をより安全にすることは可能なはずです。
 また、経営者は従業員の命を守る義務がありますから、計画運休や悪天候による運休の可能性が出されているときには、従業員にそれを伝え、自身を守らせる行動をしなければなりません。
 どんな立場であれ、「私は知らなかった」は理由にはならないのです。
 もちろん、雇用主や客がそういったことに無頓着な場合もあるでしょう。でも、できる範囲での自己防衛はしておかなければ、ひどい目に遭うのは自分だということを忘れないでください。
 ここ最近、発生する災害が大規模になる傾向が強いです。
 そして企業コンプライアンスが声高に言われている以上、公共交通機関は今までのように「何とかなるだろうと無理やり動かす」といったことは、まずありえません。
 それがわかっているのですから、自分の行動を自分で情報を集めて決定することは、これからは必須になってきます。
 毎日きちんと天気予報を見て予測し、天気が荒れそうなときには、公共交通機関が止まるかもしれないことを予測して行動を考える。
 それが当たり前であり、公共交通機関は何があっても止まらないという幻想は持たないようにしてください。

災害が来る前に備える

 気象予報の精度がずいぶんと上がってきて、災害が起きると予測される精度も上がってきています。
 特に大雨や台風といった、事前に予測できる災害については、割とよく当たっているなという印象を受けます。
 よく当たる、ということは、それに対して備えることもできるということで、大雨や台風で被害が出るような予測が出ているときには、普段とは違う行動、いわゆる災害への備えをしておく必要があります。
 備えておけば、被害は最低限に食い止めることができるわけで、備えないという理由はありません。仮に何事もなかったとしても、本番を想定した練習と考えれば、次回への反省点や修正箇所が発見できていいのではないでしょうか。
 災害で怖いのは夜の間にさまざまな被害が発生することです。
 一番いいのは、絶対に雨の影響のない場所で過ごすことですが、想定で避難所を開設したり、自主避難を促したりすることはまだまだ稀ですので、自分で安全確保を考えて寝る場所を決めましょう。
 例えば、浸水するような箇所に住んでいる人は、できるだけ高い場所で寝るようにしてください。また、がけが崩れ落ちてくるかもしれない場所にお住いなら、がけから一番遠くで一番高いところにある部屋で寝るようにすれば、もしがけ崩れが発生しても巻き込まれて怪我をする確率はかなり下がります。
 これも常時と非常時の切り替えで、災害が想定されるようなときにも、非常時と考えて普段とは異なる、自分の安全を確保するための行動を取るようしましょう。
 災害が想定されるような事態は、数は増えてきているとはいえまだまだ日常には程遠い回数でしかありません。
 万が一に備えて行動することは、決して恥ずかしいことでもダメなことでも時間の無駄でもありませんので、自分の命を守るために、普段と異なるより安全が確保できるような行動を取るようにしてくださいね。

危険を見つけよう

 災害が発生すると、普段はなんでもないような場所がものすごい危険な場所になっていたりすることがあります。
 よくあるのがアンダーパスで、普段は何も意識せずに通行していても、短時間に大雨が降ったようなときだと、いきなり池になっていたりします。そういうときには、大抵道路管理者が通行禁止措置を取る前に、多くの車が突っ込んで水に沈むことになっていると思います。
 でも、大雨のときにはアンダーパスは水がたまるかもしれないと意識しておくとどうでしょうか。もしくは、雨の時にはアンダーパスは通らない、できれば普段から使わないといった行動をしていると、冠水時にも自分は被害を受けなくてもすむかもしれません。アンダーパスは危険な場所ということが意識できれば、行動が変わるのです。
 同じようなことが、谷が集まる場所にも言えます。
 普段はなんともなくても、山で大雨が降ると、それが谷筋に流れ、谷が集まる場所では大水が出てしまうことがあります。
 困ったことに、これらはハザードマップでは表示されないケースがよくあり、浸水しない場所のはずなのに床下浸水してしまったりすることがよくあります。
 そのことを知っていると、普段から降ってくる雨の量が気になってくると思います。
 普段から降っている雨の量を意識するようになると、普段の雨と普段と違う雨にも気づけるようになります。
 普段と異なる雨に早くから気づくことができれば、被害が発生する前に避難するなどの対応策も可能になります。
 危険は普段の生活のあちこちに潜んでいますが、毎日の生活ではそれを意識しなくてもいいような環境が作り出されています。
 でも、何かの拍子に意識していなかった危険がいきなり牙をむくことがありますので、普段から「ここはどうなると危険なのか?」といったことを意識するようにしましょう。
 危険を見つけ、そしてその対処法を考えて実行すること。
 災害だけでなく、普段の生活の安全確保でも使えるのではないでしょうか。

判断基準は自分で持つ

 2023年6月2日から3日の大雨、前線と台風の相乗効果でかなり強い雨が降った地域がありますが、あなたのお住いの地域は大丈夫でしたか?
 避難レベル4の避難指示や避難レベル5である緊急安全確保が出された場所も多くありましたので、眠れぬ夜を過ごされた方もおられると思います。
 また、被害に遭われた方にはこころからお見舞い申し上げます。日常が早く取り戻せることを願っております。
 ところで、大きな災害が起きると、避難レベル3から4、5という順番で避難に関する情報が出されるということになっていますが、実際の運用ではすべてをすっ飛ばしていきなり避難レベル5の緊急安全確保になることがあります。毎回発表が遅いとお叱りを受けるこの避難情報の発表、自治体の中で何が起きているか考えてみたことがあるでしょうか。
 こういう事態が発生する理由、実はすごく単純なもので、災害が発生しそうなとき、多くの人が自分では判断せずに行政に対応や救助をさせようとします。
 一人二人ならともかく、それが何十、何百という数になると、電話対応だけで手いっぱいになり、気が付いたら緊急安全確保を出さなければいけない状態になっていることが多いのです。
 情報提供はありがたいのですが、「だからなんとかしろ」と後につくと、一件の電話はとても長くなります。長いこと各自治体は人が多すぎるとして減らされ続けた結果として、電話にかかってしまうと他のことができなくなるくらい職員の数が減っています。また、「なんとかしろ」という電話の件数は年々増えていますから、そちらにかまけてしまって、本来業務ができなくなっているというのが実際のところです。
 それと、一つ知っておいてほしいのは、避難レベルはあくまでもその地域全体を面で見た時に発表されるということです。
 その地域全体が危険だと判断されて初めて出されるのがこの避難レベルですから、発表されるときにはすでに場所によっては災害が発生していることも十分に考えられます。つまり、自治体が出す避難レベルはあなたがいる地域という「面」であって、あなたがいる場所という「点」ではないのです。
 自分の安全を守るためには、自治体の出す情報は頼りになりません。自分を守るのは、あくまでも自分の判断であることを忘れないようにしてください。
 例えば、家の裏の川の水位が〇〇まで上がったら逃げる、とか、裏山の普段出ないところから水が出始めたら逃げるとか、自分の周りの環境で起きるちょっとした変化を避難判断にしましょう。
 自分で決めた避難判断は、恐らくは自治体が出す判断よりも早くなります。
 つまり、より安全に確実に避難を開始できるということになり、空振りは増えるかもしれませんが、自分の命は確実に守ることができます。
 避難判断の基準は自分で持つ。そのために、家や近所の周りの普段の様子をしっかりと確認するようにしてください。

【活動報告】乳幼児救急救命法講習会を開催しました

 2023年6月1日に益田市のすみれ保育園様で乳幼児救急救命法の講習会を開催しました。
 当日は日本赤十字社島根県支部の講師さんの指導のもと、8名の保育士の先生方にご参加いただき、約1時間半に渡ってみっちりと乳児・幼児の一次救命措置について実技をしました。
 当研修会はすみれ保育園様の研修会の一つとして開催されたもので、保育士の先生方は普段の保育園の活動を考えながら、時間いっぱい、一生懸命受講されていました。
 講習会後には、定期的に受講しないとできないねというお話もいただき、やらなければできないということを体感していただけたのではないかと思います。
 日本赤十字社島根県支部様では、こういった乳幼児救急救命法や一般向けの一次救命といった研修会について職域・地域での開催も受けておられるそうなので、10人程度のまとまった参加者が確保できたら、一度相談してみるといいと思います。
 今回講師派遣を快諾してくださった日本赤十字社島根県支部の皆様、そして救急法講習会にご参加いただきました保育士の先生方にお礼申し上げます。

日本赤十字社島根県支部(日本赤十字社島根県支部のウェブサイトへ移動します)

災害に対応する職員の衣食住

 災害が発生すると、あらゆる機関が非常態勢に入って非常時の活動を開始します。
 周囲は被災しているため、基本的にあるもので何とかしなければいけない状態になるのですが、現時点に至るまで、被災者の中の一般人の食料や水は確保されていますが、災害対応をする職員のものは確保されているという話はほとんど聞きません。
 企業はともかく、施設や行政機関ではほとんど日常の延長戦で非常時への対応を行っているのではないでしょうか。
 目まぐるしく変わる状況の中では、しっかりと食べ、しっかりと飲み、そしてしっかりと睡眠をとることが事故を防ぐのにとても重要なことなのですが、自分の手持ちにあるもので何とかしろというのが今の日本の現状です。
 では、職員に対して支援物資が来るのかというと、支援物資は被災した一般住民が最優先。災害対応する職員にはまず届きません。
 自衛隊やよそから派遣されてくる応援部隊も、自分たちのものは当然持ってきていますが、最初から対応に当たっている職員の分までは当然考えられてはいません。
災害対応している職員が披露し衰弱すると、最終的にその地域の復旧や復興が遅れる上にいらない事故が発生します。
 非常時に待ったなしで対応しなければいけない施設、例えば行政、警察、消防、施設、学校といったところは、一般被災者よりも災害対応にあたる人に対する備蓄をしっかりと整えておくことが、その後の対応に大きな差が出るということを知っておいてください。
 「頑張れ!」という精神論ではお腹は膨れませんし、疲労も取れません。災害対応は長期戦です。食事、給水、睡眠、衛生といったものは、本来は最優先で対応されるべきものです。
 防災計画は、被災後に起きる長期的な生活部分のことをしっかりと決め、食べ、飲み、出し、寝ることがきちんと計画的に運用されるためにこそ作成すべきものです。
 残念ながら、そういった点に目が向いている組織のトップはまだまだ少ないので、できる人に仕事が集中して潰してしまうという状況は変わらないのかもしれませんが、災害対応する職員ができる限り生活レベルを落とさなくてもすむように、被災後の対応計画についてしっかりと設計しておいてほしいと思います。

ペットたちも自助共助?

 ペットを飼っているおうちでは、自分が避難しなければならないときにペットをどうするのかということを考えることが出てきます。
 人によっては、ペットがいるから避難しないという選択をする人も出てくるので、ペットを連れて避難してもいいですよということに、最近はなりつつあります。
 ただ、ここで想定されているペットは、犬や猫、せいぜい鳥くらいまで。
 その他のペットについては、まったく考えられていない状況です。
 最近ではさまざまな生き物がペットとして飼われていますが、最低限、ペットの種類ごとに収容場所を作らないと大きなトラブルが発生します。
 その他のペット、というひとくくりにしてしまうと、例えばカエルと蛇とコオロギを同じ部屋に置くというとんでもない事態が発生してしまうのです。
 避難所あるあるですが、その存在が少数であればあるほど、避難所の運用想定からは除外されることが多いです。
 人間でも、身体障がい者の方や精神疾患を持つ方、補助具や装備がないと動くのに制限がある人などであっても、避難所での収容では特別な配慮はされません。
 一般の人と同じ扱いになってしまうので、そういった人にとってはさまざまな困難が発生するのですが、少数意見のために「我慢しろ」で終わってしまいます。
 これがあまりにひどいので、福祉避難所を最初から作って、支援のいる人や何らかの補助がいる人をそちらへ収容するという風に法律は変わりましたが、現状、ほとんどの自治体がさまざまな理由から対応していないと思います。
 これと同じで、ペットも多数派である犬や猫、鳥は恐らく避難所でも飼育スペースが確保されると思います。しっかりと検討されているところなら、一緒に生活できる同伴避難になっているかもしれません。
 でも、ほとんどの避難所では犬、猫、鳥くらいのくくりでしかしわけられていないので、その他の生き物はそもそも想定されていないという事実があります。
 そうすると、ペットもその飼い主も避難所に避難するという選択肢はなくなります。
 安全な場所にあるペットホテルや獣医など、ペットを安全に収容してくれる施設にお願いするか、あるいは知り合った同好の士が安全な場所に住んでいるなら、そこに避難するか。あるいは、キャンピングカーやワンボックスカーなどでの車中避難をするか。
 かなりの自助や共助が必要となっています。
 ペットも自分も、安全に災害をやり過ごしたいですから、自分たちが少数派であることを考えての、自助や共助を準備しておくようにしてください。

地震とそれ以外で対応を分けること

 災害時に備えていろいろと準備するように言われていますが、気をつけないといけないことがあります。
 それは災害によって備えるべきパターンをわけておくこと。
 より具体的には、地震とそれ以外の災害にわけて考えることが大切になります。
 地震は来た時には勝負がついています。つまり、建物やブロック塀などの耐震補強や逃げ込める場所の確保といった、どれくらい事前の準備ができているかで結果が決まります。
 対して、それ以外の災害ではある程度予測や予兆がありますので、対策をする時間があります。
 「マイタイムライン」はまさにこの予測できる災害に備えた災害時行動計画になり、これを整備しておくことで自分が助かる可能性が上昇します。さらには、状況に応じてさまざまな行動パターンが作れるのも予測ができる災害対策の利点です。
 いきなり来ると言われる火山の噴火でも、さまざまな映像を見る限りは噴火の開始から1分~数分の猶予はありますのから、その間にできる限りの退避行動をとることはできます。また、事前の準備である程度生存率を上昇させることもできると思います。
 さまざまなところがやっている災害の研修会では、結構この部分がごっちゃになって説明されているので、なかなか理解してもらうのが難しいのではないかと思っています。
 地震は事前準備と発生時から治まるまでを分けて考え、それ以外の災害では時系列で行動を整理していく。
 これをわけるだけでも考えるのにかなり楽になります。
 もしも何から手を付けていいのかわからない人がおられるのなら、地震とそれ以外でまずは切り分け、それぞれにどのような対策がいるのかについて考えてみてください。