家具の固定を考える

 家具の固定のお話をさせてもらうと、「どうせ外れるんだから固定する意味がない」ということを言われる人がいます。
「L字金具では役に立たない」というご意見もいただきます。
 私自身は、それらの意見は正しいし間違ってもいると思っています。
 家具の固定は、震度が強くなればなるほど振動が大きくなって家具にかかる力が大きくなる。そのため固定具が外れやすくなるということが確かにあります。
 下地がベニヤ板の家だと、そこに打ち込んであるビスが振動や重さで抜けてしまうことも想定されます。
 ただ、しっかりと固定されていれば倒れるまでの時間を稼ぐことが可能です。
 活断層型の場合には長くても1分以内。海溝型でも数分程度の揺れで収まりますので、いかにかっちりと家具を固定しておくかがポイントになります。
 例えば、L字金具だけで固定したタンスは振動でビスが抜けてひっくり返るかもしれませんが、L字金具+転倒防止具を使うと倒れる確率は格段に下がります。
 大切なことは「いかに倒れるまでの時間を稼ぐことができるか」という視点を持つことです。
 最初の振動で下敷きになった場合、その後の激しい揺れで命を絶たれるかもしれません。でも、最後の振動で下敷きになったのなら、脱出することや他人の救助で助かる確率は格段に上がります。
 完全に固定してどんな振動でも動かない、倒れないのは理想です。ただ、その理想をかなえようとするとかなり大変なことは事実です。
 でも、その場所から逃げ出すだけの時間が稼げる固定なら、さほど難しくはありません。
 要は安全地帯に逃げ込むまでの時間が稼げればよいのです。
 最近はL字金具だけではなく、吸着タイプやテープ、シールタイプなどさまざまな固定具が登場しています。
 壁や床に傷をつけずに固定できるような道具も出ていますから、借家であっても諦めなくてすみそうです。
 自分の家にあった、その家具にあった固定具を考えて、できれば複数の手段で家具を固定することで、倒れるまでの時間を稼ぎましょう。

国産液体ミルクが発売されます

 胆振東部地震で安全だ危険だと物議を醸した乳児用液体ミルクですが、このほど江崎グリコさんから国産品の販売がされることになったそうです。
 先日、その説明を聞いてきましたので分かった範囲のことをお知らせしたいと思います。
 その前に、「液体ミルクってなんだ」という方のために少しだけ説明をします。
 乳幼児用の食事として母乳がありますが、なんらかの理由で母乳が使えない場合や量が不足しているような場合、粉ミルクを使うことになります。
 この粉ミルク、作ったことがある方ならよくおわかりと思いますが、とにかく手間。乳児でも生まれてしばらくの間は頻繁にお乳をほしがります。24時間、朝夜関係なく。
 母乳であれば寝ぼけたままでもあげることができますが、粉ミルクは衛生上作り置きができないので、必要とされるたびに作る必要があります。
 お湯を沸かし、粉を入れ、冷まして飲ませる。書くだけなら大したことない作業ですが、これが毎日毎回となると親も消耗します。
 私自身も寝ぼけてお湯をひっくり返してやけどしそうになったり、分量を間違えたまま子どもにあげて子どもが飲めずに口からだらーっとしたようなこともありましたが、液体ミルクであれば、パッケージを開けてそのままほ乳瓶に注ぐだけなので、寝ぼけていてもなんとかなりそうです。
 また、災害時には粉ミルクを作る衛生環境を維持することがかなり困難ですので、その点でも優れていると思います。
 今回江崎グリコさんが作って販売しようとしている液体ミルクは、江崎グリコさんが作っている粉ミルク「アイクレオ」の液体版になるようです。
 遮光性、衛生面に優れた6層のパッケージで作られた紙容器は125ml入っていて、消費期限は半年だそうです。
 取り扱いは、主に乳幼児品を専門に扱う西松屋さんや赤ちゃん本舗さんなどになるとのこと。売価は1本200円くらいというお話でした。
 販売開始時期ですが、早ければ3月半ば、できれば4月中には販売を開始したいとのこと。

今回は残念ながら製品版パッケージの展示はありませんでした。125mlの容器ってこんなものという青色の箱が用意されていました。

 試飲もさせてもらいましたが、味はそのまま粉ミルクのアイクレオでしたので、普段アイクレオを使っている子どもさんなら違和感なく飲めると思います。
 担当の方が「母乳が一番いいのはわかってるんだけど、さまざまな事情で出ないときに活用して欲しい」とこれを作った目的をお話されていたのが印象的でした。
 ただ、災害用と考えると、海外製品にあるような飲み口だけ取り付ければそのまま飲ませられるようなものも必要なのかなとも感じました。

使い捨てのほ乳瓶各種。オレンジのキャップの向こうにちょっとだけ見える青い箱が液体ミルクの容器。

 使い捨てのほ乳瓶も一緒に展示されていましたので、ひょっとしたらセット商品も出てくるのかもしれません。
 他には明治さんがスチール缶製の液体ミルクの承認を取っているそうなので、そちらもひょっとしたらそのうち登場してくるかもしれません。
 議論がいろいろあるのは承知していますが、災害時に困るのは乳幼児とその保護者です。道具でなんとかなるなら、それに越したことはありません。これからもさまざまな選択肢が増えるとよいなと思います。

※2019年3月6日追記:2019年3月5日からグリコダイレクトで通信販売が開始されました。3月11日からはドラッグストアや赤ちゃん用品店などでも順次取り扱いが始まるそうです。

通学路のブロック塀

 小学校の学習発表会を見た後、子どもと一緒の帰り道。ふと気になったブロック塀がありました。
 前からちょっと危ないかなとは思っていたのですが、よくよく見るとブロック塀と一番上に載っている笠木の部分の間に大きな割れ目が入っていました。
じっくり見てみると、笠木はほぼ載っているだけ。そしてコンクリートブロック塀の接合部もあちこちに亀裂が入っています。

部分的に補修はされていますが、劣化に追いついていない感じです。

 試しに横に子どもに並んでみてもらうと頭に当たるくらいの高さ、約130cmくらい。ブロック塀の側は地面が嵩上げしてあるようなので、一応建築基準法はクリアしているのかなと思いますが、一年生くらいだと、崩れたり倒れたりしたときには頭に当たるかもしれません。

頭よりも高い位置にあると、壊れたときに頭を直撃する可能性があります。

 これは危ないなぁと子どもに話したら、彼は無言で上を指さしました。見てみると、そこには大きなお寺の屋根が・・・。
 直下型地震を受けたら確実に瓦が落ちるだろうなという位置に大きな屋根とブロック塀があったので、さてどうしたものかという話を子どもとしたのですが、揺れたら避けるしかないなぁという結論に達しました。
 学校の通学路は指定されているので簡単に変更するわけにもいきませんが、古い町並みを歩くとこういう危ないものが割とあるので、通学路の安全点検は少なくとも親子で一度はやってみる方がよさそうです。
 危険な箇所を認識して、なるべくそこは急いで通るようにすること。危険から身を守る第一歩ではないかと思います。
 そういえば、以前大阪北部地震の時に防災科学研究所の島崎敢さんが危険なブロック塀を絵でまとめておられました。転載可でしたので、ここで改めて掲載しておきます。
 これを元に、子どもの安全確保を考えてみてくださいね。

危険なブロック塀の簡単な点検表。結構該当する塀があったりします。

誰が何を用意する?

 企業や学校などで災害備蓄をするという話になったとき、さまざまな消耗品も準備することがあります。
 飲食物はその典型例で、備蓄はしていても期限切れで廃棄ということを繰り返すことも多いのではないでしょうか。
 そして、コストの点から見て、備蓄している飲食物はなるべく期限の長いものを選びがちなので味は二の次になるものです。
 災害時訓練をしっかりとやっているところであれば訓練にあわせて試食をしてみることで無駄にはなりませんが、好き嫌いやアレルギーの問題で食べられない人も出てくることがあります。
 そこで、飲食物についてはいくらかの補助をして各個人に指定する日数分用意してもらうことを考えてみたらどうでしょうか。
 備蓄すべき場所を提供し、そこにそれぞれが自分の好みの飲食物を収納しておき、非常時にはそれぞれがそこから出して飲食する。
 そうすることで無駄な出費を抑えることができます。
 また、この方法ならそれぞれが自分が食べられるもの、飲めるものを準備するために好き嫌いやアレルギーの心配をしなくて済むというメリットもあります。
 毛布や簡易トイレなどは誰もが使えるし期限があるものでもないので企業や学校で備蓄することでさまざまな手間を省くことが可能です。
 「命を繋ぐための道具をだれがどこまで何をどれ位準備してどこに置いておくのか」ということを、BCPではしっかりと固めておく必要があります。

子どもの指導者は防災対策を知っておこう

 保育園、幼稚園、学童保育、小学校、中学校、高校、塾その他、子どもと関わりのあるお仕事は非常に多いと思いますが、その人達が自分のところの防災対策を把握しているかご存じですか?
 「防災訓練をやっていますから大丈夫です」というお答えを聞くことも多いのですが、その頻度は「子どもが小さくなるほど回数が多い」傾向があります。
 保育園や幼稚園では大抵1ヶ月から2ヶ月に1回程度はされていることが多いようですが、これが小学校に上がると年に2回程度、多いところでも年4回程度になり、中学校で年1回、高校や塾だとまったくしていないところも見受けられます。
 子ども達は災害対応でどのように教えられているかというと「指導者の指示に従うこと」で「自分で判断せよ」ではありませんから、指導者は災害対策の指示が出来るレベルが要求されているのです。
 子ども達を預かっている場所の地形や危険、避難先やその後がきちんと整理されているでしょうか?
 子ども達にきちんと指導ができますか?
 災害対策で指導者が迷っている暇は残念ながらありません。その後がどうなるにしても、何らかの判断を常に求められるのです。
 過去から現在に至るまで「災害は不可抗力」として指導者の罪が問われたことはありませんが、今後災害が頻発するようになると「職務怠慢」で罪に問われるようになるかもしれません。
 そうならないためには、少なくとも子どもを預かっている間に発生した災害については適切に対応できるだけの能力を身につけておく必要があります。
 あなたのところの防災対策は大丈夫ですか?

安全な場所三原則

 地震が起きたときに怪我したり死んだりしないように、安全な場所の確保はできていますか?
 この安全な場所というのは「物が落ちてこない」「ものが倒れてこない」「ものが移動してこない」の3原則を満たしていることが大切です。
 特に寝ているときとトイレ、それにお風呂に入っているときにはとっさの身動きができませんよね。
 そのため、少なくともその3カ所についてはこの条件を満たすようにしておかなければなりません。
 これらの場所にはどうしても必要なもの以外は置かないようにします。
 もしタンスやテレビといったものが置いてあるなら、できるだけ他の部屋に移すようにしましょう。
 ワンルームなどで持って行く先がない場合には、倒れたときに自分が下敷きにならないような家具の配置や固定を必ずしておきましょう。
 また、トイレやお風呂の場合落下物はないかもしれませんが、その出入り口に障害物はありませんか。
 閉じ込められると逃げようがありませんので、出入り口を塞ぐようなものがあるのであれば、きちんと固定して動かないようにしておきましょう。
 古来より地震だけで死ぬ人はそうそういません。ですが、家具や建物につぶされて死んでしまったり怪我してしまったりした人は数知れずいます。
 まずは生き残ることを目指して、安全な場所の3原則を元に、寝室、風呂、トイレの点検から始めてくださいね。

復旧は長期戦を覚悟する

 行政や企業、自治会などの組織によくあることですが、災害が起きるととりあえず全ての職員や社員、役員に非常招集がかかるようです。
 全員が庁舎や会社といった拠点に集合するというルールを作っているようですが、正直なところナンセンスだなと思うことが多いです。
 とりあえず人手を集めるというのは「集まってから何するかを考える」と言っているのと同じで、危機管理能力がないことを露呈しているようなものです。
 組織で作成する災害時BCPの基本的な考え方は「構成員の安否」と「何をいつまでにどうするためにどんな人が必要なのか」です。
 その結果としての全員動員であるならば、それは問題ないと思います。
 例えば電力会社や通信会社、ガス、水道、電話など地域のインフラを支えるようなお仕事の場合だと、全員で対応しないと手が回らなくなるかもしれません。
 また、自治会であれば安否確認や避難、救助などでたくさんの仕事がありますから多くの人手が必要になるでしょう。
 でも、例えば小売店や販売店はそこまで緊急にしなければいけない仕事があるかどうか。
 街中で大渋滞や混乱を起こしてまで出社を促さないといけないかどうかをよく考えてみる必要がありそうです。
 去年の大阪北部地震では、大規模な地震であったにもかかわらず通常通り仕事に行こうとする人達が大勢いて、結果として大阪府内では最大で普段の倍の渋滞が発生したという記録があります。
 これは仕事に行こうとした人達ではなく、その人達を使っている組織が災害について何も考えていなかったことが原因です。
 災害が発生したらどのように対処するのかをきちんと取り決めておくことは、組織としての最低限必要な事だという認識を持たないといけません。
 ところで、緊急対応が落ち着いてきてもそれで仕事が減るわけではありません。
 災害からの復旧はとてつもなく時間がかかりますから、長期戦に備えたローテーションを確立しておくことが必要です。
 組織の構成員を交代でしっかりと休ませることで、長い復旧に立ち向かう気力が維持できます。
 災害への対応経験が豊富な自衛隊でも、派遣される隊員は交代で休息をとるようになっています。そうしないと士気が維持できず、事故も増大することを知っているからです。
 旧態依然とした組織、特に行政機関は意味不明に「全員対応を要求する」ところが多いため、発災から半月もすると疲労でまともな仕事ができなくなっている被災自治体の職員が殆どを占める状態になります。 公務員として「働かなければ、働かせなければ」と言う意識はわかるのですが、人間も消耗品であり定期的に休養させなければ壊れてしまうということを指揮官である首長はしっかりと認識する必要があります。
 増大している仕事量は「自分たちでないとできないこと」「他人に任せても大丈夫なこと」「今しなくてはいけないこと」「今しなくてもいいこと」のマトリクスを作って整理することで、他所からの応援部隊に思い切って任せてしまうことが重要です。
 支援できている人達に遠慮する必要はありません。お任せできる部分はお任せして、自分たちで出来る仕事に専念すること。それによってより良く過ちのない仕事が素早くこなせることになるのではないでしょうか。
 緊急時対応だけでなく、その後の長期戦にたいする対応まで考えておくことで、いざというときに安心して行動ができるようにしておきたいものです。

なぜ備蓄が必要なのか

 世の中グローバル化が進んでいるなと思います。
 例えば、スーパーに出かけて野菜を見ても、地元産のもの以外に全国や世界中からさまざまなものが集まっているのが分かります。
 そのおかげで、地元では時季外れになっている野菜も普通に買えて、一年中いろいろな料理を楽しむことが可能になっています。
 ところで、このいつでも「野菜が買える状態」は物流が支えています。
 夜昼日本中を走り回っているトラックや鉄道、船舶輸送のおかげで、私たちは意識せずにいろいろなものを楽しむことができるわけです。
 これらを支えているのが、道路や鉄路、港湾施設になるわけですが、災害が起きてそれらが被災すると物流は一気に停滞します。
 去年の夏、西日本豪雨で岡山から広島東部にかけて被災して道路と鉄道が寸断されました。
 その結果、山陰側の道路は流入するトラックで一時大混乱に陥り、鉄道も山陰側を迂回したことから1日以上多く時間がかかることになってしまいました。
 今話題になっている南海トラフ地震が発生したら、日本の物流の大動脈である太平洋沿岸はほぼ全て被災地域となります。
 道路や鉄道は全て止まり、災害支援のものが最優先されるため被災地以外ではまともな物流はできなくなります。
 海外から入ってくる野菜類はほぼ太平洋岸の港から陸揚げされますので、港湾施設が被害を受ければ当然これらも入ってこなくなります。
 また、本来私たちのところに供給されるはずの消耗品類は生産工場が被災して作れなくなったり、数多くの被災者を救済するためそちらに優先して供給されるために購入制限などが発生することになるでしょう。
 物資の供給には相当な混乱が起こるとみて間違いありません。
 南海トラフ地震では、恐らく石西地域では直接の大きな被害はでないと思われますが、物資の欠乏という間接的な被害が出る可能性は極めて高く、そのためにある程度の備蓄が必要になるのです。
 政府は3~1週間の備蓄を推奨していますが、出来ればそれ以上のものを。普段使っているものは+1で準備しておき、常に予備があるようにしておくこと。
 それだけで心の余裕が生まれます。
 「うちはコンビニが備蓄倉庫だから」というお話を聞いたことがありますが、コンビニの豊富な物資は流通がなければあっという間にすっからかんになってしまいます。
 特に東京等の人口が多い場所にあるコンビニでは、東日本大震災後、短時間でほぼ全ての物資が無くなってしまったという事実もあります。
 物流が支えているからこそ、コンビニは成立するのです。
 「いつでもなんでも買える」のは当たり前ではない。
 そのことを忘れないようにしたいものです。

高齢者などの要支援者ほど事前訓練をしっかりしておこう

 最近あちらこちらで自主防災組織の立ち上げが進められています。
 地域のことは地域で行うという前提の自主防災組織が編成されると、まずはその地域の避難についての計画や訓練がされるようになります。
 その避難計画や避難訓練、避難所運営訓練には、いったいどんな人の参加が予定されているでしょうか。
 多くの場合は自治会役員や地域の元気な人達が中心だと思いますが、高齢者や障害者といった支援の必要な方もちゃんと参加していますか?
 自主防災組織が作る避難計画書では、多くの場合「避難準備・高齢者避難開始情報」が発令された段階で、高齢者や障害者と言った要支援者を最初に避難所に移動させることになっているからです。
 つまり、避難所に一番最初に避難してくるのは要支援者の方々であり、恐らく一番長い時間避難所にいることになる方々なわけです。
 この最初に避難してくるはずの人達も訓練にきちんと参加していますか?
 「寝たきりだから」とか「足が悪いから」とか、「人が多いところへいくと何が起きるかわからないから」といって、要支援者が参加を拒んだり、参加を見送ったりしていませんか?
 でも、要支援者が実際に参加しないとどんな支援や準備が必要なのかわかりません。
 やってみたら、設備や資機材の関係でその要支援者がその避難所では受け入れることができないということもあるでしょう。
 それは実際にやってみないとわからないことなのです。
 要支援者によっては「家以外は病院でないと無理」という方がいるかもしれません。 そんな人は、ちゃんと非常時に病院に収容してもらえる手はずを整えているか、受け入れてもらえない場合はどのタイミングでどこへ移動させるのかを決めているか確認しておかないといけません。
 また、避難してくる要支援者の人たちは、ちゃんと持出用防災セットを準備して持ってくることができるでしょうか?
 彼らが身一つで避難してきた場合、食料や寝具といった物資の準備は避難所に備わっていますか?
 準備できていない場合、どこから誰がいつまでに用意するのか、きちんと取り決めてありますか?
 また、避難所内を安全に移動したり、トイレを使ったりすることができますか?
 食事や寝ることが問題なくできますか?
 それらはやっぱり実際にやってみないと分からない部分なのです。
 いざというとき、助かろうと思って避難してきたが、自分が生きるために必要なものが何も無い避難所で死ぬことになってしまったというのでは悲しすぎます。
 立場の弱い要支援者の人たちほど事前訓練が必要だと言うことを、自主防災組織の方は基本的な事項としておいてほしいなと思います。

 余談ではありますが要支援者の方は生活弱者でもあるので、行政の人間が一緒に参加することで地域に隠れている、本来行わないといけないさまざまな支援ニーズを掘り起こすことも可能になります。
 行政、特に福祉関係の方が参加してもらえれば、要支援者が避難所に避難できない場合の受け入れ先の問題も考えてもらえると思いますので、避難計画を作るときや避難訓練をするときには、防災関係だけで無く、福祉関係の部署にも声をかけてみてください。

天井が落ちてくる?!

建物の中の落下物と聞くと、どんなイメージがありますか?
照明器具、高いところに置かれた本や食器、テレビや窓ガラス、いろんなものが浮かぶと思います。
その中に「天井」が落ちてくるという意識があったでしょうか?
一般家屋ではあまり問題にならないのですが、施設では天井そのものが危険ではないかという認識が持たれています。

1.天井が問題になっている理由
天井のうち、「吊り天井」と呼ばれる構造のものが問題になっています。

吊り天井内部
吊り天井内部。石膏ボードをビスやクリップで支えています。

「吊り天井」とは本来の天井から下がったワイヤやシャフトに下げられた鉄骨にビスやクリップで別の天井が作られているもので「安価で音の遮断や断熱、防炎効果」ができ、天井裏の配線などを隠すことができることからあちこちの施設で採用されています。

ここに使われている主な素材は石膏ボードでは7kg/㎡程度、ロックウールでは4.9kg/㎡と重量のあるものです。
地震や経年劣化によりこの天井素材と鉄骨を止めるビスやクリップが外れ、素材が落下することにより事故が発生するもので、東日本大震災では東京の九段会館で2名の方が亡くなっています。

天井用石膏ボード
天井用石膏ボード。持ってみると結構重いです。

建物の耐震基準では、柱や梁は倒れたり落ちたりしないことが絶対的な要件になっていますが、天井は内装物とされ、とくに基準がありませんでした。
平成28年に建築基準法が改正され、初めて吊り天井の強度や構造について決められましたが、それまでに建てられた建物については「増改築時に基準として適用すること」という取り扱いになっています。
2.解決する方法
一番手っ取り早いのは、吊り天井を撤去してしまうことです。構造物が無くなれば問題は解決します。

天井用ワイヤメッシュ
石膏ボード落下対策のワイヤメッシュ

とはいえ、防音防炎断熱をここまで安価にできる代替素材もありませんので、その機能が必要な場合には落下防止対策をする必要があります。
石膏ボードの下にネットやメッシュワイヤーを置くことで、破壊されたときに大きな破片がいきなり落ちることは防げます。
また、軽量化された代替品も出ているようですので、それらに置き換えていくのも一つの方法です。

いずれにしても、施設では天井の落ちる可能性があると言うことを頭の中において行動することが必要なようです。