身の安全を確保して

 先日、岸田総理大臣の襲撃事件がありました。
 総理にはけがもなく、実行犯は無事に取り押さえられたとのことですが、気になったことが一つ。
 それは状況からなにか危険が起きていることが予想される状況にもかかわらず、スマートフォンやカメラで犯人を取り押さえたり様子を撮影している人がたくさんいたことです。
 女性の悲鳴や避難を促す声も聞こえていますが、撮影を止める様子も避難する様子もなく、もしここで爆発物がさく裂していたらどうなっていたのだろうと、ちょっと考えてしまいました。
 日本では長らく「安全と空気はタダ」と言われ続けてきて、身の安全は自分以外の誰かが守ってくれるものという考え方になっている人が本当に多いです。
 ただ、いざというときに自分の身を守れるのは自分しかいません。本来は避難するなり伏せるなり、なんらかの退避行動をとらないといけないはずなのですが、ひたすら撮影するか、様子を見ているか。報道機関の人は仕方がないにしても、一般の人まで一緒になって撮影をする必要性がわかりません。
 もっとも、日本では襲撃に対する訓練というのはされていません。「伏せろ!」という叫びを聞いて体が反射的に床に伏せることができる人がどれくらいいるでしょうか。
防災でも同じで、地震がきた時にいくら緊急地震速報が鳴ってくれてっも、状況確認しようとしてしまうことが、初動の遅れを招いてしまっているのです。
 まずは身の安全の確保、それから状況確認というのは、身を守るための基本です。
 とっさの時に考えなくても動けるように、しっかりと訓練をしておきたいですね。

10台超のカメラ映像で検証 岸田首相襲撃の経緯 凶器の入ったカバンを何度も気にする仕草が…【関西テレビ・newsランナー】(youtubeのウェブサイトへ移動思案す)

SNSでの情報を見極めるには

 最近の災害で、発生地域の人たちが情報を得ている大事な情報源としてSNSがあります。TwitterやLINE、FacebookといったSNSは、素早くピンポイントの情報を得ることができるため、非常に重宝されています。
 ただ、こういった非常事態の時に間違っている情報を面白がって流す人は必ず発生しますし、それを真に受けて間違った情報を拡散する人もかなりいます。
 先日、読売新聞を読んでいると、LINEみらい財団が情報リテラシー教育の中で、「情報は「だいふく」で確かめる」ということが書いてありました。
 LINEみらい財団のウェブサイトの「情報防災訓練(情報収集編)」の資料の中に出ているのですが、

1.「だ」れが言っているのか
2.「い」つ言ったのか
3.「ふく」数の情報があるか

を確認しろというのがありました。
 「誰が」「いつ」その情報を発信しているのかは、内容の重要度にかなりの差が出ます。
 誰が言っているのかはよく見落とされるものですが、よくあるのが「友達が自衛隊の人に聞いた話」や「知り合いが市役所の職員の話を聞いた」など、また聞きになっているようなものは、基本的に信用しないほうが無難です。また、信用しすぎることは危険ですが「公式」が表示されているものはある程度信用ができると思います。
 それから、できればその人のアカウントを確認し、普段どのような情報を発信しているのかを確認しておいた方がいいです。普段からおかしな情報発信をしている人は信用できませんし、普段と異なる流れの情報発信の文体や写真などの場合には、アカウントが誰かに操作されている可能性もあります。
 また、その情報がいつ時点のものなのかはしっかりと確認しておかないと、よく見ると数時間前の話といったことがよくあります。
 過去、「避難所で水が足りない」といった情報で、いつ発信されたものかを確認しないで真に受けたたくさんの人が水を送り付けて収集がつかなくなったケースもありますので、「いつ」は必ず確認するようにしてください。
 最後の「複数」は同じ情報が複数の人から発信されているかどうかを見極めることになります。とはいっても、同じ記事をたくさんの人がシェアすることもよくありますので、例えば「使われている写真が異なっているか」や「シェアではなく別な人が発信した情報であること」などには注意をする必要があります。
 また、災害時に限りませんがSNSでは似たような意見の人が集まるというクセがありますので、SNSで出ている情報判断が常に正しいというわけではないということを覚えておいてください。
 玉石混合の情報をどう使うのかは受け取る人次第です。
 しっかりと見極めて、どう活かすのかを考えてくださいね。

災害時の情報とのつきあい方・デマなどの見極め方を学ぶ情報リテラシー×防災の教材「情報防災訓練(情報収集編)」を開発(LINEみらい財団のウェブサイトへ移動します)

避難所に持っていかないほうがいいもの

非常用持ち出し袋には、貴重品は持って逃げるということが書いてありますが、実際の避難者の方のお話を聞くと、貴重品は置いていった方がいいのかもしれないなと感じることがあります。
特に避難所に避難する計画の人は要注意です。避難所の防犯対策はまったく期待できません。
顔見知りだけが入っているはずでも、普通に物が無くなります。現金などは特になくなることが多く、俗にいう金目の物は気を付けていても気が付いたら見えなくなっていたといったことも十分に起こりうる話です。
印鑑と預金通帳は分けておくことが重要で、預金通帳は再発行してもらえることを考えると、印鑑だけあればよさそうです。
家に置いておくと安全かというと、避難区域ではコソ泥が発生します。住人が避難して人がいなくなると、どこからともなく空き巣が登場しますので、これまた安全とは言えないです。
できるのは、しっかりとした施錠をしておくことくらいでしょうか。急いで避難する必要のある場合でも、家の施錠だけは確実に行うようにしてください。
あとは避難区域への侵入を防ぐような警備体制をとるくらいしか手がありません。非常時ですので、こういったときの窃盗に対する罪は相当厳しくしておく必要もあると思います。
ただ、こうやって考えていくと、財産のある人は銀行などの貸金庫を利用するのが一番安全かもしれません。
大規模災害時の被害などは防げないかもしれませんが、家に置いておくよりも安全ではあります。
貸金庫を借りるのは、金融機関によってさまざまな条件があるようですので確認してみるといいかもしれません。
いずれにしても、貴重品はできるだけ避難所には持っていかないことが、避難後の生活を守るためには必要になると考えられますので、準備については気を付けるようにしてください。

災害に備えるのは自分

 災害時の対応については、行政の不手際がいろいろと指摘されることが多いのですが、こと避難に関する限りは自分で対策を備えておくしか方法はありません。
 行政サイドは人的不足、経験不足、研修不足などなど、さまざまな理由でまともな対応はできないと考えてください。
 これら行政サイドの不足を補うために自主防災組織を作るということになったのですが、自主防災組織も行政から地域の防災対応を丸投げされ、高齢化や人口減少、近所付き合いの減少などで活動不全に陥ってしまっているところもかなり多いです。
 どんな人であれ、自分の身を守るのは自分しかいないということを肝に命じておきましょう。
 情報は自分で取りに行く、避難の判断は自分でする、避難は自分でする、といった、自分で判断するための情報を集めて自分で決定し、自分で避難するという手立てを考えておかないといけないのです。
 その過程の中で、自分ではできないことが出てくることがあります。その自分でできないことをどのように周囲に助けてもらうのか、これが重要になるのです。
 自主防災組織も何もしない人をおんぶにだっこで助けて避難させるほどの能力はありません。助けてほしい人が助けてほしいことを伝えることができて、初めて助けてもらえるということを知っておきましょう。
 自力で何とかなる人や、自分の情報を出したくない人は、自分でなんとかすればいいので人の助けは不要でしょう。でも、人の助けが欲しい人は欲しいと言わなければ伝わらないのです。
 現在作成することとされている要支援者の個別避難計画も、避難準備や避難、避難後の支援に至るまですべてを誰かに押し付けるというのでは計画は必ず破綻します。
 その人が何をどこまでできるのか、どうすれば安全が確保できるのかは人によって異なります。まずは自分が自分の身を守るために考えて準備すること。もし自分で何をすればいいのかわからなければ、わかる人を探しましょう。
 繰り返しますが、災害時には誰も助けてはくれません。もし助けがきたとすれば、かなり運がよいか、それとも準備がしっかりとできていたかのどちらかです。
 災害時に身の安全を確保できるように、自分で準備を整えておきましょう。

眼鏡の確保

 視力の悪い人にとって視力矯正具は生活するのにかかせないアイテムです。
 それが眼鏡の場合もコンタクトレンズの場合もあると思いますが、どちらにしろ、寝ているときには外していると思います。
 自分の安全を確保するためには視力の確保は必須となりますので、寝るときに眼鏡をしまう場所は何かあったときに備えて、無くならないような場所にしてきましょう。
 枕元に置いている場合が多いと思いますが、それだと地震の時に揺れると飛んで行ってしまいます。破損を防ぐために、眼鏡ケースにしまうことと、できるなら眼鏡ケースに夜光塗料のついたシールなどを貼り、夜でも所在がわかるようにしておきましょう。
 できるなら、眼鏡は複数個用意しておき、寝室だけでなく、非常用持ち出し袋や玄関などにも準備しておくと安心です。
 災害後の衛生環境の悪い状態では、コンタクトレンズは使うのをやめたほうが賢明だと思いますので、普段眼鏡を使わない人でも、準備をしておいてください。
 ものが見えないというのは、非常に生活しずらいものです。
 使わなくなった古い眼鏡でもないよりはマシですが、できるなら視力がきちんと出ている眼鏡を複数個準備しておいてください。

点の情報、面の情報

 防災の研修会をやっていると、いただくご意見の中に高確率で「避難情報の発表が遅い!」というのがあります。
 行政に物申しておくようにと言われることも多いのですが、当研究所はあまり行政とのお付き合いがないので、直接お伝えいただくようにその都度お話はしています。
 ただ、防災の研修会でよく言われている「避難レベル3で避難に時間がかかる人の避難開始、避難レベル4でその地域の危険な場所の人は全員避難」というのを真に受けると、そういったご意見が出るのも無理はないと思っています。その地域全体が危険になる可能性があるときには、地域の中にはすでに危険になっている場所も当然存在し、避難情報だけを鵜呑みにすると避難が遅れてしまうという事態が発生するからです。
 ただ、日本の場合には、災害が予測されるときに行政から発表される各種情報は、あくまでも「お願い」にすぎませんので強制力はありません。
 同じ地域であっても、住んでいる場所によって早く避難しないといけない人もいれば、避難が必要ない人もいるわけで、それを加味したうえで自分の避難判断をしてほしいというのが、行政側の考え方になります。
 その地域の雨量や雨雲レーダーの状況、川の状態などのデータからその地域がどういった状態なのかを見ているだけで、実際に現地であなたの周囲の状況を見て判断しているわけではありませんから、行政の発表する避難情報は「面の情報」になります。
 でも、あなたも含めて多くの人が知りたいのは、地域がどうなるのかではなく、自分のいる場所がどうなるのかということなわけで、欲しいのは自分のいる場所という「点の情報」になるわけです。
 行政があなたがいる場所という「点の情報」を出すのは無理ですから、それぞれがどのタイミングで避難しなければいけないのかは、それぞれが自分で考えて行動を決めておくしか手はなく、そのためにマイタイムラインと呼ばれる自分の災害時行動計画を作ることが推奨されているのです。
 避難情報はあくまでも一つの目安であって、実際には自分で行動を決めるための鍵を作っておくことが重要となります。
 例えば、近所の側溝の水が溢れたら、とか、裏山から水が出てくるようになったら、といったピンポイントの危険情報を使うことで、あなたの安全確保ができると思います。
 あなたの周りの「点の情報」を上手に使って、あなたの安全を確保するようにしてくださいね。

防災散歩のススメ

 新しい生活環境になった人も多いと思いますが、住み始めた地域のハザードマップは確認しましたか。
 地域によってはすでにハザードマップを配られなくなっているところもあるようですが、国土地理院の重ねるハザードなどを利用して、住んでいる地域のハザードはしっかりと確認しておいてください。
 そして、お休みの時にでもハザードマップを持って実際に地域を歩く防災散歩をしてみてください。ハザードマップを見ながら歩いてみると、ハザードマップを見ているだけではよくわからないことがたくさんわかります。
 また、歩いてみると安全な場所や危険な場所が案外たくさんあることに気づくと思います。
 ついでに地域の特性や地形などもわかりますから、時間を見つけては防災散歩をやってみることをお勧めします。

国土地理院「重ねるハザード」

避難所にいかない避難

 大規模災害が起きると、行政の準備している避難所はほぼ確実に避難者でパンクします。
 そうなると避難所難民が発生してしまうわけですが、どこの避難所もパンクしているので避難先がない人が必ず出てきます。
 そう考えると、避難所に避難しない避難方法を考えておかないと、自分の身を守ることができないということになりますので、平時にしっかりと考えておくようにしてください。
 一番いいのは、自宅が避難先になることです。水没する場所にないこと、台風や地震に耐えられる構造であることなどが要件になりますが、自宅から出なくて済むのであればそれが一番落ち着くし、安心できる避難先だと思います。避難所に配られる食料品や日用品は自宅避難者も受け取ることができますので、生活環境を考えると、自宅が一番だということになると思います。
 次に、予測できる災害に限りますが、被災予想地域から出てしまうことです。被災予想地域から出てしまえば、とりあえず自分の命を守ることはできます。小旅行にしてしまえば、災害から避難しながら楽しむこともできるのではないでしょうか。
 あとは、安全な場所にいる親せきや家族の家を頼るか、知り合いのいるところに行くか、別荘や別邸を用意するかといったところですが、ここ最近の避難所の考え方は、避難所にしか避難先がない人が避難所に入るという設定に変わってきています。
 あなたが災害時に避難しなければいけない場所に住んでいるとしたら、避難所以外に避難する先を準備しておいた方がいいと思います。
 そして、何よりも早めに避難を開始することです。
 避難が空振りしたからといっても、誰も責めも笑いもしません。もし空振りしても「何もなくてよかったね」といえるだけの心の余裕も持てるといいですね。

安全な場所?

 地震が起きると、「安全な場所に避難しましょう」ということがよく言われますが、この安全な場所というのは、具体的にはどんなイメージを持っていますか。
 こういった質問をすると、案外と大人の人は考え込んでしまうことが多く、逆に子どもはいろいろと答えを考えてくれます。
 これは大人は100%安全かどうかで考え、子どもは「ここよりも安全な場所」という視点で考えるからだと思っています。
実は、日本には地震が起きた時に100%安全な場所は存在しないと考えていいと思います。相対的に安全な場所と危険な場所はありますし、絶対危険な場所も存在しますが、安全確実な場所を考えてしまうと、答えが出てこないのではないかと思います。
 質問に回答する子供たちのように、その場所で比較的安全なエリアはどこかということを探す視点はとても重要で、普段から見慣れていないと見つけることは難しいと思います。比較的安全なエリアで、自分の身を守るための格好をしっかりととることができれば、怪我をすることはほとんどないと思いますので、その場のどこなら安全だろうという視点が自然にできるように、普段から意識しておくといいと思います。
 ちなみに、大人と子供で地域の安全点検をすると、子どもの方が危険なものや危険な場所を良く知っていることがわかります。同じところを普段歩いていても、大人は割と漫然としていることが多いのかなとも思います。
 地震がきた時には、訓練とは違って誰もあなたにどうすればいいのかの指示はくれません。自分で自分の身を守れるように、目線や訓練をしておきたいですね。

管理責任を明確化しておく

  

 学校や公民館、集会所や体育館、大規模な寺社仏閣などは、平時はそれぞれの利用がされていますが、災害時には避難所やご遺体の収容所、応援部隊の仮宿など、さまざまなことに転用されることになります。
 もしあなたがこういった施設の管理者だった場合、転用されたときの責任は誰にあるのかについてきちんと明確化されているでしょうか。
 決まっていなかった場合には、かなり高確率でその施設を普段管理している人が災害後も引き続き管理させられる場合が多いですので、災害時にも普段の仕事にプラスしてややこしい仕事がやってくることを覚悟しておきましょう。
 避難所以外の場合には、行政職員や警察、消防、自衛隊、その他入居する団体がきちんと管理してくれるのですが、避難所だけはなぜか施設管理者に押し付けられるケースが多いのです。
 そうならないためには、例えば平時にその避難所を利用する可能性のある人たちを集めて避難所運営委員会を作り、その中で運営手順や管理責任者についてきちんと決めておくことをお勧めします。
 避難所の運営は避難者のことにプラスして、情報や物資の集積所、支援申請窓口などかなり多岐に渡ります。きちんと運営マニュアルややることになれている人がやるのなら問題はないと思いますが、そうでない場合には、自分のことは当座なにもできないことを覚悟しておきましょう。
 ちなみに、こういった避難所に派遣されてくる行政職員は当てになりません。行政職員という看板は背負っていますが、彼らは防災のことについてはほぼ何も知りません。基本的には災害や避難所運営の知識はないと考えておいた方がいいです。
 管理責任を明確化しておくことで、誰が責任者なのかが明確になります。責任者がはっきりしていれば、善かれ悪しかれ行動や判断が素早くできるようになりますので、平時のうちにしっかりとした検討をしておくようにしてください。