避難は大丈夫?

避難レベル4の高津川。これ以上水位が上がると橋が水没する。こんな状態で橋を渡っての避難は危険。

 気象災害が起きそうな予測が出ると、被災する可能性のある地域の人に対して避難指示が出されますが、あなたは自分の避難先について決めていますか。
 また、避難するための経路と方法をきちんと決めていますか。
 自治体から避難指示が出されたときにいくつかの避難所が避難先として開設されますが、お住まいの場所によってはその避難所に避難するのに、例えば氾濫するかもしれない川にかかっている橋を越えたり、土砂崩れするかもしれない崖の横を通るなど、発生が予測されている災害で危険な状態になりそうな場所を通らなければいけない場合ががあります。
 避難レベル3での早めの避難開始であれば危険度は低いですが、避難レベル4での避難となると、避難経路に危険が生じる可能性について考えておかなければなりません。
 そして、避難は避難所に行くために行うのではなく、あなた自身の身を守るために安全な場所へ移動するものです。
 もしも自治体が開設した避難所に行くのに危険が伴いそうなら、近くの安全な場所を選んで避難してください。
 また、そもそもあなたに避難が必要な災害なのかも、ハザードマップや地域の地図を見て確認しておくようにしましょう。
 日本は災害列島であり、どこにいてもなんらかの災害は必ず起こりえます。
 何も無いときだからこそ、非常時に備えて地図を見て、避難先や避難経路を決めておくようにしてください。

充電器を持って歩く

 充電器、といっても大型のものではなく、ここでは携帯電話やスマートフォンに充電できるだけの容量のある、持ち歩きのできる充電池のことです。
 普段から使い慣れているアイテムは、災害時でも当然活用されるのですが、その中でも携帯電話やスマートフォンは情報収集や情報交換、暇つぶしにと大活躍します。
 ただ、案外と見落とされがちなのは電池の消耗。当たり前のことですが、使えば使うほど電池は消耗しますが、避難所では充電できる設備はないと思ってください。
 一時避難所にあるコンセントで、たまに自分のスマートフォンを充電している人がいますが、その行為は盗電ですのであまりひどいようだとその施設から追い出されたり、場合によっては逮捕されてしまうこともありえます。
 充電池を持っておくことで、少なくとも1回~2回は携帯電話やスマートフォンの充電ができるはずですから、そちらで対応するようにしましょう。
 携帯電話やスマートフォンの電池の問題は結構切実で、ちょっとした災害時でも避難所の電源が充電器で埋まっているような状態になります。
 携帯電話の会社が開設する臨時充電施設が設置されても、充電時間は15分~1時間程度しかもらえませんが、充電池を充電するためのソーラーパネルなどを持っていれば、電源の問題を自己解決できます。
 多くの人の生活から切っても切り離せない携帯電話やスマートフォン。災害発生時に電池の消耗を防ぐことはもちろん、自力で電源を維持できるようにしておきたいですね。

公衆電話の位置を知っていますか

 携帯電話(スマートフォン含む)は、恐らくあなたも含めて多くの人が持っていると思います。
 では、あなたの身の回りでどこに公衆電話があるか思い出せるでしょうか。
 また、公衆電話の使い方はご存じですか。
 災害などで停電が長引くと、携帯電話の電波の中継を行っている携帯基地局の電源が喪失され、携帯電話がつながらなくなります。
 携帯電話の普及で殆ど姿を見なくなってしまった公衆電話ですが、災害発生時には有線回線のため、基地局の状況に関係なく電話をかけることが可能です。
 また、公衆電話は大災害などで一度に大量の通信がある地域に集中したときに行われる通信規制の対象になりにくい特徴も持っています。
 いざというときに非常に頼りになる存在ではあるのですが、携帯電話の普及で公衆電話を使う人が激減したため、災害対策用に置かれているものを除いて、殆ど見かけることがなくなってしまいました。
 とはいえ、大規模災害時の携帯基地局の復旧にはある程度の時間がかかりますから、公衆電話というのはそういったときに自分の状況を被災地外へ伝えることのできる有力な手段となります。
 NTT西日本では、お住まいの地域の公衆電話の設置場所を地図にしたものを公開しています。
 あなたが作る防災マップやご自身の防災計画の中で、いざというときに備えてお近くの公衆電話の位置も把握しておくと便利です。
 そして、10円硬貨と公衆電話の使い方も身につけておくと、いざというときに困らなくて済むと思います。

公衆電話設置場所検索(NTT西日本管内)(NTT西日本のウェブサイトへ移動します)

公衆電話設置場所検索(NTT東日本管内)(NTT東日本のウェブサイトへ移動します)

時間雨量50mm

 大雨に関する防災研修会を開催したときに参加者にお見せする映像の中に時間雨量50mmの降り方というのがあります。
 見た目はたいしたことがないように見えるのですが、雨中にいるとかなりひどい降りで大声を出さないと会話ができないくらいの雨音がしています。
 研修会に参加された方は「ほぅ」といった感じで見てくださるのですが、当研究所に限らず、さまざまなところで開催している大雨の防災研修会や講演会では、この時間雨量50mmが一つのキーワードになっています。
 というのも、実は時間雨量50mmというのが一つの基準のようになっているからです。
 大雨による氾濫では、川から人の生活空間に水が流れ込んでくる河川氾濫と、河川などへの排水ができなくなることによって側溝などから水があふれて発生する内水氾濫があります。
 特に時間雨量50mmを超えると側溝などの排水能力を超えてしまうことが多く、内水氾濫が起きやすくなります。
 そのため、時間雨量50mmが一つの目安になっているのです。
 気象庁のデータによると、時間雨量50mmを超える降雨は増加しているそうなので、低地や土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区域にお住まいの方は雨の降り方には注意をしておいたほうがよさそうです。

全国アメダス1時間降水量50mm以上の年間発生回数(気象庁のウェブサイトへ移動します)

火山登山と監視体制

大平山から見た男三瓶山

 最近火山活動が活発化しています。
 福徳岡の場や西の島、硫黄島などでかなり活発に造山活動が起きていますし、本日2021年10月20日午前11時43分には阿蘇山で大きな噴火がありました。
 登山していた方に被害はないとの報道もありますが、大きな被害が起きないことを願っています。
 ところで、日本は火山大国なのをご存じだと思いますが、火山だと言われている山がどれくらいあるかご存じですか。
 気象庁によると、現在日本にある火山活動をする可能性のある山、いわゆる活火山は111峰。
 中国地方では三瓶山と山口県の阿武火山群が指定されています。
 この中で、噴火が起きるかもしれないということで常時監視対象になっている山は50峰。
 こちらには三瓶山も阿武火山群も対象に入っていません。

阿武火山群の笠山


 本来は活火山は全て対象にすべきなのでしょうが、観測するための予算も火山学者も足りないことから地元自治体及びその火山のある管区気象台がリモートで監視しています。
 ただ、観測して予兆があっても、それが噴火の予兆なのかどうかという判断は難しく、正確な噴火予知ができていない現状があります。
 その結果起きたのが2014年の御嶽山噴火での登山者の犠牲ですが、そういった災害が起きても状況はあまり変わらず、現在に至っています。
 ちなみに、三瓶山や阿武火山群では、何か異常が起きると観測機材を持ってきて監視を始めるという体制になっていますが、実際にしっかりとした観測体制を取ることが可能かどうかはその時になってみないとわからないと思います。
 今回の阿蘇山の噴火では警戒レベル1で噴火が起きました。御嶽山の噴火でも噴火直前の警戒レベルは1。
 ただ、事前に火山性地震は観測されていますので、こういった山を登山するときには、噴火警戒情報だけに頼るのではなく、そこで何が起きているのかを調べた上で出かけることが重要だと思います。

避難訓練は観察者を置いてみよう

 避難訓練では、その施設の人が全員参加して行動することが大切だと思われていますが、実はそうではありません。
 全員が参加してしまうと、その避難訓練を客観的に評価できる人がいなくなり、その避難訓練のよかったところや悪かったところが客観的に判断できず、結局「無事に終わりました」という月並みな結果になってしまいます。
 避難訓練に直接参加せず、側から訓練の様子を見て評価する人がいると、避難訓練のいいところ悪いところが冷静に見えて次の訓練に反映することができます。
 当研究所でもそういった支援はしていますし結果報告書も作成していますが、無理に外部から観察者を入れなくても自分のところで誰かにその役をしてもらうことで、充分に役に立ちます。
 その時の視点は「本当にそれでいいのか?」「なぜそうなったのか?」「自分だったらどう動くだろうか?」というもの。
 例えば、避難訓練中に本当にけが人が出たとします。全員が訓練参加者になってしまうと、その記録は「怪我に対応した」で終わってしまいますが、観察者はそれだけではなく、「その怪我が起きた原因はなにか?」「本番でも発生する可能性はあるか?」「本番で起きたらどうすればその人の命が守れるか」といった視点で報告をしてもらうのです。
 それから、観察者がいると参加者は手が抜けません。特に管理職が観察者になっている場合、参加者は非常に真面目に取り組むことが多いですから、管理職の方には「自分がおらず、連絡もつかない」という想定にしてぜひ観察者になってほしいと思います。
 かつて、とある学校でその学校の避難訓練の見物をする機会がありました。その訓練では、学校から屋外の安全な場所へ避難するという訓練内容だったのですが、屋外への避難中、生徒の一人が溝に落ちて怪我をする事故を目撃してしまいました。
 どういう立場なのかはわかりませんが、近くで世間話をしながらそれを見ていた数名の教員は生徒に「保健室に行きなさい」の一言で特に何をするでもなし。
 見ていたこちらは「団子になって駆け足で避難行動していたため足下が見えなかった」ことや「溝蓋に隙間があって、そこに足が落ちてしまった」こと、「本番時に保健室が機能しているのか?」などさまざまな問題点や疑問点が出てきたのですが、それを指摘したところ、「溝蓋の管理はうちじゃない」や「怪我した人が悪い」「あんたに言われる筋合いはない」といった回答をいただきました。
 もしこれを見ていたのが筆者では無く、その学校の校長や教頭、もしくは教育委員会や保護者などであればこの教員達の反応は確実に変わったと思います。
 学校に限らず、組織として避難訓練するのであれば管理職が自分の目で見て何が問題なのかを洗い出したほうが効率がいいですから、訓練をする際には担当者に丸投げせず、ぜひ管理職の方が率先して観察者になっていただきたいと思います。
 客観的に見る目ができ、その意見が反映できるようになると、訓練の効率や効果は非常に高くなりますので、有意義な避難訓練がしっかりとできると思います。
 なぜか今の時期はさまざまな場所で避難訓練を行っています。余談になりますが、そういった過去の経緯から、当研究所では訓練計画の立案や実行だけでなく訓練観察の視点や訓練の改善点を考えるといった支援も行っていますので、興味のある方は一度ご相談いただければと思います。

防災工事の勘違い

 公共工事で行われる、例えば急傾斜対策工事や地すべり対策工事、砂防工事や防波堤、堰堤などを作る防災工事は、その工事を行うことにより周囲の被害を防ぐことができるようなイメージがあります。
 このイメージは完全な間違いというわけではないのですが、これらの工事も想定される雨量や水量といったものを前提に設計・施行されているため、その想定を超える雨や水量が出れば当然被害が発生します。
 「工事の施工完了=100%災害が起きない」というわけではないのです。
 もちろん工事をしていないよりはしてある方が災害が発生する確率は格段に下がりますから、やれればやったほうがいいのですが、やってあるから絶対に大丈夫とは考えないでください。
 どちらかというと、これらの施設はあなたが逃げる時間を作り出していると考えた方が正解です。
 土砂災害が起きる予兆を感じたら、まずはそこから逃げること。
 仮に施設が破損したとしても、あなたが逃げて命が守れたのであればその施設はきちんと目的を果たしていることになるのです。
 防災工事をしたから災害が起きないという勘違いはしないでください。
 あくまでも逃げる時間を稼ぐための施設と考えて、しっかりと情報を集め、早めに避難するようにしてくださいね。

避難時の目線

 大規模災害の際には好むと好まざるとにかかわらず避難をする場合が出てきます。
 特に大きな地震では、耐震補強している建物であっても一時的に建物の外へ避難するケースも出てくると思います。
 その時に気をつけたいのが安全を確保するための目線です。
 避難する方向だけで無く、頭上や左右、そして足下を絶えず見ながら移動をしないと、余震で何かが落ちてきたり倒れてくることもあります。

吊り天井でよく使われる化粧板。一つ数kgあるので、当たるとひどい怪我をすることもある。


 例えば吊り天井が落ちてくると、少々頭を防護していたところで大けがをすることは目に見えていますから、よくみて危険がない場所を選んで移動をする必要があるわけです。
 そして、本番でも必要なことですから、地震からの避難訓練の時には、上、右左、そして下を常に意識して避難するようにします。
 周囲を見て、未然に危険を予測し、その上で行動すること。
 本番の避難だけで無く、普段行っている避難訓練でもそういった目線は忘れないようにしたいですね。

行動を口に出して確認してみる

慌てているときや焦っているとき、どうかすると普段必ずしているはずの点検を怠ってしまうことがあります。
そして、そんなときに限って怠った点検から大問題が発生してしまいます。
普段の行動、分かっている行動でも、記憶や行動に頼っているだけでは問題が起きるということですね。
少しでも問題発生を抑えるためには、行動リストを作ったり、もう一人とコンビになって、お互いに手落ちがないか点検しあうといったことが大切になってきます。
ただ、災害時に常に手元に行動リストがあったり、自分以外の誰かと一緒に行動できるわけではありませんから、緊急時に一人でも身の安全を確保するための方法を知っておくことが重要です。
それは、「行動を声に出して確認する」という非常に単純なことです。移動や点検などをするのであれば、指さし確認をすると、声だけよりもミスが格段に減ります。
鉄道などに乗ると、運転手さんがよく声を出して指出しして次の行動の確認をしている光景を見ることがありますが、声を出し、指さし確認することで起こりうるミスを減らす行動をしているのです。
自分の行動を確認するために、声を出して行動を宣言すると身体が動かしやすくなります。できれば、自分の出した声が自分の耳で聞き取れるくらいの大きさ以上で出すことが重要です。
試しに、慌てているときに大きな声で「落ち着け!」と大声を出すことを試して見て下さい。周囲だけで無く、不思議なことにあなた自身も落ち着いているはずです。
また、その声を聞くことであなたの周りで被災し、思考停止した人が金縛りが溶けたように身を守る行動を起こすようになります。
災害に限らず、慌てているときや心配なときにはやるべき行動を声に出し、確認して行動を起こすようにすれば、あなたに発生するかもしれない二次災害を防ぐことができるようになると思います。

多機能か、単機能か

携帯ラジオ各種
ラジオもいろいろある。メーカー品だから常に優秀というわけでもないのが悩ましいところ

 防災グッズを購入するとき、さまざまな機能がついているものが結構あることにお気づきだと思います。
 例えば、ラジオに懐中電灯と発電機、それに携帯電話の充電装置がついているもの、あるいは懐中電灯とランタンが一緒になっているもの。十徳ナイフのようにナイフに缶切りやドライバーなどがついているものなど、一つで何役もできるものがたくさんあります。
 つい便利だし荷物も減らせるからとそういった多機能なものを選んだりしてしまいますが、もしこれから購入するのであれば、その多機能が本当に必要なのか、いざというときに使えるのかをあなたの中で一度確認してみて欲しいと思います。
 例えば、最初に出てきた多機能ラジオの場合には、発電機の発電能力と携帯電話への充電容量を確認しておかないといざというときに役に立たないという悲しい思いをすることになります。
 発電容量の話は結構深刻で、よくガラケーと呼ばれる携帯電話の充電は可能でもスマートフォンは充電ができないというものもかなりあります。
 それから、多機能であるが故にラジオの受信感度が悪かったり、ノイズが混じったり、懐中電灯を使うとラジオが入らなくなったりするものもありますから、買う前にはしっかりと調べておくことをお勧めします。
 また、もし停電時にランタン兼用の懐中電灯を準備するのであれば、家族などの状況によっては、ランタンのまま使うしかない状況になることもあります。例えば、家族の集まっている場所でランタンを使いながら誰かがトイレに行くというとき、灯りをどうするかという問題が起きるのです。
 十徳ナイフにしてもそうで、本当にその機能の全てをあなたが使えるのかを、一度冷静に考えてみて下さい。
 非常用持ち出し袋にいれるアイテム類はなるべくコンパクトにまとめてしまいたいものですが、使わない、使えないものを入れておいても仕方がありません。

使う乾電池がマルチ化された懐中電灯。電源の多重化は安心材料の一つ


 一般的に、多機能なものは単機能のものに比べると複雑ですし、能力も劣ることが多いですが、これも品物によってまちまちです。自分で自分にあったものを探していくしかありません。
 では、どうやって使えるものを見つけるのか。
 例えば、防災の講演会や研修会で防災アイテムの展示がしてあることがありますから、そういったものがあれば展示品を確認してみましょう。
 また、ネット通販や防災のコラム、アイテム類を紹介している雑誌類などに書かれている記事もある程度参考にすることができます。
 まったくの外れを引かずに済むというわけにはいかないかもしれませんが、いろいろな情報を自分で集めて、その上で自分に向いた機能を持つアイテムを揃えるようにしてください。