大水の災害時の鉄則

 大雨や雨台風など、大水が出るような災害時には早めの避難という鉄則があります。
 お住いの場所が低地や崖の上や下、水の通り道になっている場所などの場合には、雨がひどくなるような予報が出ているときにはより安全な場所に避難を考えましょう。
 雨が降ることは予測できていますし、レーダー解析などから、その雨がどれくらい激しいのかについてはある程度予測がつきます。
 特に夜間に引っかかりそうな場合には、陽のあるうちに安全な場所に避難を完了するようにしておきましょう。
 夜間の移動は、足元が見えませんし、雨の場合には視界もききません。
 危険度はかなり高いと考えてください。
 水の災害ではほとんどの場合予測ができるので、見極めさえできれば命を守ることはそんなに難しくありません。
 普段の排水状況や雨の降り方、そして雨の予報などを確認しながら、どうやって自分の安全を確保するのかを考えておいてくださいね。

災害対策用設備を過信しない

 人の命を守ることを目的に、はるか昔から、日本ではさまざまな災害対策用の施設が整備されてきました。
 ただ、最初は人の命を守るための設備、つまり避難する時間を稼ぐためのものという位置づけから、いつのころからか財産がくっついて、「絶対に災害を起こしてはならない」となり、どのような悪条件のところに住む人であれ、命と財産を守ることを目的に整備が進められています。
 でも、自然災害というのは昔も今も人知を超えるものがよく発生しているのですが、大きな災害が起きるたびに「想定外」という言葉が飛び出すという首を傾げてしまうような会見が飛び出したりしています。
 日本は昔から災害と付き合ってきた歴史があります。そのため、その土地にあったさまざまな災害を軽減し、避難する時間を稼ぐような仕組みがあったり、揺れて壊れても簡単に修繕できるような構造を取り入れたりしていました。
 もちろん進化し続けている土木技術のおかげで、昔よりもはるかに被災はしにくくなっているのですが、それでも50年に一度や100年に一度という表現が大雨や台風で頻繁に登場しているところをみると、そういった設備は災害を起こさないためではなく、災害時に人が避難する時間を稼ぐためのものと考えておいた方がよさそうです。
 もちろんさまざまな考え方があるわけですが、安全だと言っておいて被害に遭うよりも、災害が起きるかもと考えて行動する方が自分の命は確実に守れると思います。
大きな堤防であれ、ダムであれ、法面を押さえる設備であれ、完ぺきという言葉はありません。
 もしもに備えて、きちんと安全な場所を確認し、どのタイミングでどういう経路でどこに避難するのかを決めておくようにしたいですね。

どんなときに避難がいるのかを知っておく

 災害発生時にお住いの地区に対して避難を呼びかけられることがありますが、この避難の呼びかけはその地区に住んでいるすべての人に対して避難しろと言っているわけではないことをご存じですか。
 市町村が発表する避難レベルは多くは地区単位で発表されるので、安全なところも危険なところもごっちゃになって避難を呼びかけられることになります。
 もしも対象地区の人が全員避難所に避難するとしたら、中に入れない人がかなり出てくるのではないでしょうか。
 実際には「避難指示を出した地区のうち、本当に危ないところに住んでいる人、また危ないと思っている人」が対象となっているので、安全な場所にお住いの場合には、そのままおうちで様子を見ればいいということになります。
 ただ、自分の家が安全かそうでないかを知るためには、きちんとハザードマップを見て住んでいる場所ではどのような問題が起きると予測されていて、どんなときに逃げないといけないのかをしっかりと把握しておきましょう。
 あなたの住んでいる場所に対して、行政は個別に呼びかけたりはしません。あくまでも面としての地域に対しての避難情報の発表となります。
 過去には住んでいる地区に避難指示が出たからと言って、安全なおうちから避難所へ移動中に災害に巻き込まれたりした人もいますので、まずはあなたのおうちの周りの危険から把握するようにしてください。

機能を止めない方法を作っておく

どのようなお仕事でも、その仕事が無くなったら困るという方が必ずいるはずです。
特に人にかかわる仕事の場合には、災害でその機能が止まるとさまざまなところに大きな影響が発生しますので、平時に対策をきちんと立てておくようにしてください。
特に保育園やこども園といった小さな子供を預かる施設、高齢者を受け入れるデイサービスなどは、その機能が止まってしまうと家族はその世話をすることになってしまって、おうちの片づけすらできないことになってしまうので、代替策を準備し、災害が発生した時には速やかに代替手段に切り替えるようにして、家族が復旧に専念できるような体制を構築しておく必要があります。
そのためには、保育園やこども園、デイサービスといった施設の職員さんのおうちの災害対策がしっかりとできていなければなりません。
施設のBCPはその施設だけで完結するものではなく、施設にかかわるあらゆる人やもの、組織といったところも含めての対策を作る必要があります。
施設だけではなく、さまざまな企業や組織においても同様です。
自分のところの仕事だけでなく、周囲の人やもの、組織とも連動してBCPを構築することが、地域の素早い復旧のための重要な項目となります。

自己責任ってなんだ?

 大雨や台風など、最近は正確な予報が出るようになって、行動の判断がしやすくなりました。
 もちろん外れることもあるわけですが、それでも安全側に行動を切り替えることで自分の安全が確保できるのであれば、それは納得できる部分なのではないかと思います。
 そして、天気予報の精度が上がってきたので、公共交通機関もより安全に運行をするため、計画運休や大雨が予測される際の運休、減便をする判断がかなり早くされるようになってきています。
 一昔は、途中で列車やバスが止まってしまって、1日以上閉じ込められているなどということもありましたが、事前に運転取りやめを判断するようになってからはそのようなことはかなり少なくなっています。
 でも、せっかく予報が出ているのに、多くの人は行動を変えません。何もないときの延長線上で行動してしまい、運休に巻き込まれて行動ができなくなるという人がかなりたくさんいます。
 天気が相当悪くなる予報が出ていて、公共交通機関も運転取りやめの情報を発信しているのに、自分は通常通りの行動をしてしまう。
 せっかく携帯できる情報端末であるスマートフォンを持っているのですし、持っていなくても、テレビやラジオなどでもこういった状況は何度も伝えていますから、毎日時間を作って気象情報や交通機関の運転状況を確認すれば、自分の行動をより安全にすることは可能なはずです。
 また、経営者は従業員の命を守る義務がありますから、計画運休や悪天候による運休の可能性が出されているときには、従業員にそれを伝え、自身を守らせる行動をしなければなりません。
 どんな立場であれ、「私は知らなかった」は理由にはならないのです。
 もちろん、雇用主や客がそういったことに無頓着な場合もあるでしょう。でも、できる範囲での自己防衛はしておかなければ、ひどい目に遭うのは自分だということを忘れないでください。
 ここ最近、発生する災害が大規模になる傾向が強いです。
 そして企業コンプライアンスが声高に言われている以上、公共交通機関は今までのように「何とかなるだろうと無理やり動かす」といったことは、まずありえません。
 それがわかっているのですから、自分の行動を自分で情報を集めて決定することは、これからは必須になってきます。
 毎日きちんと天気予報を見て予測し、天気が荒れそうなときには、公共交通機関が止まるかもしれないことを予測して行動を考える。
 それが当たり前であり、公共交通機関は何があっても止まらないという幻想は持たないようにしてください。

災害が来る前に備える

 気象予報の精度がずいぶんと上がってきて、災害が起きると予測される精度も上がってきています。
 特に大雨や台風といった、事前に予測できる災害については、割とよく当たっているなという印象を受けます。
 よく当たる、ということは、それに対して備えることもできるということで、大雨や台風で被害が出るような予測が出ているときには、普段とは違う行動、いわゆる災害への備えをしておく必要があります。
 備えておけば、被害は最低限に食い止めることができるわけで、備えないという理由はありません。仮に何事もなかったとしても、本番を想定した練習と考えれば、次回への反省点や修正箇所が発見できていいのではないでしょうか。
 災害で怖いのは夜の間にさまざまな被害が発生することです。
 一番いいのは、絶対に雨の影響のない場所で過ごすことですが、想定で避難所を開設したり、自主避難を促したりすることはまだまだ稀ですので、自分で安全確保を考えて寝る場所を決めましょう。
 例えば、浸水するような箇所に住んでいる人は、できるだけ高い場所で寝るようにしてください。また、がけが崩れ落ちてくるかもしれない場所にお住いなら、がけから一番遠くで一番高いところにある部屋で寝るようにすれば、もしがけ崩れが発生しても巻き込まれて怪我をする確率はかなり下がります。
 これも常時と非常時の切り替えで、災害が想定されるようなときにも、非常時と考えて普段とは異なる、自分の安全を確保するための行動を取るようしましょう。
 災害が想定されるような事態は、数は増えてきているとはいえまだまだ日常には程遠い回数でしかありません。
 万が一に備えて行動することは、決して恥ずかしいことでもダメなことでも時間の無駄でもありませんので、自分の命を守るために、普段と異なるより安全が確保できるような行動を取るようにしてくださいね。

ハザードマップを持っていますか

 災害に備える話が出てくるときには、ほぼ100%ハザードマップの話が出てきますが、あなたはハザードマップを持っていますか。
 ハザードマップは、大雨や洪水といった水の災害、そして土砂災害の予測がされているものなので、梅雨や台風の時期には必ず確認するクセをつけておきたい大切な防災グッズの一つです。
 自治体で配布されているはずですが、何らかの事情で自治体からの配布がない場合には、その自治体のウェブサイト、国土地理院の「重ねるハザード」で確認することができますので、必ず確認しておいてください。
 できれば、紙に印刷してよく見る場所、例えば玄関やトイレの壁といった場所に貼り付けておくと、知らないうちにあなたのいる場所を含む地域のハザードが頭に入っていると思います。
 人間の行動や考え方には、まだまだデジタル機器はなじんでいません。また、デジタル機器は発災時には動かなくなる可能性がありますので、誰でもすぐに見ることのできる紙媒体は重要です。
 手持ちのハザードマップには、できれば避難経路も書き込んでおきましょう。
 複数の避難先を確保して、それぞれに安全だと思われる避難経路を設定して記載しておけば、実際に緊急で避難しなければならないときでも迷うことなく避難が可能です。
この記事を書いているのは2023年6月7日。翌日くらいからまた大雨が降る予報が出ています。
 今からでも十分間に合いますから、ハザードマップを確認して、自分が安全に過ごせる行動を練っておいてほしいと思います。

重ねるハザードマップ(国土地理院のウェブサイトへ移動します)

危険を見つけよう

 災害が発生すると、普段はなんでもないような場所がものすごい危険な場所になっていたりすることがあります。
 よくあるのがアンダーパスで、普段は何も意識せずに通行していても、短時間に大雨が降ったようなときだと、いきなり池になっていたりします。そういうときには、大抵道路管理者が通行禁止措置を取る前に、多くの車が突っ込んで水に沈むことになっていると思います。
 でも、大雨のときにはアンダーパスは水がたまるかもしれないと意識しておくとどうでしょうか。もしくは、雨の時にはアンダーパスは通らない、できれば普段から使わないといった行動をしていると、冠水時にも自分は被害を受けなくてもすむかもしれません。アンダーパスは危険な場所ということが意識できれば、行動が変わるのです。
 同じようなことが、谷が集まる場所にも言えます。
 普段はなんともなくても、山で大雨が降ると、それが谷筋に流れ、谷が集まる場所では大水が出てしまうことがあります。
 困ったことに、これらはハザードマップでは表示されないケースがよくあり、浸水しない場所のはずなのに床下浸水してしまったりすることがよくあります。
 そのことを知っていると、普段から降ってくる雨の量が気になってくると思います。
 普段から降っている雨の量を意識するようになると、普段の雨と普段と違う雨にも気づけるようになります。
 普段と異なる雨に早くから気づくことができれば、被害が発生する前に避難するなどの対応策も可能になります。
 危険は普段の生活のあちこちに潜んでいますが、毎日の生活ではそれを意識しなくてもいいような環境が作り出されています。
 でも、何かの拍子に意識していなかった危険がいきなり牙をむくことがありますので、普段から「ここはどうなると危険なのか?」といったことを意識するようにしましょう。
 危険を見つけ、そしてその対処法を考えて実行すること。
 災害だけでなく、普段の生活の安全確保でも使えるのではないでしょうか。

判断基準は自分で持つ

 2023年6月2日から3日の大雨、前線と台風の相乗効果でかなり強い雨が降った地域がありますが、あなたのお住いの地域は大丈夫でしたか?
 避難レベル4の避難指示や避難レベル5である緊急安全確保が出された場所も多くありましたので、眠れぬ夜を過ごされた方もおられると思います。
 また、被害に遭われた方にはこころからお見舞い申し上げます。日常が早く取り戻せることを願っております。
 ところで、大きな災害が起きると、避難レベル3から4、5という順番で避難に関する情報が出されるということになっていますが、実際の運用ではすべてをすっ飛ばしていきなり避難レベル5の緊急安全確保になることがあります。毎回発表が遅いとお叱りを受けるこの避難情報の発表、自治体の中で何が起きているか考えてみたことがあるでしょうか。
 こういう事態が発生する理由、実はすごく単純なもので、災害が発生しそうなとき、多くの人が自分では判断せずに行政に対応や救助をさせようとします。
 一人二人ならともかく、それが何十、何百という数になると、電話対応だけで手いっぱいになり、気が付いたら緊急安全確保を出さなければいけない状態になっていることが多いのです。
 情報提供はありがたいのですが、「だからなんとかしろ」と後につくと、一件の電話はとても長くなります。長いこと各自治体は人が多すぎるとして減らされ続けた結果として、電話にかかってしまうと他のことができなくなるくらい職員の数が減っています。また、「なんとかしろ」という電話の件数は年々増えていますから、そちらにかまけてしまって、本来業務ができなくなっているというのが実際のところです。
 それと、一つ知っておいてほしいのは、避難レベルはあくまでもその地域全体を面で見た時に発表されるということです。
 その地域全体が危険だと判断されて初めて出されるのがこの避難レベルですから、発表されるときにはすでに場所によっては災害が発生していることも十分に考えられます。つまり、自治体が出す避難レベルはあなたがいる地域という「面」であって、あなたがいる場所という「点」ではないのです。
 自分の安全を守るためには、自治体の出す情報は頼りになりません。自分を守るのは、あくまでも自分の判断であることを忘れないようにしてください。
 例えば、家の裏の川の水位が〇〇まで上がったら逃げる、とか、裏山の普段出ないところから水が出始めたら逃げるとか、自分の周りの環境で起きるちょっとした変化を避難判断にしましょう。
 自分で決めた避難判断は、恐らくは自治体が出す判断よりも早くなります。
 つまり、より安全に確実に避難を開始できるということになり、空振りは増えるかもしれませんが、自分の命は確実に守ることができます。
 避難判断の基準は自分で持つ。そのために、家や近所の周りの普段の様子をしっかりと確認するようにしてください。

気象庁発表の「顕著な大雨に関する気象情報」の運用が一部かわりました

 2022年6月1日から線状降水帯予測が開始され、すでに運用がされているところですが、2023年5月25日の13時から、この運用が一部変わります。
 現在気象庁が「顕著な大雨に関する気象情報」を発表している基準は以下の条件をすべて満たしたときに出されています。

①解析雨量(5kmメッシュ)において前3時間の積算降水量が100ミリ以上の分布域の面積が500平方キロ以上
②その形が線上(長軸・短軸比2.5以上)
③①の領域内の前3時間積算降水量最大値が150mm以上
④①の領域内の土砂キキクルにおいて土砂災害計画情報の基準を実況で超過(かつ大雨特別警報の土壌雨量指数基準値への到達割合8割以上)又は洪水キキクルにおいて警報基準を大きく超過した基準を実況で超過

 ここで気を付けるのは、「前3時間」や「実況」という部分で、すでに起きてしまったことや実況を元にしているということ。
 つまり、発表されたときには災害が起きている可能性が高いということになり、状況によりますが、一番ひどい状態のときに避難を余儀なくされる場合があるということです。これはあくまでも参考情報なので、顕著な大雨に関する気象情報が出たからと言ってすぐに避難に結び付くわけではありませんが、避難や対応をする側から見ると、もう少し早く予測ができないかという風に感じるものです。
 今回の変更では、発表が30分前倒しされ、「このまま続けば後30分で上記①~④をすべて満たす可能性があるときに出されることになりましたので、ちょっとだけ命を守るための行動を開始する時間が早くなりました。
 最終的には市町村単位で半日前から情報提供できるようにするという目標になっていますので、より早く細かな情報提供がされることになります。
 ただ、どのように情報提供が進化してきても、最終的にそれを役立てることができるかどうかは受け取る人次第。
 さまざまな災害の情報に対応して、早めにきちんと行動できるようにしておきたいですね。

「顕著な大雨に関する気象情報」の新たな運用について(気象庁のウェブサイトへ移動します)