まずは身の安全を確保する

机の下でダンゴムシ
机の下でダンゴムシはお約束です

 防災の普及啓発をやっていると、災害に対してどんな備えをしたらいいのかと聞かれることがよくあります。
 災害に対してどんな備えをするのか、という問いに対する回答は結構難しくて、人によってさまざまな回答をすると思いますし、恐らくはどの回答も間違っていないと思います。
 筆者なら、まずは自分の身の安全を確保するための方法を身に着けることを推奨します。どんな備えでも、本人が死んでしまったら何の役にも立ちません。まずは自分の安全確保が最優先になるからです。
 安全確保とは、物理的安全、精神的安全、身体的安全になると思っていますが、災害発生時にはまず身体的安全を確保することが優先であり、そのための方法を学ぶことが必要です。
 東日本大震災の時に流行った「津波てんでんこ」は、まずはそれぞれが自分の安全を確保するための言葉です。地震に対する備え、準備、対策、水害や台風、津波に対する情報収集、準備、対策をしっかりと行っていくことが大切になると考えています。
 そして、そのための訓練は怠らないようにしてください。
 訓練はうそをつきません。
 身の安全を確保するための行動は、普段から意識していなければ行うことは難しいですので、物理的な備えを行うのと同時に、想定される被害に対して安全確保をするための訓練も、しっかりと行うようにしてください。

避難の手段を考える

 避難の時には徒歩でといわれていますが、起きる災害と時期、そして場所によっては、避難の手段が変わる場合があります。
 例えば、歩いて行ける範囲に避難所がない場合には、何らかの交通手段を使用しなければそもそも避難をすることができない場合があります。
 山間部の小集落などの場合には集落そのものが危険な場合がありますが、他の場所へ避難しようとすると自家用車などを使わなければどうにもなりません。
 逆に都会地になると自家用車は使えません。徒歩でなければそもそも交通渋滞に巻き込まれて移動ができない状態になっているでしょう。
 また、来るのが予測できる台風や大雨の場合には、あらかじめ被害の出そうな時間が予測できますから、それまでに避難を完了すればよいことになります。交通機関などが通常通りに動いている状態のときに避難を行うのであれば、あらゆる手段を使うことができます。
 でも、地震のように突然発生する災害については、道路の被害や信号機の停止などによる渋滞が予測されますから、自由の利く徒歩での避難が推奨されるのです。
 いつ被害が起きるのかがある程度予測できる災害の場合には、早めの避難をするのなら悩まなくて済みますし、ぎりぎりになって避難しようとすると、避難に使うための選択肢はほぼ徒歩一択になります。
 可能であるなら、避難の手段がたくさんあるうちに避難行動を開始、完了するように避難の手段や計画を立てておきたいですね。

周囲の間違い探し

 土砂崩れ、土石流、地すべりといった土砂災害は、多くの場合事前になんらかの予兆が起こりますが、それに気づかずに災害に巻き込まれるというケースが多いようです。
 注意してみていると、焦げ臭いにおいや斜面のふくらみや斜面からの小石の崩落など、さまざまな小さな変化が起こっています。
 先日、この話を子供向けの防災教室でしたところ、ある子が「それって間違い探しだね」と言ってくれて、なるほどなと思ってしまいました。
 小さな変化に気をつけようといっても、なかなか難しいかもしれませんが、例えば子供たちに「毎日観察して間違ったところ(普段と違った変化のある場所のこと)があったら大人に教えてね」と言っておくと、彼らは楽しみながら観察をしてくれるのではないかなと思います。
 小さな変化は間違い探し。
 これを意識して小さな変化に気づきたいですね。

防災計画は現実的ですか

 東日本大震災における大川小学校の損害賠償請求事件では原告が全面勝訴しています。このことは割と有名な話なのですが、この中で裁判所が「事前防災の予見と不備」を大きな理由にしていることはご存じですか。
 人が集まっている学校などでは、想定されうる災害についてきちんと精査し、条件変更のたびに防災計画をきちんと見直すことが必須とされています。
 詳細は裁判所の判例をご確認いただきたいのですが、筆者の解釈では、この判例の前提にあるものは、学校に限らず、人が集まる施設では起こりうる災害とその対策についてしっかりと精査したうえで可能な限り犠牲者を出さないための対策を行う必要があるということなのではないかと思っています。
 学校や病院、介護施設、保育所やこども園などでは、ほとんどの場合防災計画が作られていると思います。ただ、それはきちんとそれらがある場所の状況を反映し、的確に安全確保ができるものになっているでしょうか。
 特に介護施設などでは、筆者の知る限りでは防災計画のひな型を適当に手直ししたものが備え付けられていることが多いですし、見直しや改訂もまったくされていないものもよくあります。
 法律上は防災計画が立てられていて計画書が備え付けられているので問題がないと判断されるのですが、それで安全がきちんと確保されているでしょうか。
 防災計画を一から作れというのは結構ハードルが高いと思うのですが、これらの施設に義務付けられている避難訓練の状況や結果を防災計画書に反映させることはできると思います。
 もしあなたが防災担当をしているのであれば、今からでも遅くはありません。
 自分の担当している防災計画書を見直し、地域の災害リスクや要件をきちんと満たせているか、そして実際に安全確実にできるような計画になっているかを確認し、しっかりとした安全を確保してください。
 余談ですが、介護施設は特に地域の中では危険な場所に建てられていることが多いです。立地からすでにリスクがあるのですから、しっかりとした対策を作って実行できるかどうかを確認することをお勧めしておきます。

大川小学校津波訴訟判例文(裁判所のウェブサイトへ移動します)

基本は自宅避難です

 災害対策の考え方の普及が進んだのか、それとも新型コロナウイルス感染症などで敬遠されているのか、在宅避難の人はかなり増えているのかなという気がします。
 自治体が設定している指定避難所の収容人数を確認すればわかるのですが、もともとその地域の人間をすべて収容できるような避難所はほとんど存在しません。
 避難しないといけない状況にある人が他に選択肢のない場合に自治体の設置する指定避難所に避難するというのが考え方の根底にあるからです。
 また、物理的に避難地域の全ての人を収容できるような施設がないということもあると思います。
 ではどんな前提で避難所に避難する人が決まるのかというと、以下の図のようになります。


 まずは自宅にいることができるのかどうかがスタート。
 自宅にいられない場合に、他の家族や知り合いなど、避難しなくてもいい人たちの家などに避難できないか、また、安全な場所にある宿泊施設などに避難できないかが選択肢に上がります。
 そして、どうにもならない場合に初めて指定避難所への避難が選択されるということになります。
 過去にはなんでもかんでも避難所に避難しろという乱暴な時代もありましたが、これだけ大規模災害が続くとそんなことも言っていられないということがわかってきたようです。
 避難指示が出ても、それはあなた特定の話ではなく、その地域全体の話です。
 まずはそれが自分に当てはまるのかどうか、そして当てはまっている場合にはどこへどうやって避難するのかについて、可能な限り事前にしっかりと決めておくことをお勧めします。

作っておきたいタイムライン

当研究所のマイタイムライン研修会の風景

 台風や大雨のようなある程度予測できるはずの災害で「逃げ遅れた」ということを割とよく聞きます。
 逃げるタイミングを失ってしまったということなのですが、地震のように突然起きるわけではない災害なのに、どうして逃げるタイミングを失ってしまうのか。
 答えは簡単で、逃げる判断をする時期をきちんと決めていなかったからです。
 逃げるかどうかの判断ができないのですから、逃げられるわけはないし、また逃げるタイミングを失ってしまうのも当然です。
 最近よく耳にする「マイタイムライン」ですが、これは災害時の自分の行動計画を作るもので、いざというときにはこれに従って行動すると、少なくとも逃げ遅れることは格段に減ってくると思います。
 悩むのは行動計画を作成するときで、本番では作成しておいた行動計画に従って何も考えずに行動するようにします。
 そうすることで、その時に判断に迷うという一番時間の無駄な使い方をしなくて済むことになるのです。
 実際にマイタイムラインを作ってみると、避難が必要な人、そうでない人でかなり判断することやそのタイミングが異なってきます。
 文字どおり「自分の」災害時行動計画を作るのだということが、研修会などで作成してみるとわかると思います。
 また、タイムラインに何を書こうかと悩んでしまうことも出てくると思いますので、誰がどんなことを書いているのかを調べてみるのも参考になると思います。
 マイタイムラインはあなたの逃げ遅れや準備不足をできる限り無くすために作成するものです。
 自分の命を守る、そして生き続けることができるような計画をしっかりと考えてみてくださいね。

避難する人の心構え

高いところへ避難するのを習慣づけておくと、少なくとも洪水や津波対策はできる。

防災訓練などでは、高齢者を始めとする要配慮者は自主防災組織などがお迎えに出かけて避難させることがよくあります。
ただ、毎回の訓練でそれを毎回やってしまうと、要配慮者の方は「迎えに来るまで待っていればいい」といった判断をしてしまい、津波などに対する避難が間に合わないことが発生します。
避難に支援がいる方々ですから、急いで避難させるためにはどうしてもそういった行動になってしまうのですが、緊急時に迎えが来ず、いつまでも自宅にいると危険な場合も想定しておく必要があります。
ご本人が判断に迷うような場合もありますので一概には言えないのですが、そういった場合には、ご近所の方が危険が迫っていることだけでも知らせるような仕掛けを作っておいた方がいいでしょう。
もっとも、危険が迫ってくることを知らせると、なし崩しにその人の避難支援を行うことになる場合が想定されますので、最終的には非常時に備えて自主防災組織だけでなく、普段地域に在住している人たちもそういった支援を行えるようにしておく必要があるかもしれませんね。
そして、避難訓練では災害発生のタイミングや避難行動開始をすべて主催者が説明してしまうこともよくあります。
時間内に終わらせようとするとどうしてもそうなってしまうのですが、本番では誰も避難開始など教えてくれませんから、何が起きたら避難を開始するのかについて「行動するための鍵」を自分の中で決めておくことが大切です。
言うまでもありませんが、自分の命を守るための行動は自分が主体的にとらなければ誰も助けてはくれません。
そういう意味では、要配慮者の方であってもできる範囲での行動はやってもらったほうが安心です。
訓練のための訓練ではなく、本番の状況に合わせた訓練も、慣れてくるとやってみたほうがよいですし、発生する災害の想定も変えてみる必要があります。
その避難所が、想定されるすべての災害に対して安全だとは言えないのです。
避難する人は、自分の命は自分で守るという心構えを持って、行動をしていきたいですね。

地震に備える

 昨日トルコで大きな地震が二連続で起きたようで、大勢の方ががれきの下敷きになっているようです。現地では救助活動が続いているようですが、一人でも多くの方が助かることを願っています。
 あまり知られていないようですが、実はトルコも日本と同じように周囲を複数の大陸プレートで押し合っている地震の多い地域です。
 ただ、あまり耐震化は進んでいないようで、ひどい地震になると建物が崩れてしまう状況があります。
 耐震化が進んでいる日本ですが、同じ規模の地震が起きたら、恐らく同じように倒壊する建物が多いのではないでしょうか。
 特に昭和の高度成長期に建てられた家屋は柱の大きさに比べて屋根が重い構造になっているものが多いので、衝撃や揺れで柱が重さを支えきれずに折れたり倒れたりしてしまうようです。
 家具などの地震対策をしていても、肝心の建物が耐震化されていない場合には、家具もろともつぶれてしまう可能性がありますので、建物が地震に耐えられるのかどうか、市町村が行っている耐震診断で確認してみてください。
 もしも耐震性がない場合には、いざというときにすぐ動けない場所、寝るところと、お風呂、そしてトイレだけでも地震に耐えられるようにしておきましょう。
 中にいる人がすぐに動くことができる店舗などでは、脱出路を確保したうえで揺れたら外へ逃げるというのも手です。ただし、外の安全が担保されているという条件になるのでご注意ください。例えば、その店舗の屋根が瓦だったりする場合には、屋根から落ちてくる危険性があるので対策が必要となります。
 地震は発生するまでにどれくらいの手を打てているかが勝負です。
 地震が起きた時には、それまでの準備で勝負がつきます。そして、地震は起きないと思っていても、日本という地域の特性上、地震はどこでも起こりえます。
 地震への備えは、内閣府防災をはじめさまざまなウェブサイトで紹介されていますので、自分の備えがどうなっているのか、そしていざというときに命を守り、生き残ることができるのかをしっかりと確認しておいてください。

どんな備えがいるのかを知っておこう

その場所を知ることで適切な備えをすることもできる。写真は防災マップ作りの一コマ。

日本に住んでいる限り、災害が起きると大小はありますが、自分の生活に影響を受ける人がほとんどだと思います。
例えば、低地にお住いであれば大雨や洪水に備えておかないといけませんし、山の周囲にお住いであればがけ崩れや地すべりに気を付けておく必要があります。
また、直接なんの影響もない場所に住んでいる人でも、災害によるライフラインや道路などの寸断による影響は必ず出てきます。
どのような災害でどのような影響が出るのかは、過去の例や予測、推測するしかない部分もありますが、影響を受ける災害を認識することが災害に備えることの第一歩になるとおもいます。
ハザードマップや過去の伝承などを参考に、あなたがいる場所にはどのような災害が起きる危険性があって、どのような備えが必要なのかを確認し、そのうえで災害対策を進めるようにしてください。

【終了しました】研修会「ハザードマップの読み方を知ろう」を開催します。

 あなたは自分がいる場所が、どのような災害時にどのような危険があるのか知っていますか。
 簡易的にそれがわかるのが、市町村が作成しているハザードマップです。
 このハザードマップ、きちんと内容が理解できると非常に効果的に自分の安全確保ができるのですが、残念ながら配るだけで読み方の説明がきちんとされていないので、ちゃんと読まれていないことが多いようです。
 今回は、危険や避難判断の基本となるこのハザードマップの読み方についてやってみたいと思っています。
 「ハザードマップってなんだ」という方から「この部分はどう読めばいいのか」など、初歩の部分からちょっとマニアックな話まで、ハザードマップを見ながら一緒に学んでみたいと思っています。
 準備の都合がありますので、できれば事前申し込みをお願いします。
 興味のある方のご参加をお待ちしております。