とりあえず試してみること

 災害後の生活では、さまざまな人がさまざまな代替品・代替手段の情報を提供していますが、その代替品や代替手段を実際に試してみた人はどれくらいいるでしょうか。
 例えば、トイレ問題。
 トイレが使用できない場合には大人用のおむつをつければ安心です、といった話を見ることがありますが、実際につけてみたところ、吸収した後の状態がかなり気になって気が散り、筆者自身は何かに集中することはちょっと難しかったです。
 むろん全く気にならない人もいると思いますのであくまでも個人的な意見ですが、それを体験したことにより、筆者自身は便器につけられる簡易トイレを数日分準備することにしました。
 ちゃんとしたおむつでもかなり気持ち悪く感じるのですから、赤ちゃんのおむつの代用品としてよく紹介されているタオルとポリ袋などは、赤ちゃん大泣きまっしぐらになると思います。
 タオルとポリ袋の組み合わせは、普通の布おむつと同じ状態なので、赤ちゃんが排せつするたびに替えてやる必要があります。でも、被災直後にそれだけ衛生的なタオルを準備できるのであれば、最初から紙おむつを準備しておけという話になります。
 試してみると意外なことがわかることは他にもたくさんあります。
 いろいろとやってみている筆者ですが、印象としては普段の生活で使用しているものはできる限り普段通りのものが使えるように準備し、そうでないものについては代替品や代替手段を知っておくことがいいようです。
 代替品はあくまでも代替品。代替手段はあくまでも代替手段。
 とはいえ、代替品や代替手段でも自分は大丈夫かもしれません。それを確認するためには、平時にいろいろと試してみること。
 そうすることで自分に必要な準備が見えてくると思います。

基本は自宅避難です

 災害対策の考え方の普及が進んだのか、それとも新型コロナウイルス感染症などで敬遠されているのか、在宅避難の人はかなり増えているのかなという気がします。
 自治体が設定している指定避難所の収容人数を確認すればわかるのですが、もともとその地域の人間をすべて収容できるような避難所はほとんど存在しません。
 避難しないといけない状況にある人が他に選択肢のない場合に自治体の設置する指定避難所に避難するというのが考え方の根底にあるからです。
 また、物理的に避難地域の全ての人を収容できるような施設がないということもあると思います。
 ではどんな前提で避難所に避難する人が決まるのかというと、以下の図のようになります。


 まずは自宅にいることができるのかどうかがスタート。
 自宅にいられない場合に、他の家族や知り合いなど、避難しなくてもいい人たちの家などに避難できないか、また、安全な場所にある宿泊施設などに避難できないかが選択肢に上がります。
 そして、どうにもならない場合に初めて指定避難所への避難が選択されるということになります。
 過去にはなんでもかんでも避難所に避難しろという乱暴な時代もありましたが、これだけ大規模災害が続くとそんなことも言っていられないということがわかってきたようです。
 避難指示が出ても、それはあなた特定の話ではなく、その地域全体の話です。
 まずはそれが自分に当てはまるのかどうか、そして当てはまっている場合にはどこへどうやって避難するのかについて、可能な限り事前にしっかりと決めておくことをお勧めします。

仮設トイレで気を付けること

仮設トイレでもパーテーションで区切ることで入り口を別にすることができる。

 大きな避難所になると、トイレ問題を解決するのに仮設トイレが設営されることがありますが、その時に意識しないといけないことの一つに、男性と女性の入り口を分けるというものがあります。
 日本の公共施設のトイレでは、多くの場合出入口が男女同じ、またはすぐ近くにあることが多く、人目がない場合には平時でも危険な状況になることがあります。
 災害後に仮設トイレが必要な状況というのは、非常にストレスが発生しやすい環境にあると考えて間違いありませんので、性的なトラブルの発生を予防する意味でも、トイレは男女完全に引き離すことが必要です。
 そのほかにも、トイレの周囲は常に明るくしておくことや、人目のある場所に作るなどいろいろとあるのですが、事前にしっかりと検討しておかないといざというときにはそこまで意識が向かないものです。
 一般的に避難所において、寝床とトイレは、さまざまなトラブルが発生しやすいところですので、トラブル防止のためにも平時にしっかりとレイアウトを検討しておくことをお勧めします。

72時間と備蓄のこと

 災害時の各家庭の備蓄について、最低3日間準備しろという話は聞いたことがあると思います。
 南海トラフ巨大地震などの話が注目されてからは7日間に延ばされていますが、この最低3日間というのにはきちんとした意味があります。
 3日間とは72時間。現在トルコ・シリア国境付近で起きた大きな地震でも取り上げられていますが、人命の救命率が極端に低下するのがこの72時間なのだそうで、発災から72時間は行政の全ての機能は人命救助に振り向けられます。
 国際緊急援助隊が被害甚大とわかってすぐに出発したのは、とにかく早く現地入りして一人でも多くの人を救助するためで、生き残った人に必要となるテントや各種資機材はそのあと準備が整い次第送られることになっています。
 つまり、どこの国であれ、怪我無く生き残れた人はとりあえず置いておいて、怪我をした人たちや生き埋めになった人たちを救助することに全力が注がれることになるのです。
 怪我無く生き残れた人たちへの対応は、けが人の処置が終わって、恐らく生存者はもう期待できないという状況になって初めて本格化します。
 ですので、人命救助に行政の機能が注がれている間は怪我無く生き残れた人は自力でなんとかするしかありません。
 そういった理由から、最低3日間自助でなんとかできるだけのものを準備しておく必要があるのです。
 とはいえ、実際に大災害が起きると3日ではどうにもならない場合も出てくるでしょう。そのため、現在内閣府防災では7日間程度の備蓄をするように国民に呼びかけているのです。
 たすかった人たちの命を守ることも重要ですが、そのまま放置すれば失われる命をなんとか助けなければなりません。
 あなたが準備している非常用持ち出し袋や備蓄品で、最低3日間の生活維持ができますか。また、もしものときにはどういった行動をとりますか。
 トルコ・シリア国境での地震の状況は毎日マスコミ報道がされていますので、もしこのような事態が自分の周りで起きたら自分がどうするのかをしっかりと考えておきたいですね。

1週間の備蓄量を考える

 防災対策でよく言われる非常時の備蓄品については、最低3日、できれば1週間程度準備することが望ましいとされていますが、何をどれくらい用意しておくといいのかというのは、なかなかイメージがうまくわかないのではないかと思います。
 特に消耗品である水や食料、仮設トイレやカセットガスなどは、内閣府が出している備蓄量からかなり増減する項目になると思いますので、正確な数量を知っておく必要があると思います。
 水は1日3リットルですが、人によってはもう少し少なく摂取している人、逆にそれよりも多く摂取している人、いろいろです。
 食事にしても、お米を毎食1合食べる人もいれば一日で1合という人もいるでしょう。パンでないとダメな人もいるかもしれません。
 また、トイレについても一日大小どれくらい使っているのかは人によってかなり異なります。
 備蓄品が余るのは問題ありませんが、不足する状態になると悲惨なことになってしまいますので、量や回数はできるだけ把握しておくことをお勧めします。

死なないこと、怪我しないこと

小学校の防災クラブで実施している応急手当。普段でも使えるものをしっかりと学ぶ。

 災害時に最も重要なことは死なないこと、そして怪我しないことです。
 そのための耐震補強だったり、早めの避難だったり、場合によっては被災地外の遠方への避難ということも考えられるわけです。
 ただ、死なないこと、怪我しないことを達成するためには日ごろからの準備がかなり大切になります。
 でも、重要度は高いがいつ来るかわからない災害への備えは、大丈夫かもしれないという気持ちにとらわれることが多くてどうしても後回しにしがちです。
 優先度を上げるためには、周囲の目などのさまざまな補助が必要になりますので、例えば自治会や自主防災組織、行政などは災害時に余計な手を取られないためにしっかりと手助けをしていくことが大切です。
 自治会や自主防災組織であれば、家具の固定方法や実際に各家庭を回って一緒に対策をする、行政であれば耐震補強や耐震診断に対して信頼できる業者の紹介や対策にかかる経費の補助など、その気になれば簡単にできることがたくさんありますので、対策が必要だということから一歩踏み出し、対策を実際にやろうというところにまでなってほしいと思います。
 最終的に自分の身を守るのは自分しかありませんが、自分の身を守るためのいろいろな対策の手伝いは誰にでもできます。
 災害時に死んだり怪我したりする人が増えると、消防や警察、自衛隊や行政といった専門的な活動をする部分に負担がかかり、対応が遅れたり対応できないことも起こりえます。
 不幸にして死んだり怪我したりする人を0にすることはできないかもしれませんが、対策を講じることで0に近づけることはできますので、お互いが助かるような手立てを考え、実際に行動して、いざというときに死なない、怪我しないようにしていきましょう。

ラップとホイル

 非常用持ち出し袋の中にラップとアルミホイルは入っていますか。
 市販品の非常用持ち出し袋の中にはほぼ必ず入っているこの二つのアイテムですが、使う用途が非常に広いので、非常用持ち出し袋の中にはできるだけ入れておくことをお勧めします。
 ラップは食品を包むだけでなく、皿にまけば汚れた皿でも使えますし、逆にきれいなお皿を食品で汚すこともありません。やけどの応急処置にも使えますし、ねじれば紐にもなります。
 また、新聞紙と一緒に体に巻けば防寒着としても使えます。
 アルミホイルも便利です。折れば器になりますし、乾電池と組み合わせると着火用の道具にも使えます。
 懐中電灯のライトの部分に巻くと明るく出来ますし、体に巻き付けると簡易防寒具にもなります。
 使い方はたくさんありますし、そんなにかさばるものでもありません。
 ラップもアルミホイルも徐々に劣化はしていきますので、非常用持ち出し袋専用ではなく、台所などで無くなったら非常用持ち出し袋から補充して、非常用持ち出し袋に新しく買ってきたものを補充するようにすると、いつも在庫がある上に、非常時には簡単に持ち出すこともできます。
 生活の質を下げないための道具の一つとして、ラップとアルミホイル、非常用持ち出し袋の中に常備しておくといいですね。

発電機は絶対に屋外で使う

携帯発電機を室内で使用して一酸化炭素中毒になる事故の再現映像(製品評価技術基盤機構(nite)作成)

 冬場に長時間の停電が起きると、電化されている最近の住宅では暖が取れなくなることがあります。
 その時に備えてガソリン式やカセットガス式の発電機を備えている方もおられると思いますが、屋内では絶対に使用しないでください。
 発電機に限りませんが、燃焼するときには酸素が燃焼により二酸化炭素に変わっていきます。
 ただ、供給される酸素が不十分になると、二酸化炭素になれずに一酸化炭素が発生し始めます。
 この一酸化炭素は人間が吸い込むと中毒死するような危険な気体なのですが、寒いと屋内やテントの中で発電機や炭火などを使い、酸素不足で一酸化炭素が発生して中毒死する事故がほぼ毎年起きています。
 災害後に電気が再開するまでは発電機に頼ることも多いとは思いますが、発電機はいくらコンパクトでも絶対に外で使用すること。
 そしてできるだけ開放的な場所で空気がしっかりと流れるようにしておくことに注意しておいてください。
 発電機は絶対に外の風の良く通るところで使うこと。
 周囲が住宅地の場合には発電機の音が気になってしまうかもしれませんが、命にはかえられませんので必ず守るようにしてください。

避難所は土足厳禁が基本

段ボールベッドと避難所用テントを組み合わせる。

 避難所では、生活空間は土足禁止にしたほうが健康を保ちやすいのでお勧めです。
 というのも、避難所の就寝場所がすべて床面から20cm以上の高さがある場所ならいいのですが、そうでない場合、土靴から落ちた汚れやごみ、ウイルスや雑菌などを吸い込んでしまい、呼吸器系の病気を発症することが多くなります。
 日本では床に直接寝る習慣があるために靴を脱いで生活空間に入るという習慣ができたのだと思いますが、これは理にかなっています。
 地表に舞っている病気の元であるゴミやほこりなどを吸い込まないために、靴を脱ぐ習慣になっているのです。
 逆に靴を脱ぐ習慣のない国では、寝る場所の高さを上げてベッドというものになっていて、地表で舞っているさまざまな雑菌から呼吸器系を守るようになっています。
 とはいえ、避難所は人の出入りも多く、土足を禁止してもしっかりとした衛生面の確保は難しいと思います。できるなら土足は禁止したうえで、床から少しでも高さを上げたところで寝ることにするようにしてほしいと思います。
 避難所の生活空間での土足を禁止することは、避難所で大きな病気を出さないためには大変重要なポイントです。

睡眠をしっかりとれる準備をしておこう

ある程度快適な就寝環境?

 最近の市販品の非常用持ち出し袋には、かなりの高確率で寝るときに使用するエアマットが入っています。
 これは避難所または避難場所で睡眠をとる必要がある時に床との間に空気による層を作ることで、寝る姿勢を楽にすると同時に床からの冷気を防ぐ断熱と、床に舞っているほこりを吸い込む確立を少しだけ減らせるという効果があります。
 ただ、これだけでは快適な睡眠には程遠く、寝袋や毛布、あるいは布団など自分がしっかりと眠ることのできるための道具を追加しておく必要があります。
 一日だけならエマージェンシーシートでもなんとかなりますが、やはり専用に作られた寝具にはかないませんので、できるだけ快適に過ごすためにもしっかりとした準備をしておきましょう。
 また、避難所では防犯上夜間も照明がついているので非常にまぶしいですし、周囲の知らない人のさまざまな生活音が聞こえると寝にくいところがあります。
そこで、アイマスクや耳栓などを準備しておくと、寝るときにある程度の快適さは担保されると思います。
 余裕があるなら、自立型のテントを持参しておくと、場合によってはテントを展開して中で寝ることもできるのでさらに快適になります。
 非常時において、給水、食事、排せつと並んで睡眠は自分の体調を保持するために非常に重要なものです。
 平時に、どんな道具なら自分が快適に寝られるのかを調べておいて、非常時に備えて準備をしておいてくださいね。