時間雨量50mm

 大雨に関する防災研修会を開催したときに参加者にお見せする映像の中に時間雨量50mmの降り方というのがあります。
 見た目はたいしたことがないように見えるのですが、雨中にいるとかなりひどい降りで大声を出さないと会話ができないくらいの雨音がしています。
 研修会に参加された方は「ほぅ」といった感じで見てくださるのですが、当研究所に限らず、さまざまなところで開催している大雨の防災研修会や講演会では、この時間雨量50mmが一つのキーワードになっています。
 というのも、実は時間雨量50mmというのが一つの基準のようになっているからです。
 大雨による氾濫では、川から人の生活空間に水が流れ込んでくる河川氾濫と、河川などへの排水ができなくなることによって側溝などから水があふれて発生する内水氾濫があります。
 特に時間雨量50mmを超えると側溝などの排水能力を超えてしまうことが多く、内水氾濫が起きやすくなります。
 そのため、時間雨量50mmが一つの目安になっているのです。
 気象庁のデータによると、時間雨量50mmを超える降雨は増加しているそうなので、低地や土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区域にお住まいの方は雨の降り方には注意をしておいたほうがよさそうです。

全国アメダス1時間降水量50mm以上の年間発生回数(気象庁のウェブサイトへ移動します)

火山登山と監視体制

大平山から見た男三瓶山

 最近火山活動が活発化しています。
 福徳岡の場や西の島、硫黄島などでかなり活発に造山活動が起きていますし、本日2021年10月20日午前11時43分には阿蘇山で大きな噴火がありました。
 登山していた方に被害はないとの報道もありますが、大きな被害が起きないことを願っています。
 ところで、日本は火山大国なのをご存じだと思いますが、火山だと言われている山がどれくらいあるかご存じですか。
 気象庁によると、現在日本にある火山活動をする可能性のある山、いわゆる活火山は111峰。
 中国地方では三瓶山と山口県の阿武火山群が指定されています。
 この中で、噴火が起きるかもしれないということで常時監視対象になっている山は50峰。
 こちらには三瓶山も阿武火山群も対象に入っていません。

阿武火山群の笠山


 本来は活火山は全て対象にすべきなのでしょうが、観測するための予算も火山学者も足りないことから地元自治体及びその火山のある管区気象台がリモートで監視しています。
 ただ、観測して予兆があっても、それが噴火の予兆なのかどうかという判断は難しく、正確な噴火予知ができていない現状があります。
 その結果起きたのが2014年の御嶽山噴火での登山者の犠牲ですが、そういった災害が起きても状況はあまり変わらず、現在に至っています。
 ちなみに、三瓶山や阿武火山群では、何か異常が起きると観測機材を持ってきて監視を始めるという体制になっていますが、実際にしっかりとした観測体制を取ることが可能かどうかはその時になってみないとわからないと思います。
 今回の阿蘇山の噴火では警戒レベル1で噴火が起きました。御嶽山の噴火でも噴火直前の警戒レベルは1。
 ただ、事前に火山性地震は観測されていますので、こういった山を登山するときには、噴火警戒情報だけに頼るのではなく、そこで何が起きているのかを調べた上で出かけることが重要だと思います。

避難訓練は観察者を置いてみよう

 避難訓練では、その施設の人が全員参加して行動することが大切だと思われていますが、実はそうではありません。
 全員が参加してしまうと、その避難訓練を客観的に評価できる人がいなくなり、その避難訓練のよかったところや悪かったところが客観的に判断できず、結局「無事に終わりました」という月並みな結果になってしまいます。
 避難訓練に直接参加せず、側から訓練の様子を見て評価する人がいると、避難訓練のいいところ悪いところが冷静に見えて次の訓練に反映することができます。
 当研究所でもそういった支援はしていますし結果報告書も作成していますが、無理に外部から観察者を入れなくても自分のところで誰かにその役をしてもらうことで、充分に役に立ちます。
 その時の視点は「本当にそれでいいのか?」「なぜそうなったのか?」「自分だったらどう動くだろうか?」というもの。
 例えば、避難訓練中に本当にけが人が出たとします。全員が訓練参加者になってしまうと、その記録は「怪我に対応した」で終わってしまいますが、観察者はそれだけではなく、「その怪我が起きた原因はなにか?」「本番でも発生する可能性はあるか?」「本番で起きたらどうすればその人の命が守れるか」といった視点で報告をしてもらうのです。
 それから、観察者がいると参加者は手が抜けません。特に管理職が観察者になっている場合、参加者は非常に真面目に取り組むことが多いですから、管理職の方には「自分がおらず、連絡もつかない」という想定にしてぜひ観察者になってほしいと思います。
 かつて、とある学校でその学校の避難訓練の見物をする機会がありました。その訓練では、学校から屋外の安全な場所へ避難するという訓練内容だったのですが、屋外への避難中、生徒の一人が溝に落ちて怪我をする事故を目撃してしまいました。
 どういう立場なのかはわかりませんが、近くで世間話をしながらそれを見ていた数名の教員は生徒に「保健室に行きなさい」の一言で特に何をするでもなし。
 見ていたこちらは「団子になって駆け足で避難行動していたため足下が見えなかった」ことや「溝蓋に隙間があって、そこに足が落ちてしまった」こと、「本番時に保健室が機能しているのか?」などさまざまな問題点や疑問点が出てきたのですが、それを指摘したところ、「溝蓋の管理はうちじゃない」や「怪我した人が悪い」「あんたに言われる筋合いはない」といった回答をいただきました。
 もしこれを見ていたのが筆者では無く、その学校の校長や教頭、もしくは教育委員会や保護者などであればこの教員達の反応は確実に変わったと思います。
 学校に限らず、組織として避難訓練するのであれば管理職が自分の目で見て何が問題なのかを洗い出したほうが効率がいいですから、訓練をする際には担当者に丸投げせず、ぜひ管理職の方が率先して観察者になっていただきたいと思います。
 客観的に見る目ができ、その意見が反映できるようになると、訓練の効率や効果は非常に高くなりますので、有意義な避難訓練がしっかりとできると思います。
 なぜか今の時期はさまざまな場所で避難訓練を行っています。余談になりますが、そういった過去の経緯から、当研究所では訓練計画の立案や実行だけでなく訓練観察の視点や訓練の改善点を考えるといった支援も行っていますので、興味のある方は一度ご相談いただければと思います。

避難訓練の意味

 一口に避難訓練と言ってもピンからキリまであります。
 日程と訓練の流れを作ってやったことにするところも居れば、避難訓練をやる週くらいは教えても、あとは全て抜き打ちで対応させるところまで千差万別。
 毎回同じ状況設定のところもあれば、毎回異なる状況設定でやるところもあります。
 これは訓練計画者の問題と言うよりも、その訓練を行うところの問題だと考えてください。
 よくある話ですが、何らかの施設で避難訓練をしたときにトラブルが起きると「なぜトラブルが出るような訓練をさせるのか」と騒ぎ出す人が必ずいます。
 本来避難訓練というのはトラブルが出て当たり前。出ない訓練はやる意味が無いくらいのものなのですが、そういう人は計画に従って完璧にこなすのがよい訓練だと考えていますので、ものすごい勢いで文句を言われます。
 本番環境では、どんなトラブルが起きるかわかりません。どんなトラブルが起きてもいいように、訓練では起こりうるであろうさまざまな想定を組み込んで実施した方がよいのですが、時間や手間、反対者との調整などでなかなかうまくいかないというのが実情でしょう。
 結局のところ、避難訓練がなぜ必要なのかが理解されないと、避難訓練の意味はあまりないなと感じています。もちろんやらないよりはやったほうが絶対にいいですから、どんな状態であれ避難訓練はきちんと行うべきなのですが、せっかくやるのであれば、予定調和では無く、いくつかのトラブルも組み込んでおくと、より実践的な訓練になるのではないかと思っています。
 最初は参加してもらう、それだけでも大切なことです。
 最終的には、参加者が自分の判断でより安全確実に自分の命を守れるようになることが目的ですから、もしあなたが避難計画者になったら、ちょっとだけ何かを仕込んでみると面白いのではないかなと思います。

防災工事の勘違い

 公共工事で行われる、例えば急傾斜対策工事や地すべり対策工事、砂防工事や防波堤、堰堤などを作る防災工事は、その工事を行うことにより周囲の被害を防ぐことができるようなイメージがあります。
 このイメージは完全な間違いというわけではないのですが、これらの工事も想定される雨量や水量といったものを前提に設計・施行されているため、その想定を超える雨や水量が出れば当然被害が発生します。
 「工事の施工完了=100%災害が起きない」というわけではないのです。
 もちろん工事をしていないよりはしてある方が災害が発生する確率は格段に下がりますから、やれればやったほうがいいのですが、やってあるから絶対に大丈夫とは考えないでください。
 どちらかというと、これらの施設はあなたが逃げる時間を作り出していると考えた方が正解です。
 土砂災害が起きる予兆を感じたら、まずはそこから逃げること。
 仮に施設が破損したとしても、あなたが逃げて命が守れたのであればその施設はきちんと目的を果たしていることになるのです。
 防災工事をしたから災害が起きないという勘違いはしないでください。
 あくまでも逃げる時間を稼ぐための施設と考えて、しっかりと情報を集め、早めに避難するようにしてくださいね。

渇きと排泄と睡眠

 災害時に備えた非常用持ち出し袋を準備しようということは、防災研修会などではかなりしっかりと言われていますが、あなたは準備ができていますか。
 市販品をそのまま使う人、一つ一つにこだわった自分だけのセットを作る人、市販品に自分で準備したものを合わせる人などいろんな人がいると思いますが、いざというときに作ろうとしても慌ててしまって思ったものができないと思いますので、あらかじめある程度のものは準備しておいた方がよさそうです。
 ところで、不幸にしてもしも身一つで逃げ出すことになったときにないと本当に困るものをいくつかご紹介しておきます。


 一つはのどの渇き。どこに行くにしても、喉の渇きはかなり苦しいものがあります。汎用性の高い水があると、気分的にまったく違うと思います。
 よく食べるものは絶対に必要という方がいますが、成人の場合、1週間程度食べなくてもなんとかなるそうです。でも、水分が摂取できないと、3日持たないとのこと。
 軍隊などのサバイバル訓練でも、水の確保はかなり上位に位置しています。それくらい、水は人間にとって必要なアイテムだと言えるでしょう。


 次は排泄。小用はなかなか我慢しつづけることが難しいものです。公衆トイレがあっても、水が流せないとすぐにトイレからあふれ出して大惨事になります。
 都会地ではそのあたりで隠れてこそっとというわけにいかないと思いますので、せめて小用に使える携帯トイレはあったほうがよさそうです。
 最後は枕。漫画などで寝ぼけて避難してきた人がよくまくらを持っているのが描かれることがありますが、実は枕は良質な睡眠にとって非常に重要な働きをしています。
 使い慣れたものでなくても、旅行用の空気枕で充分ですから、まくらは準備してきましょう。
 あとはある程度裾の長い外衣。防寒だけでなく、携帯トイレを使う際の目隠しやそのあたりで仮眠をとるとき、毛布の代わりに使うこともできます。
 最低これだけのアイテムがあれば、数日は身の安全が確保できると思います。
 非常用持ち出し袋をしっかり作っておくに越したことはありませんが、万が一に備えて、非常用持ち出し袋とは別に、これらのアイテムも身についておくと安心です。

災害対応は長期戦です

 災害が起きると、できる限り短時間で復旧・復興をしてそれまでの日常生活を取り戻そうと関わっている全ての人が昼夜を問わず限界まで頑張ってしまうものです。
 特に被災した自治体や避難所運営担当者、自治会長さんなどは本当に大変な思いをされることになると思います。
 ただ、災害復旧は長期戦だと腹をくくってかかった方がいいと思います。
 数日、数週間程度ならともかく、ちょっと大きな災害になると、対応は年単位になることもざらになってきています。
 そんな中で、最初から担当者が限界以上の仕事をしていては、そのうちに関係者全員が枕を並べて討ち死にということになりかねません。
 しっかりとした対応をしなければならないときこそ、しっかりとした休養と栄養補給が大事になるということを知っておいてください。
 とはいえ、そんな話を発災中や発災後すぐにしたところで、現実の対応に追われてとても考えられるものではありません。
 あらかじめ、しっかりとした計画を作って、その中で休養と栄養補給が取れるように手を打っておく必要があるのです。
 災害対応は長期戦です。短期決戦と長期戦では、おのずから戦い方が異なりますし、長期戦で戦っても担当者の士気が下がらないような仕掛けは、平時から作っておかないと絶対にうまく行きません。
 被災した自治体でなぜかよく管理職の方が言われる「気合いと根性」では災害対応は乗り切れません。特に災害対応を指揮すべき人はそのことを念頭に常に置いたうえで準備をしておいて欲しいと思います。

避難時の目線

 大規模災害の際には好むと好まざるとにかかわらず避難をする場合が出てきます。
 特に大きな地震では、耐震補強している建物であっても一時的に建物の外へ避難するケースも出てくると思います。
 その時に気をつけたいのが安全を確保するための目線です。
 避難する方向だけで無く、頭上や左右、そして足下を絶えず見ながら移動をしないと、余震で何かが落ちてきたり倒れてくることもあります。

吊り天井でよく使われる化粧板。一つ数kgあるので、当たるとひどい怪我をすることもある。


 例えば吊り天井が落ちてくると、少々頭を防護していたところで大けがをすることは目に見えていますから、よくみて危険がない場所を選んで移動をする必要があるわけです。
 そして、本番でも必要なことですから、地震からの避難訓練の時には、上、右左、そして下を常に意識して避難するようにします。
 周囲を見て、未然に危険を予測し、その上で行動すること。
 本番の避難だけで無く、普段行っている避難訓練でもそういった目線は忘れないようにしたいですね。

ペットと避難

 災害が起きるたびに問題になっているのがペットのことです。
 ペットがいるから避難しない、というケースはさすがに減ってきていると思いたいのですが、同行避難で一緒に普通の避難所に避難してくると、その場でトラブルが起きることがあります。
 例えば、吠える、騒ぐ、かみつくといったよくあるものから、動物アレルギーを持っている人がアレルギー反応を起こしたり、ペットの糞尿問題、えさや水、そもそもペットを見たくない人まで、人間同士以上にいろいろな問題が発生してきます。
 大規模な避難所になればなるほどトラブルになるものなので、本来は平時に解決しておかないといけない内容の問題ではあるのですが、まだまだ真剣に考えられていないというのが実情のようです。
 地域によっては、ペット付きの避難所とペットお断りの避難所にわけて指定したりもしているようですが、現状ではペットを区分けした場所で留置する程度の内容しか決まっていないようです。
 一つ言えるのは、災害からの避難ではペットのことは100%飼い主が対応しなくてはいけないということです、吠えたり騒いだりしている場合には、飼い主はそれに対処する義務がありましし、トイレやえさの問題も同じ。避難所運営側で準備する性格のものではありません。
 誤解を受けていることが多いのかもしれませんが、ペット同行避難が原則とされた理由は、あくまでも「ペットを理由にして避難しない人を出さない」ための措置であり、「ペットの命も積極的に守る」というようなものではありません。
 ペットのことは飼い主がきちんと世話しないといけませんし、できないのならそもそも飼ってはいけません。

ケージに入るサイズのペットはケージ内に置くのが基本。


 実は筆者の家でもかつて猫を飼っていたのですが、避難の際には猫は家に置いていくことを決めていました。2階建ての家でしたので、2階にえさや水、トイレを数日分準備して避難行動をとることで、ペットの命を守ることができますし、避難所でも迷惑をかけることはありません。
 幸いハザードマップでは最悪のケースでも二階までは浸からないという想定になっていましたのでこういう方法が採れましたが、そうでなければどうしただろうかと今でも考えることがあります。
 事前準備だけで100%なんとかなるわけではありませんが、ペットをどうやって避難させるのか、どこへ避難させるのかについて、飼い主は飼う前から真剣に考えておく必要があると思います。

行動を口に出して確認してみる

慌てているときや焦っているとき、どうかすると普段必ずしているはずの点検を怠ってしまうことがあります。
そして、そんなときに限って怠った点検から大問題が発生してしまいます。
普段の行動、分かっている行動でも、記憶や行動に頼っているだけでは問題が起きるということですね。
少しでも問題発生を抑えるためには、行動リストを作ったり、もう一人とコンビになって、お互いに手落ちがないか点検しあうといったことが大切になってきます。
ただ、災害時に常に手元に行動リストがあったり、自分以外の誰かと一緒に行動できるわけではありませんから、緊急時に一人でも身の安全を確保するための方法を知っておくことが重要です。
それは、「行動を声に出して確認する」という非常に単純なことです。移動や点検などをするのであれば、指さし確認をすると、声だけよりもミスが格段に減ります。
鉄道などに乗ると、運転手さんがよく声を出して指出しして次の行動の確認をしている光景を見ることがありますが、声を出し、指さし確認することで起こりうるミスを減らす行動をしているのです。
自分の行動を確認するために、声を出して行動を宣言すると身体が動かしやすくなります。できれば、自分の出した声が自分の耳で聞き取れるくらいの大きさ以上で出すことが重要です。
試しに、慌てているときに大きな声で「落ち着け!」と大声を出すことを試して見て下さい。周囲だけで無く、不思議なことにあなた自身も落ち着いているはずです。
また、その声を聞くことであなたの周りで被災し、思考停止した人が金縛りが溶けたように身を守る行動を起こすようになります。
災害に限らず、慌てているときや心配なときにはやるべき行動を声に出し、確認して行動を起こすようにすれば、あなたに発生するかもしれない二次災害を防ぐことができるようになると思います。